第31話 ヒュドロス

 ビエスタには一泊のつもりが三泊程してカルハの街に戻った。


 あの後マノンとクララとは結構仲良くなって、ビエスタ巡りだけじゃなくクエストに付き合ってみたりもした。

 ケルピーとかいう湖に棲む馬みてーな魚を倒せばブルーランクになれるっつーから一緒に行ったんだけどさぁ。

 くっせぇヌルヌルの馬?

 魚の顔した馬?

 後脚がなんで尾びれ?

 ドゥルンドゥルンのヌルヌルのビチャビチャで超強烈に臭くて吐いた。

 マノンとクララは必死で戦ってたけど、倒した後は泣いてたな。

 臭えしヌルヌルだし気持ち悪いしで、誰もクエスト受けたがらねーからポイントも高いみてーだ。


 洗浄魔法と魔法の洗剤が無けりゃしばらくは美味い飯は食えなかっただろーな。


 ま、ブルーランクになれて良かったなとお祝いしようと思ったんだけど、あの強烈な臭いに頭でもやられたのかな?

 役所から出てもなんか放心状態で困った。

 ま、仕方ねーからオレのスペシャルヒールをぶち込んでやったら復活したんだけどな。

 意識は覚醒すっけどちょっと間違えばめっちゃハイになるあまり使いたくねー魔法だけど……

 ちょっとイカレ気味の時はなんか意識がはっきりしていいみてーだな。

 これもまた人体実験で、あまり気分のいいもんじゃねーんだけど。


 お祝いした次の日にはまた会おうって約束してカルハに帰ったんだけどな。

 あの二人はなんかオレを特別扱いしなくて良かったなー、可愛かったし。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 あれから十日くらいか。

 クエストはボチボチ受けつつ精霊魔導訓練なんかもしたな。

 聖騎士は毎日訓練してるだろうしただクエストしてるだけじゃ差が開くような気もしたしな。


 あとは観光地になってる地底湖も観に行った。

 結構観光客が来てたし中入って左奥側にはあまり景観崩さないように作られた喫茶店みてーなのがあった。

 まあ真っ青で綺麗な地底湖見ながら食える軽食は最高だった。

 地底湖なんて日本で見れるのか?

 海外行かなきゃこんなすげーのは見れねーだろ。

 ほんとこれは見に来て良かった。


 この地底湖見に来た日は週末だったから、クイーストのテンクスに連絡して地底湖の映像をライブで流してもらった。

 他にもクエストでの討伐映像も記録してたのとか、ビエスタの街のトメット畑の映像なんかもその後流してもらった。

 なんつーの?

 気分はユーチューバーだったんだけど…… オレが今後やろうとしてる事は異世界ユーチューバーなんじゃねーかな。

 ナスカ達も映像を放映するからって事でテンション高めだったし、笑いながらノリノリで映像の紹介してた。




 そんで今日は鉄騎の奴らから聞いてた強え魔獣ってのを討伐に行く為、役所の所長から話を聞きに来たわけだ。


「いやはや君達月華にはこちらもお世話になってるからね。強い魔獣を倒したいと言ってもらえるなら是非ともお願いしたい。クエストとしては発注してなかったんだが今資料を持ってこよう」


 噂によればワニみてーなのを想像するんだけどどんなのだろなー。




 クエスト内容:ヒュドロス討伐

 場所:カルハ南西部アブサン湖

 報酬:15,000,000リラ

 注意事項:

 報告手段:魔石を回収

 難易度:




