第29話 村人もいいな
カルハの街に来て最初の朝。
いつも通り早起きなオレは屋上テラスに出てコーヒーもらってくつろぐ。
ちょっと寒くなってきたし薄暗い感じの朝だけどな。
まあこんな朝もまた気分はいいもんだ。
ナスカ達はまだ起きて来ねーけどあと三十分もすりゃ起きるだろ。
「なあ、この辺で観光する場所ってどっかにねーかな?」
オレはこの宿の従業員さんに話しかける。
「それでしたらカルハ地底湖と、この時期ですと隣街のトメット畑など綺麗でよろしいかと」
「地底湖はなんか綺麗な気がするんだけどトメット畑? 畑が綺麗なのか?」
「はい。トメットは紫色の野菜なのですが、葉や茎までもが全てが紫色の野菜なのです。その葉が鮮やかな紫色になりとても美しい野菜畑ですよ」
なるほど。
野菜畑でも綺麗に見えるんならそりゃ見といた方がいいな。
しかもこの時期ならって事だし逆に言えば今しか見れねーって事だ。
クエストで隣街に行く時にでも見てくるか。
朝飯食ったら役所に向かう。
役所のクエストボードに貼り出されてる中から選んだのは、やっぱお手軽な討伐クエスト。
討伐をお手軽なって言うと大概の奴に変な目で見られるけど、敵を探して倒して魔石を回収したら終わりだろ?
超お手軽じゃん。
でも討伐クエストってのは命の危険が伴うもんだからお手軽なもんではないらしいってのが常識だ。
採取クエストとかもまあ簡単か。
依頼書にある植物やら鉱石なんかを集めてくればいいだけだから簡単なんだけどな。
報酬がめちゃ安いからできればやりたくねぇ。
あとは護衛任務とかもあるな。
依頼者に同行して他の街とかに行くんだけど、その辺で魔獣に襲われたら倒せばいい。
その魔獣の報告もこっちの報酬になるからちょっとだけお得なんだけど、依頼者の飯やらテントの準備やらその辺もこっちで受け持つのが面倒だな。
他には調査とかもあるか。
なんか危険な噂ってのは何処からともなく出てくるもんだけど、火のないところに煙は立たないみたいに何かしら問題があるわけだ。
それを調査する任務が役所からの依頼で出されるわけだ。
直接戦ったりしなくていいから、戦闘に自信のねー冒険者なんかはいいんじゃねーかな。
そんなわけでオレ達はお手軽な討伐クエスト。
とりあえず魔獣探してぶん殴ればいいから簡単よ。
クエスト内容:アルミラージ討伐
場所:カルハ北西部パラヤン村
報酬:一体につき30,000リラ
注意事項:
報告手段:魔石を回収
難易度:7
って事でこんなクエスト。
役所の職員さんに聞いたら巨大な一角ウサギみたいな魔獣らしい。
村の方では畑が食い荒らされて結構被害が出てるらしいし、追い払おうとした村人も数人が大怪我したって言ってた。
それと本来の難易度は6程度なんだけど、異常繁殖って事で難易度は一つ引き上げられて7なんだと。
あと難易度の割に報酬少ねーから誰も受ける奴はいないらしい。
これはオレ達向きのいいクエストだと思うね。
そんじゃさっそく行きますか!
弁当屋はさっき鉄騎の奴らが居たし、場所聞いて買いに行った。
弁当屋が何件も連なってたから手前の店で買う事にした。
この街に二、三週間程度いるつもりだし順番に食ってみるからとりあえず手前側からって事だな。
距離的には歩きで一時間、およそ4キロってとこかな?
