第22話 ゴールドランク冒険者とその後
それからしばらくはデンゼルの街の復興作業をみんなで頑張った。
この世界での建築を始めて見たけど、やっぱ魔法ってすげーよな。
外壁なんかは石造りの家が多いんだけど、それは全て魔法で組み上げられるんだ。
石の隙間をなんか特殊な粘土を使って埋めるんだけど、それは地属性魔法で埋めてくんだ。
乾燥したらガチガチに固まるからコンクリートみたいなもんかな?
床や内装、家具なんかは木で作られるんだけどこれも魔法使ったりして作られる。
生木を切り出してきて火属性魔法と風属性魔法で強制乾燥。
切るのも風魔法で寸断するんだよ。
ミスリルの刃がついた幅広な工具使って綺麗に切るんだ。
なんか魔法の電動ノコギリ? みたいな感じだな。
ちょっと遅せーけどすげーなって思った。
ナスカやエレナ、カインは全魔法使えるから役に立ってたけど、オレは爆破魔法だけだしな。
作ったそばから破壊しちまうからずっと荷物運びだ。
まあこの鍛えた体は重いもん運ぶのに適してるっちゃ適してるんだけどね。
あとは一日の作業が終わったら全員の体力を回復してやるのもオレの仕事だ。
範囲の魔力でまとめて十人くらいまではいけるし一分もありゃ体力は戻る。
全員の回復もそんなに時間はかからねーんだ。
怪我した奴はオレが回復してもいいんだけど基本的には魔法医の仕事。
オレの回復は言い方次第じゃ闇医者みたいなもんだ。
ただ回復すりゃいいってもんじゃないしな。
オレ達が帰って来て三日目には王国からの使者が来て褒賞金が役所に届けられた。
めっちゃ所長に感謝されたけど、すでにクエストの報酬は役所から受け取ってるしな。
国からあの夜の戦いに褒賞があるとしたらこの街で受け取るべきだろ。
そのうちの一部は死んでいった冒険者達の家族の元に届けられた。
そんで称号【東の勇者】を形で表す物として首飾りも届けられていた。
これは慰霊碑に埋め込んでもらう事にした。
街の復興がある程度進んだ頃にちょとした事件が起こった。
作業をしていた冒険者が知らねー冒険者達に絡まれて袋叩きにされたんだよ。
駆けつけてみたらそこにいたのは派手な装備をした十人以上の冒険者パーティーとミッキーメンバー。
うちの冒険者を庇って剣を抜いてるミッシェルがいた。
「これはどういう事だ? ミッシェル、説明しろよ」
「勇飛様! 彼らはクイースト王国のゴールドランクパーティー。ベリルの者達だ! 新たにゴールドランク冒険者となった月華のメンバーに話があると言うから一緒に来たんだが…… こいつが突然攻撃をした。すまない」
剣を構えてベリルの一人と向き合いながら答えた。
フレデリカ達も他の奴らと対峙している。
「そうか。こいつらゴールドか。で? オレ達になんか用かよおっさん。オレが月華の竜リーダー、鈴谷勇飛だ。話があるなら聞くぜ」
「お前らが最近調子に乗ってるパーティーか。巷じゃクイースト王国最強とか呼ばれてるが俺から見りゃあまだまだ雑魚だ。だがゴールドまで上り詰めたんならまぁまぁ強えんだろ? だから今日はよぉ、お前らのパーティーから何人か引き抜こうかと思ってここに来たんだよ」
すっげームカつく顔してんなー。
名乗んねーしよぉ。
ナスカとエレナを攫ってくつもりか?
気持ち悪い顔しやがって。
まあ一応確認の為に後ろを振り向いた。
「私は絶対に嫌だぞ」
「私も嫌よ」
「僕は対象じゃないみたい」
「だそうだ。帰ってくれっ……」
って奴の方を向き直った瞬間殴られた。
だから殴られた勢いのまま奴の後頭部に後ろ回し蹴りを食らわせてやった。
「痛えな。どういうつもりだ? 事と場合によってはテメーら潰すぞ」
街の連中も集まって来たしこいつらが暴れたら危険だな。
っつか街の連中は何期待してるんだ?
オレが今にも戦いそうなのがそんなに楽しみか!?
でももしやり合う事になるんなら瞬殺してやる。
あ、瞬殺っても殺さないけど!
「うう…… ぐうぅ…… テ、テメー。許さねぇ」
起き上がって両手剣を構えるこの…… 誰か。
ミスリル製の一級品の剣らしくてその作りも綺麗なもんだ。
炎を纏って殺意を剥き出しにしてんな。
他の奴らもオレに向かって構え出した。
やっぱ普通の冒険者は複数で挑むのが常識なのか?
人間相手でもそうするのは卑怯なんじゃないのか?
でもな……
「ゴールドも大した事はなさそうだ。オレ一人で充分だしお前ら手を出すなよ」
「勇飛ズルいぞ!」
なんでナスカは戦いたがるんだろう。
「じゃあ今オレと向き合ってるこいつらだけ」
なんか言ってる間に殺意が増したな。
魔力が高まってるみたいだし本気で来るのか?
