第24話 驚く事だらけ
精霊魔導師になったオレ達は、その後朱王さんの邸に招待されていろいろと行動を共にした。
車に乗せてもらったんだけどなに?
いきなり映画観始めるしお菓子やら炭酸飲料やら好き勝手しすぎじゃね!?
ナスカ達も映画に興奮しまくってたしな。
朱王さんの邸もとんでもねー。
ヴォッヂさんの邸よりもデカい邸にも驚いたけど、何故か魔族まで居るとか意味わかんねー。
それにヴォッヂさんの前の聖騎士長カミンさん?
そんな人が執事やってるっておかしいだろ!!
メイドしてた二人も元聖騎士と元大魔導師の美女。
なんでそんなとんでもねー人達が執事やメイドしてんのか意味わかんねー。
朱王さんの邸では地球を思い出すような料理の数々にでっけープール。
毎晩映画にポップコーンやら酒やら贅沢三昧。
まじ何なんだこの人って思った。
千尋達から朱王さんの事を聞いてみたけど、ドロップ作りに各国の施設経営、宝石店や美容院の各店舗、クリムゾンの部隊やら工場なんかもある。それらのデータを全て頭の中で処理して全ての国の部下達に指示出してるとか言ってた。
とんでもねースペックだなと感心したし、クリムゾンの規模にも驚いた。
その上千尋達より強えとか……
その後は千尋達と一緒に難易度10クエスト、ワイバーン討伐に行ったんだけど、やっぱあいつらめちゃくちゃ強かった。
この武器を強化する前のオレ達なら一体相手でも勝てるか怪しいワイバーンをあっさり倒しやがる。
それもこの六人とチビっ子の全員が化け物って呼んでいいくらいの強さだった。
強化されたオレ達がなんとか勝てるくらいの魔獣をあっさり倒すんだもんな。
そんで倒し終わって聞かされたのが、魔獣の強さには難易度10より上があるとか……
オレが倒した一体もそれに当たるらしいんだけど、千尋や蒼真が倒したワイバーンは倍近いデカさだったからな。
あれなら難易度10より上があるって言われても納得するしかねーな。
この驚きの連続はまだまだ続くんだよな。
今度はこのワイバーンから剥ぎ取った素材で飛行装備を作るって言うんだよ。
ただ装備するだけで翼を生やして空を飛べるって便利なアイテムだ。
これが完成する前にオレ達は呼び出しくらって後で受け取ったんだけどな。
後は遊園地にも行って遊んだ。
なんか朱王さんが提案した遊園地に、クイースト王国の研究者達独自のスパイスを加えられた不思議な遊園地だった。
かなり無茶なジェットコースターとか、フリーフォールとか言って何故か空に撃ち上げられたりとかな。
いろいろ微妙なのとこもあったけどあれはあれで面白かった。
あとは朱王さん、千尋、蒼真、オレの共同開発。
まあオレは口出しただけなんだけどな。
リルフォンっつー電話? 連絡機能のある特殊アイテムを作ったんだよ。
通話にテレビ通話、メールと時計、写真に動画、他にもいろいろと機能を充実させたすんげーアイテム。
最初は画面ありのミスリル板で作ったんだけど、気に入らねーってんで作り変えた。
普通気に入らねーとか思っても画面を無くすとか考えるか?
しかも全機能を脳内で考えるだけで操作するとかぶっ飛んでるだろ!
しかも映像なんて脳内視野?
脳内に別に視野を作る事で三次元的な映像を作り出すとかまじか!?
もうテレビ通話が会って話すのと変わんねーじゃん!