そんな遠くねーし歩いて向かう事にした。
三時間とか掛かるんならダルいし飛行装備で飛んでいくんだけどな。
地図見ながら歩いて行くけど、街道を北に進んで途中の横道に逸れて村に向かうみてーだな。
街道は人通りもちょっとはあるから魔獣も狩られてるんだろう、全然襲われる事もねぇ。
昨日はハーピー二体居たけど今日はそれもねーし。
1キロくらい進んだら横道があるからそっちに向かう。
そこそこ拓けた道だけどここ最近は通った跡はなさそうだ。
草だの枯葉だのが道に落ちてるけど足跡も車輪の跡もねーしな。
って事はアルミラージの大量繁殖のせいで街に卸す野菜とか片っ端からやられてる可能性がある。
だからって下手に抵抗して死人とか出てなきゃいいけどなー。
街道を逸れてから四十分ってとこで畑が見えてきた。
すげー広いけど全部が畑だ。
その広い畑がかなり食い荒らされてんな。
こっから見えるだけでもでけーウサギが五匹はいる。
この辺の野菜はもう売り物になんねーだろうからとりあえず村に向かうか。
途中で倒れた荷車とかが道にあったから起こして引いて行く。
そのまま食い荒らされた畑を見ながら先に進んでくと木の柵で囲まれた畑が見えてきた。
まあオレ達からは見えるんだけどアルミラージの視線からは見えねーくらいの高さになってる。
ただあのデカウサギがジャンプしたら余裕でこの柵は飛び越えるだろうな。
ま、あっち側にまだ食える野菜があるうちはこっちに来ねーだろうけど。
ここまでに見えたアルミラージは十五匹か。
全部倒せば45万リラ。
安いクエストっては言うけどそこそこ稼げるから全然いいな。
それにウサギって事は穴掘って隠れてる奴もいるだろうし、もっと増える可能性もある。
結構稼げそうだけどここの村人は支払えるのか?
まあ払えなくてもいいけどさ。
柵で囲まれた畑の道を進んでくと村が見えてきた。
左右の山に囲まれた村だから何件あるかはわかんねーけど数えれるだけでも八軒はある。
この規模の畑を管理するのに八軒なんて事はねーだろうし最低でも倍はあるだろ。
最初に会った村人一号は四十歳くらいのおばちゃん。
「こんちわ。アルミラージ討伐に来た冒険者だけど詳しい話が聞きたい。どこ行けばいいんだ?」
「おお…… ついに来てくれたのかい!? それじゃ村長さんとこ行けば話を聞かせてくれるよ! そこの角を曲がったとこにある大きな家だ!」
「そっか、ありがとうおばちゃん」
「頑張っておくれよー」
手を振るおばちゃんと別れてそこの角を曲がるっと。
確かに大きい家だけど左右にでかい木があるせいで見えなかっただけだ。
まあとりあえず家の玄関に入って声をあげる。
「こんちわー! 役所から討伐クエスト受けて来ましたー!」
「はーい」って奥の方から女の人の声とおっちゃんのなんか言う声が聞こえてくる。
ちょっと待ってるとおっちゃんじゃなくて爺ちゃんだった。
女の人は孫か?
オレ達と同じくらいの若い村娘。
お世辞にも美人ってわけじゃねーけど、うん、美人じゃねーな。
「わしは村長のフォルンだ。あんた方が冒険者さんかい? 随分と若いんだなぁ」
「おう。このパーティーのリーダーの勇飛だ。よろしくな爺ちゃん」
カイン達も挨拶してフォルンさんの話を聞く。
最初にアルミラージが出たのは二ヶ月前。
村人が人数集めて追い払えば多少の野菜被害で済んだらしい。
そうこうしているうちに二匹目、一ヶ月前くらいには三匹目って増え始めて、半月前には今の数になったらしい。
確認できてる数は二十四匹。
穴に潜ったりするからもしかしたら違うかもって言ってたけど何匹でもいいや。
いればいただけ稼げるわけだし。
それに役所で聞いたけどアルミラージの皮と角って結構いい値段するらしい。
この村も被害にあったんだし、村人にはそれを回収させてちょっとした金にすればいいんじゃねーかな。
それに肉も食えるって言うから何匹か養殖すりゃいいんじゃね?
たぶん子ウサギもいるだろ。
さっきニワトリみてーな魔鳥もいたから、テイムの魔石ももしかしたらあるはず。
とりあえず小せえアルミラージは捕獲だな。
村長さんが役所に報告してくれりゃ魔石も必要ねーからどうだろね。
「そりゃありがたい! テイムの魔石もあるし、全部倒してくれりゃ素材剥いで肉も食える! 役所にも一緒に向かうから報告も行ける! 是非とも頼むよ勇飛君!」
「ついでに街に卸す野菜も用意しなよ。ここしばらく野菜を出荷できなかったんだろ?」
「何から何まで気を使わせてすまんなぁ。ではお言葉に甘えてそうさせてもらおうか」
フォルンさんと孫娘は一緒に他の家に行って、街に行く人を募ったり野菜の準備したりと作業を開始した。
あとでアルミラージの解体には村人何人か来るだろうし、オレ達はさっそく討伐に行こう。
「勇飛ってさ。面倒くさいとか言うわりに世話焼きだよね。だから護衛でも何でもしっかりやれそうだと思うんだけど」
「やだよ面倒くせー。今回は村人が全部やってくれると考えての提案をしたまでだ。オレは何もしねーよ」
「怪我人はどうするんだ?」
「それはサービスで治してやる。腕捥げてるとかは無理だけどな」
「勇飛の回復受けれるだけでもとんでもないサービスじゃない。王国の一流魔法医以上なんだし」
「闇魔法医だけどな」
なんかいろいろ言ってくるけど別にオレは思った事を言ってるだけだし、好き勝手にやってるだけ。
カインとかなんかいい話っぽく持っていこうとするんだけど、別に結果が良けりゃその方がいいじゃん。
喜んでもらえりゃこっちもいい気分で仕事が終われるわけだしな。
アルミラージがいる畑に到着。
食肉にすんのと皮や角を素材にするって言うから爆破は無しだな。
まあこのクラスの魔獣なら強化だけで倒せるだろ。
逃げられると困るしナスカは右、カインが奥、エレナは左で包囲して逃げられねーようにする。
まずは一匹目。
一気に距離を詰めてぶん殴っ…… 避けられた。
めちゃくちゃジャンプが早えし高え。
けど着地は?