魔法も込められてる事だし一瞬で決める。
爆破加速で一瞬で詰め寄って右回し蹴りで一人目を沈める。
隣にいるリーダーくせーこいつはムカつくから後回し。
その奥の奴を左の振り打ちで一発で叩きのめす。
もう一人は前蹴りで呼吸もできねーだろ。
全部爆破加速でのただの打撃技だ。
「舐めんなぁぁぁぁあ!!」
右袈裟に振り下ろしてきたこの誰か知らん奴の斬撃を左に躱す。
ゴールドランクのリーダーらしくそこそこに速い。
でも同じ両手剣のエレナの斬撃よりおせーし大振りで隙だらけ。
回避ついでに腹に蹴り入れといた。
蹲る…… この…… 誰か!
めんどくせ、もうこいつがどこの誰でもいいや。
ゴールドパーティーのリーダーでゴリでいい。
涎を垂らしながらも立ち上がったゴリが駆け出したから、右逆袈裟に振るわれる前にこっちから間合いを詰めて顔面をぶん殴る。
なんかイジメみたいで嫌な気分になってきた。
「てめー!! ぶっ殺されてーのかぁ!!?」
取り巻きの連中も魔力を練って剣を構えだした。
その後ろの魔術師っぽい奴らも呪文を詠唱して何やら魔法の準備中。
じゃあオレも……
範囲魔力を両拳に込めて威嚇の意味を込めて爆破。
!!!!!!
打ち付けてもねーのに地面も抉るこの威力。
人間なら耐えきれねー程の威力だ。
「魔法ぶっ放す気ならこっちも容赦しねーぞ」
ドスを効かせて凄んでみる。
爆破の音で呪文を中断したベリルのメンバーは魔力を霧散させた。
これで一先ず引いてくれるんじゃないかと思ったんだけどナスカが大人しくしてるはずもなく。
「次は私の番だろう。さぁ次の奴出て来い!」
武器も持たずに前に出るナスカ。
ここ数日は復興作業をしていた為、武器は宿に置いたままなのでわからなくもないが。
「私の相手も用意してくれる? なんかその人達私の事も舐めてるみたいだし」
「じゃあ僕もかな。誰でもいいよ」
えっと……
うちのパーティーってこんなに好戦的だっけ?
相手は武器使うのに素手で戦いだした月華メンバー。
ナスカは綺麗な右の振り打ちで一撃で沈め、エレナは顎下を裏拳で打ち抜いてからの後ろ回し蹴り。
カインは一瞬で間合いを詰めて、全身を使ってのボディーブローで10メートル以上も殴り飛ばす。
なんかめちゃくちゃ強くねーか?
「お前らいつの間にそんな戦い覚えたんだ?」
「勇飛の真似だ」
頷くカインとエレナもオレの真似らしい。
見ただけであのキレは出ねーだろ。
こっそり訓練してんのかもしんない。
残るはミッキーと対峙してる五人か。
「パーティー名はベリルだっけか、どうする? こいつらまだ物足りねーみたいから相手してくか?」
「い、いや! 勘弁してくれ!」
「オレ達が悪かった……」
一人、二人と武器を手放して両手をあげると他の三人も同じく諦めた。
「こっちは喧嘩売られた上に仲間が怪我させられたんだ。詫びになんか置いてけ」
ちょっとオレが悪人みたいだけどまあいいや。
ボコられたタラスとアシラに賠償金払ってもらおうか。
そんで受け取ったのは金の入った袋で100万リラくらいはあるみたいだ。
あれ? カツアゲしたみてーじゃん。
とりあえずタラス達に渡してオレは悪くないフリしよ。
「じゃあこいつら連れて王国に帰れ。言っとくが、次来たらこんなもんじゃ済まさねーからな」
「ああ。もう手は出さねーよ……」
五人は仲間を引き摺って帰って行った。
あーゆー新参者を潰しに来て返り討ちにされるとかかっこ悪いな。
ベリルの連中が見えなくなったところでデンゼルの冒険者共は盛大に盛り上がる。
まあ自分らより格上の奴らが喧嘩売りに来て、自分の仲間が返り討ちにしたんなら盛り上がるのはわかる。
けどお前らアイツらに勝てねーからな?