最後にそれは必要か? って思ったけど戦闘力ならぬ魔力量測定機能。
相手が練ってる魔力量と自分の総魔力量を表示できるんだって言ってたけど作れるんだもんな……
もうなんでもありじゃん……
リルフォンが完成した後、オレ達は街からの呼び出しでデンゼルに戻る事になった。
車で送ってもらったらデンゼルの街は思ったより近いのな。
王国から三十分程度で着いたし。
所長の話ではデンゼル南部山中、以前オークが住んでいた地域では頻繁に調査が行われてるらしいくて、そこから更に数日南下した山の中にハイオークの群れを発見したらしい。
めっちゃ遠いみたいだけど、以前のオーク・ギガンテスみたいなのが生まれたら大変だしな。
クエストとしては発注してないみたいだけど、一体につき50万リラで請け負う事にした。
「何日も山の中を歩きか……」
「朱王さんの邸で贅沢三昧した後だと辛いね」
「仕方ないわよ。何が出るかわからないんじゃ私達が行くしかないもの」
「まあそうだな。あまり気乗りしねーけど行くか!」
弁当買ってデンゼルから南下して山の中に入った。
今となっては懐かしいオレがまだ一人の頃、ナスカ達が審査員として同行したオークの住処だ。
ここは相変わらずオーク討伐依頼が出されるんだけどどっから来てんのかわからん。
オレ達が知らない何かがあるんだろうけど、月に十体程度の討伐はされてるようだ。
まあそんな山の中を進んで目的地を目指すんだけど、人が掻き分けながら進んだような跡がところどころにある。
もし賢い魔獣がいたらこれを頼りに街に近づいて来たりしねーのかな……
まあ余程強え魔獣じゃねー限りは大丈夫だろうけど。
およそ五日。
山道を歩き続けてようやくたどり着いたハイオークが住んでるって場所。
ただ目印に沿って歩き進むだけだから聞いてたより早く着いたみたいだな。
川沿いに結構な数のオークとハイオークが居るのが確認できた。
ハイオークってのはオークが進化した魔獣で、体の大きさは二倍近くなる。
そんで厄介なのがハイオークってのは際限なく成長するらしいんだよ。
だから長い年月生き続けてるハイオークはそれ相応にでけーんだ。
オーク・ギガンテスもハイオークが何百年もかけて成長した結果なんじゃねーかなって思うけど、見た目が違うからあれはまた別の進化だろう。
もしかしたらギガンテス擬きが居るかも知んねーから簡単に調査。
エレナの精霊にちょっと見てきてもらおう。
「ウェンディ。ここから見える大きなオークがいるでしょ?」
ウェンディって……
確かにそんな感じの見た目だな。
エレナは一番でけーハイオークを指差しながら精霊に伝えてる。
「あれより大きなハイオークがいないか見てきてくれる? もしいたら何体いたか教えて欲しいの」
コクコクと頷くウェンディは見ててちょっと和む。
姿を薄くして風みたいにハイオークの群れに向かって流れてった。
「精霊ってすごいな。こんな人間の言う事も当たり前に理解するとは……」
「私に似てウェンディは賢いもの。これも千尋達に強化してもらったおかげよね」
「僕のティモも以前より活発になったんだよ。言葉も理解してるみたいで頭も良くなったみたい」
千尋達は擬似魔剣化って言ってたよな……
魔剣ってのは魔力を溜め込める剣みたいなんだけど、強化じゃなく実際に魔剣を作ってるって事は千尋達の武器はオレ達のこれより強いって事だろ。
オレの魔力練度の高さから作ろうかって聞かれたけど断っちまった。
ただでそんなとんでもねーもん貰えねーよなぁ。
数分でウェンディが戻って来て、全身使ってジェスチャーを始めた。
「んん? いなかったの?」
エレナが聞いたら頷いた。
そんならあとは殴り込むだけだなって思ったところで千尋から着信がきた。
脳内で通話を意識すると……
『やっほー。飛行装備完成したよー』
「おお、ついに完成したのか! あーでも今クエスト中なんだよ。デンゼルに帰るとしたら明後日くらいになりそうなんだ」
『じゃあまた連絡するねー。頑張ってね!』
うーん、今すぐ欲しいけどまずはオークを倒すか。
全員精霊を顕現させて魔力を練る。
この魔力に色が付くのはかっこいいけど隠れてる時はだめだな。
自分がここに居ますよって言ってるようなもんだ。
向こうからオークの叫び声が聞こえるし、見つかったんだろうな。
「よーし、殲滅するぞ。久し振りに私のビビとギギに活躍してもらおう」
「カインは森林火災とか出しちゃだめよ?」
「ティモが上手くやってくれるはずだよ」
ナスカの精霊ヴォルトはビビとギギって名前らしい。
雷はビビビビッと来るからビビ、食らった魔獣はギギギギッ言うからギギらしい。
カインのティモは確か過去の英雄だったかなんかって聞いた気がする。
まあオレも必要だから名前付けたんだけどな。
千尋達の真似して漢字一文字から……
「レツ、ゴウ、行くぞ」
名付けした後やっちまったと思ったけどまあいいや。
駆け寄って来るオークの群れに向かってオレ達も駆け出す。
何故かカインもダガー持って走って来た。
お前は弓だろが!!