 難易度が空白になってるのは王国の調査が入ってない事が理由らしい。

 アブサン湖に生息してて体調がおよそ10メートルの巨大なワニだな。

 なんか絵も描かれててこれがまた結構上手い。

 注意事項も空白だけど何もわかってないんだろうな。

 属性とか水かもしんねーけど地上でも活動できるだろうし実際戦ってみねーとわかんねーな。

 ま、こっちは精霊魔導師にもなってるし何とかなるだろ。




 とりあえず弁当買ってアブサン湖に向かう。


 アブサン湖も昔は観光名所になってたらしいんだけど、最近じゃ魔獣が増えたとかで観光どころか立ち入り禁止区域になってる。

 魔獣が増えたくらいじゃ冒険者の討伐依頼とかで何とかなるんだろうけど、ヒュドロスとかいう10メートルを超える魔獣なんかが出てくりゃそうなるだろな。


 とりあえず立ち入り禁止になってるとこからは歩いて行く事にして、そこまでは飛行装備でひとっ飛び。




 上空から見るとかなりでけー湖があるんだけどあれがアブサン湖なんだろな。

 綺麗な緑色をした湖で、底まで透き通って見えるくらいなんだけど……


 あれか。


 めちゃくちゃでけーワニがいる。

 ワイバーンも翼の生えたでけーワニみたいなもんだけどそれより全然でけぇ。

 寝てんのか知らねーけど今は動いてねーみたいだ。


 他にもいるかもしんねーしちょっと湖の上空を飛びながら確認したけど、さっきのヒュドロスだけがバカみてーにでかい。

 他はそれほど害にはなんねーだろうしヒュドロス単体狙いでいいな。


 いきなり襲われても困るからちょっと離れた位置に着地して湖に向かって歩き出す。




 湖が見える位置まで出たけど、流石は元観光名所だけあって自然が作る美しさっての?

 すっげー綺麗な湖だ。

 緑色の湖なのに水が澄んでて泳いでる魚も見えるしな。

 水底も白い泥みたいで少し濁ってもまた綺麗に見える。


 すっげー綺麗な湖を見渡すんだけど、ヒュドロスのあの巨体は目障りだなー。

 綺麗な景観が台無しだもんな。

 水に体の下側半分浸けたまま寝てる。

 こっち風下だし気付かねーかもな。


「どんなもんかわかんねーし、まずは精霊魔法だけでやってみるか」


「すごく危険な予感がするんだが」


「あの巨体で危険じゃないはずないよね」


「なんか妙に脚が長くないかしら……」


 確かに危険なんだろうけどな。

 ま、何とかなるでしょ!




 いつも通り最初はカインの炎の矢。

 弓を引き絞って炎の矢を錬成したと同時にヒュドロスが目を開いた。

 カインが炎矢を放った瞬間に周囲の水を爆散させて矢を防いだ。

 やっぱ水属性の魔獣なのか水魔法使ってきやがる。


 こっちはオレの爆炎とカインの炎で二人が火属性なんだよなー。

 水相手だとちょっと不利かもしんねーな。

 エレナの風はまあいけるとしてナスカの雷は……

 水に雷なら効果がでかい!!


「ナスカ! あれが水属性魔獣なら雷魔法が効くはずだ!」


「それなら水に直接っ!!」


 右のダガーを薙いで雷兎を放つナスカ。

 雷兎はヒュドロスの手前に着水すると同時に放電し、水を伝って周囲10メートル程の範囲で赤雷が放出される。

 悲鳴をあげるヒュドロスと、水面に浮かび上がる複数の魚。

 どうやらヒュドロスにはそれ程ダメージは無さそうだ。


 顔を水面に浸けたヒュドロスが伸び上がると同時に水弾を放出してきたのを躱して、オレ達三人は走り出す。

 カインが炎矢で牽制しつつオレが中央、左にエレナ、右からはナスカがヒュドロスに向かう。

 オレは足裏爆破で一気に距離を詰めようと思ったんだけど、水に脚を取られて加速できねぇ。

 構わず水を漕ぎながらヒュドロスに……


「オ゛ババババババババババッッッ!!」


 そこにナスカも加速しようと雷を纏った状態で水に入ったところでオレは感電。

 攻撃するつもりの放電じゃねーにしてもすっげー痺れた。


「うわぁ!? 勇飛すまない!!」


「い゛い゛い゛ががら゛ら゛ら゛ら゛どどどどめ゛ででででででぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」


 オレがナスカの電流を浴びてる間に、エレナはヒュドロスまで跳躍して風の斬撃を放つ。

 カインの炎矢もエレナに合わせて放たれ、直撃すると思った瞬間にヒュドロスは右後方へと飛んで回避。

 あのデカさで超がつく程に俊敏な動き。

 どう考えても水属性だけじゃあんな動きはできねぇ。


 その後長い脚を屈めて今度はオレに飛び掛かって来やがった!!

 ちょっ!?

 今痺れて動けねーんだけど!?


 斬!!


 っとエレナの風の斬撃がまたヒュドロスに向かってったけど今度は左に跳躍して回避。

 いいからナスカは早く放電やめろや!!