着地するところに一気に距離を詰めて今度こそぶん殴る。
ミスリルガントレットでの一撃で頭蓋骨は砕けた。
一応角は折れてねーし大丈夫だろ。
エレナとナスカはたぶん首筋狙って一撃で仕留めるだろうし、カインは炎の弓矢で一瞬で倒すだろうから大丈夫だ。
オレはただ殴るだけ。
この広い畑もすでにグチャグチャに踏み荒らされてっからオレ達も気にせず駆け回った。
ちょっと悪い気もするけどアルミラージを逃がすわけにいかねーしな。
およそ三十分程度で討伐は終了。
数は二十五匹と生まれて間もねーアルミラージが四匹。
村人もオレ達の討伐を見てたらしくて終わったらすぐに駆け付けてくれた。
子ウサギみてーなアルミラージにテイムの魔石を食わせると、ちょっと酔っ払ったような感じでフラフラになった。
これでちょっと餌付けして慣らしていけば人を襲ったり悪さしたりもしなくなるらしい。
その四匹は家畜として飼われる事になって、いずれは食われると……
まあ弱肉強食だしペットでもねぇ。
食用に育てるんだから気にしたらダメだな。
村人の男連中が集まってアルミラージを解体、血抜きとかいろいろ見てたけど、あまり気分のいいもんじゃねーな。
ちょっと飯が不味くなりそうだ。
村で寝てるアルミラージ被害者は五人いて、角に腹を刺されて怪我した奴が一番酷くて感染症も引き起こしてた。
これなら村に来てすぐ回復してやるんだったと思ったけどまあ仕方ない。
三十分くらいしっかり回復してやったから、あとは痛みが引くまでは安静にしとけばいい。
他の四人もそれ程酷くはねーけど骨折だったり裂傷だったりなかなか治らない怪我してた。
怪我の酷い部分だけ集中的に回復して、そのまま範囲の回復でほぼ完治。
こっちも痛みが引くまでは大人しくしてもらおう。
回復してるうちに野菜の方も荷車に積み終わったらしくて、村長フォルンさんと村人三人、荷車をカトブレバスに三台引かせてカルハの街に向かった。
荷車の荷台の空きスペースに座ってみたけど、今までこんな経験もなかったからちょっと楽しかった。
なんて言うか村人のこんな生活も良いのかもしんねーな。
役所ではフォルンさんに報告してもらって、しっかりと報酬を受け取った。
そんで荷車に乗せて来た野菜は村人達が売り捌いてたんだけど、これがまたパラヤン村の野菜ってので結構人気があって飛ぶように売れてたな。
それとアルミラージの角と毛皮。
素材屋に持ち込んだら綺麗な素材だってんで報酬と同額受け取ってたのには驚いた。
今後魔獣倒したらすぐに魔石に還すのは勿体ねー気がしてきた。
んでも剥ぐのはちょっと気分悪かったしまあいいか。
誰か剥ぐ人いたら素材は譲ってやろう。
フォルンさん達は野菜が粗方売れたら村にまた帰って行った。
そんな村人達が商売するとこも見てたけどこんな仕事もまた悪くねーなって思えた。
なんだ?
オレちょっと病んでるのか?
冒険者として疲れて…… んん、いや。
今まであんま気にしてなかった事を見るようになったから面白そうに見えるのかも。
これもまた旅に出てオレの中で変わった事なのかもしんねーな。
いい傾向だ。
このままいろんなもん見てこの世界を目一杯楽しんでやる。
よーし、まずは今夜の飯は何だー?
うめーもん持って来ーい!!
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