ヴォルトの雷を纏ったナスカは超速え。
オレ達が駆け出してすぐに群れの中で戦いだした。
雷撃が怖えな、オークの頭から赤い放電が突き抜けてる。
続くエレナも風を纏ってるからすっげー速え。
風の刃で一薙ぎでオークが三体一瞬で崩れ落ちたぞ。
オレも負けらんねー!
いつもの感じでぶん殴る!
……
やべぇ。
オークの体があまり抵抗なく爆散する。
出力抑えて戦わねーと体がそのまま流れて隙だらけになっちまうな。
出力調整しながら足を地面に付けたまま殴るようにしたら安定した。
腰も入るし拳がいつも以上に速え。
余裕があるしカインを見た。
カインはダガーで無双してる。
逆手に持ったダガーでオークの首をザクザク切って炎で焼く。
弓無くても近接でも強えな。
オークが蹂躙される事でハイオークも動き出した。
4メートルくらいの超巨大な奴もいるけどイケるだろ。
オレに向かって来たハイオーク四体をぶん殴る。
以前の半分の魔力、威力は以前以上の爆破でも耐えやがった。
難易度で考えれば9くらいはあるんじゃねーか?
オークの群れとハイオーク四体。
普通に考えたら相当ヤバいけど、今は全然不安はねーな。
魔力量をいつものに戻してぶん殴るだけだ。
強化の高いハイオークでも耐えれねー。
オレを甘く見てガードしなかったハイオークの一体目が膝から崩れ落ちた。
オーク共を爆破しながらハイオークを迎え討つ。
まずは得物を破壊してから殴り掛かるんだけど、やっぱ腕の強化は高いらしくてガードされると耐えられる。
だから範囲魔力を乗せて殴ってやったらその腕も表面が弾けた。
そのまま殴り続けて二体目も撃破。
三体目からは下級魔法陣ファイアを発動。
両腕に掴まってるレツとゴウが、拳側に頭を向けて掴まり直す。
もしかしたらと思って拳をハイオークに向けて爆破を発動するとブレスが吐き出された。
炎の弾丸がハイオークに当たった瞬間に爆破。
さっきまでの爆破と同等の威力がある。
確か遠距離魔法は威力が落ちるはずなんだけどな。
ガードした腕に燃え移った炎を払うハイオークに駆け寄って、その腕ごと爆破してやったらあっさり倒せた。
威力がやっぱすげぇ。
四体目も精霊魔導ならほぼ瞬殺。
オークの残りも蹴散らしてオレの分は片付いた。
およそ五十体ってとこかな。
エレナも下級魔法陣を発動して戦ってる。
ハイオーク相手にもしっかりガードの隙間狙って切り裂くから問題なく倒せるみたいだ。
カインは今度は弓を構えて、精霊魔導で炎の矢を射る。
ハイオークも耐えきれねー炎の矢が頭を貫いて一瞬で決めてく。
弓の威力もあって普通の遠距離魔法より遥かに速えからな。
そしてナスカのヴォルトはズルいな。
ガードしようが電流で数秒麻痺させるから、隙だらけのところを一突きして終わり。
人型の魔獣相手だと雷撃はすっげー強いかもしんねーな。
一番でけーハイオークにはちょっと苦戦してたな。
雷撃で麻痺させてもほんと一瞬だけで、とどめの一撃が刺せねーみたいだ。
結局上級魔法陣ボルテクスを発動して一瞬で決めてたけど。
デカくなった雷兎がナスカの斬撃に合わせて、ハイオークの体内から雷撃で焼き尽くす感じ。
これも離れた位置からの斬撃で発動可能。
振り上げたダガーに合わせて飛び上がった雷兎がハイオークに落ちた。
その後数分で全てのオーク、ハイオークも倒し終わって魔石の回収をした。
オークが百七十三体とハイオークが十体。
相当稼げたな。
一休みして帰ろうと思ったところでまた千尋から着信があって、飛行装備を届けてくれるそうだ。
リルフォンの位置情報をオンにすればオレ達の位置がわかるっつーからオンにした。
念じただけでその機能が出てくるからすげー便利。
こっちからも千尋達の位置が把握できるんだけど、矢印の向きがオレが向いている方向だな。
ナスカ達も位置情報オンにして脳内の三次元視野で千尋達の位置を確認しながら到着を待つ。
オレ達が歩いて移動してもそれ程意味はなさそうなくらい飛行装備は速いみたいだ。
距離も出るからわかるんだけど、千尋達との距離は直線距離で60キロ程。
王国とデンゼルで30キロくらいだし、山道を五日歩いたところで大した距離じゃねー。
一時間半くらいで着くかもな。
待つ事一時間…… どころか三十分で来たんだけど。
飛行装備が楽しくて全速力で飛んで来たんだとか。
「超楽しいよっ!!」
「最高だぞ! 勇飛さんも早く!」
「お、おう。ちょっと待ってくれ!」
オレが受け取った飛行装備はA級素材で作ってくれたらしいんだけど、全部緑色にしてもらった。
そんで頼んではいなかったんだけど金色の装飾がすっげーかっこいい。
オレ好みに結構派手に仕上げられてて最高!