「ナスカ!! 精霊が言う事聞かないなら魔力を切りなさい!!」


「ぐぬぅ…… なんで思い通りに精霊魔法が発動できないんだ……」


 ナスカの意思じゃなくて精霊のせいだった。

 ある程度はこっちの意思に沿って魔法を発動してくれるんだけど、たまにこんな感じで言う事聞かねー時があるみてーなんだよ。


 やっと痺れから解放されて身構える。

 着水してまたこっちに飛び掛かって来たヒュドロスをぶん殴ろうと思うんだけど前脚がなげぇ。

 オレはヒュドロスの右爪を真上から受けて、ナスカが跳躍したところに左爪の薙ぎ払い、エレナには口内から水弾放って弾き飛ばした。

 カインの炎矢はいくつか刺さってはいるんだけど、すぐに水で消化されてそれ程ダメージは無さそうだ。


 足元が泥濘んで踏ん張れねーしやべーな。

 ん? っつか脚抜けなくね!?

 右爪の重さに耐えてるオレの正面からヒュドロスが噛み付きにきた。


「レツ!! 爆炎弾!!」


 右肩に掴まってるサラマンダーがレツ。

 レツの口内から火球を放ってヒュドロスの鼻っ柱で爆破。

 そこそこの威力があるから衝撃でヒュドロスも止まるし右爪の圧も緩む。

 そこを爆破して払い除ける。


 しかし脚が抜けねー!!

 とりあえずヒュドロスとの距離を稼ぎてーからレツとゴウの爆炎弾を撃ちまくる。

 この爆炎弾はオレの中距離魔法だな。

 オレが展開できる魔力範囲内、最大で5メートルくらいまでなら拳と同等威力での爆破が可能だ。


 さて、距離が取れたところでなんで脚が抜けねーのか確認しねーと……

 ヒュドロスはとりあえずナスカ達に任せてとこ。

 まず泥に泥濘んで抜けねーのはわかるんだけどな、それなら力ずくで抜こうと思えば抜けるはず。

 でも力入れても抜けねーのはなんか魔法でも使ってんじゃねーのかな。

 水に手を突っ込んで足元の泥を確認してみるとあら不思議。

 泥がガチガチに固まってんじゃん。

 コンクリートみてーな感じになってる。

 って事はヒュドロスは水属性だけじゃなく地属性も使えるって事か。

 あの巨体であの動きなら重力操作もしてるだろうし魔獣にしては規格外の強さだな。


 オレのレツとゴウはサラマンダーのせいか水には弱えし、水に浸かった脚だと爆破もできねぇ。

 ま、それでもやりようはあるか。

 爆破で水吹っ飛ばしてから足元破壊すりゃ何とかなるだろ。

 っつーわけで水を爆散させてー、固まった泥を破壊する!!

 あとはまた固められないようにジャンプして飛行装備で飛べば問題ねーな。

 レガースと下衣に着いたコンクリ擬きは爆破で破壊。




 あいつらはどうなってるかな。


 二人とも飛行装備で戦ってるしカインは真上から炎矢の連射か。

 常に水から出てる背中の方が炎のダメージは通りやすいだろうけど表皮が固そうだ。

 しっかしヒュドロスのデカさは厄介だな。

 ナスカもエレナも長え前足に苦戦してる。


 ヒュドロスの脚も長えとはいえ3メートル程度だし、ナスカとエレナ相手にしてっから背中はがら空きだ。

 現にカインも背中に炎矢射ち込んでるわけだしな。

 じゃあオレは絨毯爆撃でもしてやるか。


 ヒュドロスに気付かれねーよーに背後から回り込んでレツとゴウの爆炎弾乱射。


 ヒュドロスの背中で絨毯爆撃が起こって「ゴォォォォォォォォォ!!」って悲鳴あげてるし、結構いい感じにダメージが入っただろ。

 ヒュドロスが苦しんで動きを止めたところにエレナの風の斬撃とナスカの雷の刃が決まった。

 とはいえオレの爆撃でも表皮が剥がれねーし、エレナの斬撃では少し切れた程度。

 ナスカの雷撃も多少痺れさせた程度にしかならねぇ。


 ま、精霊魔法だけじゃ厳しい相手なのかもしれねーな。

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