ナスカのは深紅の飛行装備に白銀の装飾。
裾側の花柄装飾がなんとも綺麗で可愛らしい。
綺麗だけど男勝りなナスカは、こういった花柄の物は持つ事は今までなかったな。
深紅という落ち着いた雰囲気の装備のおかげもあって花柄の装飾もとても綺麗で似合ってる。
エレナは純白の飛行装備で金色と銀色の装飾だ。
ところどころに緑色の装飾も加えられてて丁度いいアクセントになってる。
千尋の装備も純白だからってちょっと試しに付け替えたりもしてみてたけど、やっぱ自分用に作ってもらった装備の方が可愛いって満足してた。
カインは天色の飛行装備で、装備と少し色味に違いを出してる。
インナーになる装備は藍色と暗め、ミスリルの胸当てが白銀だし、バランスをとって少し明るめの色を選んだそうだ。
装飾は白銀で結構派手目。
千尋がカインの装備とバランスを取って装飾を多めにしたらしい。
三人の分は扱い易いC級素材で作ってあるそうだ。
そんでいざ飛んで帰ろうかってなったらオレだけ飛べなかった……
A級素材扱いづれぇ!!
まぁ蒼真のアドバイスと魔石のイメージを転送してもらった事もあって、二十分程度で翼を展開出来るようになったけど。
翼を広げて風を巻き起こすイメージで揚力を得る。
そして重力の魔石で質量を減らしつつ、翼を羽ばたかせる事で舞い上がる……
山の木々よりも高く舞い上がったオレは感動した。
研究所でもちょっと飛ばせてもらったけど、自分の飛行装備で空を舞う。
これ程の感動はそうそう得られるもんじゃねーわ。
空中浮揚もイメージのままに出来るし、翼を羽ばたかせれば風を切って空を舞う事が出来る。
風が気持ちいいな。
もう十八時前になってるけど日はまだ高いし景色が綺麗だ。
「なあ! 飛行装備、最っ高だな!!」
「こんなにも自由に飛び回れるなんて夢にも思わなかったぞ!」
「私ちょっと涙が出てきたわよ!」
「あはっ。僕も泣きたいくらい感動してるよ!」
「千尋! 蒼真! ミリー! アイリ! これありがとな! すっげー嬉しいわっ!」
「まあほとんど朱王さんのおかげだけどねー」
「あの人なんでもありだからな」
「ぶっはっ! ほんとそうだな!」
「じゃあオレ達王国に戻るからー!」
「おう! ありがとなっ!」
「「「ありがとうみんな!!」」」
千尋達は王国へと戻っていき、オレ達は報告もあるしデンゼルに戻っていく。
オレ達はすっげーいい出会いをしたかもしんねー。
このアースガルドに来て三年、初めてオレと同じ地球の奴らと知り合ったと思ったら全てが驚く事ばっかだ。
デンゼルを守る為に冒険者としてオレ達も頑張ってきたんだけどな。
実際デンゼルは安全な街っつーか強え街になってるし、オレ達が頑張った甲斐もあった。
でも……
オレ達が出来る事は他にもあるんじゃねーかな。
はっきり言ってオレ達は世界を知らねー。
もっといろんな国や街があって、困ってる人も大勢いるかもしんねー。
滅ぼされちまった街もあるかもしんねー。
これ程までに力を手にしたオレ達はこのままでいいのか?
もっと世界に目を向けるべきなんじゃねーかな……
いや、オレ一人悩んでもしょうがねーな。
今夜みんなに相談してみよう。
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