「ナスカ!! 私達にさっきの戦い方教えてくれないか!?」
ナスカのパンチも腰が入ってて完璧だったしな。
「エレナ!! 私達友達よね!?」
エレナの回し蹴りも綺麗にキマってたよな。
「カイン…… 様! カイン様もお願いします!!」
おぉ、カインまで様付けになった。
まあオレから見てもかっこいいからなこいつ。
しかも素手でも強えとか…… さらにモテるようになるんだろうな。
「勇飛様!! お願いできますか!?」
「んん、まあいいけど。じゃあお前らもデンゼル復興手伝っていけよ」
「「「「「オレにもぉぉお!!」」」」」
ってデンゼルの奴らも全員で言うから鍛えてやる事にした。
復興作業もあるし、作業が終わったら全員ゴレンで筋トレ、朝は作業前に戦闘訓練。
あとは自主練してもらうって事でいいだろ。
その後はタラスとアシラを回復して復興作業に戻った。
まあ後で呼び出しくらって所長に怒られたけどな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
復興作業は一ヶ月程度で終わったし、ミッキーやデンゼルの冒険者達の訓練も毎日やったおかげで、みんなかなり強くなったと思う。
ゴレンも武器は売れねーけどジムには毎日多くの人が訪れるようになった事で手狭になった。
仕方ねーから建物の拡張を冒険者全員で勝手にやってナッシュに怒られた。
何故かオレだけ。
意味わからん。
まあ鍛えてる冒険者達を見て大目に見てくれたけど。
この復興作業と訓練の日々のおかげもあって、全員が次々とランクアップしていった。
みんなすげーいい体してるしな。
力だけならオレより強い奴がゴロゴロいる街だ。
なんて言うか
あの化け物戦以降少なくなった冒険者達でも、クエスト達成が早くなったことで回転率もあがり、王国よりも安全な街になった。
クエストが少ない事で、王国への出稼ぎに行く冒険者も増えた。
でもそのまま王国に留まるデンゼルの冒険者は居ないみたいで、半月もすればデンゼルに戻って来る。
王国にいたら弱くなるからってゴレンに鍛えに戻るらしい。
それに駆け出し冒険者なんかもデンゼルに訓練しに来るようになってたな。
筋トレとナッシュの実戦訓練が駆け出し冒険者には必要なんだと。
あらゆる武器での基本的な訓練をしてくれるから人気も高いらしい。
商売の方もかなり儲かってるみたいだ。
オレ達もよく王国に遊びに行った。
ヴォッヂさんから新しく聖騎士や大魔導師になった奴らなんかを紹介してもらったり、貴族街を案内してもらったりといろいろ世話んなった。
あの戦いの記録を観せてもらいに行くついでに国王様にも謁見。
オレが詫びると国王様は笑って許してくれた。
この国王様なら復興中のこのクイースト王国もいい国にしてくれると思う。
あの記録を見て以降ナスカがちょっと距離を置くようになったのが気になるけど。
それと、飲みに連れてってくれって約束もヴォッヂさんは覚えててくれて、綺麗な姉ちゃんがたくさんいる店に連れてってくれた。
最初は冷たい視線を送ってきたナスカやエレナだったけど、店の姉ちゃん達と美容や今人気のオシャレアイテムなんかの話で盛り上がって楽しんでた。
オレとカインはもちろんめっちゃ楽しんだけど。
ゴールドランクとして初めて難易度10のクエストを受注した時は失敗した。
準備も何もなく挑んで死にかけたもんな。
グレンデル討伐に行ったんだけど、かなり大柄な獣の顔した人型の魔獣ってだけで余裕だろって思ったらめちゃくちゃ強かった。
オーク・ギガンテス程じゃないけど、速えし力は強えし魔法まで使ってくる。
それが複数で襲ってくるもんだからとりあえず逃げた。
冒険者が誰もが非常用に持ってる臭煙玉ってやつを火属性魔法で燃やして逃げたんだ。
めっちゃ臭えし煙もすげぇ。
オレは持ってなかったけど便利だなって思った。
その次の日には一体ずつ狩る為に、誘き寄せながら戦ってなんとかクエストを達成。
難易度10クエストには情報も集めて、その後からはしっかり準備してからやる事にした。
そうそう、ミッキーメンバーもゴールドランク冒険者に昇格したのはあれから半年くらいだったかな?
鍛えた体術と剣技に魔法をしっかりと訓練して、すっげー強くなってゴールドランクに昇格してた。
審査に同行した聖騎士も、自分達に劣らない実力だと認めるくらいだから相当なもんだ。
そのミッキーのゴールドランク昇格祝いをした際に驚きの発表があったんだよな……
カインとナスカが「付き合ってます!」って言い出した時には吹き出した。
ナスカは最初オレに好意があったみたいなんだけど、あの記録の魔石を見て自分じゃ不釣り合いだと感じたらしい。
そんでしばらくは悩んでたみたいだけど、目の前にいるカインを見たらかっこいい。
ああ、オレから見てもこいつはかっこいい。
ナスカはすぐ顔や態度に出るからカインも気付いたそうだ。
カインの方は何気にナスカの事をいいなと思ってたらしくて、カインが告白してカップル成立。
この二人なら別れなさそうだしまあいいかって思ったけどな。
オレの中ではやっぱりナスカは大事な仲間で、恋人にするかってなればちょっと違う感じ。
心境としては複雑だったけど二人を祝福した。
仲睦まじい二人を見て何となく気まずくなったオレとエレナ。
オレ達も付き合ってみるかって冗談で言ったら殴られた。
エレナ的にもオレとは不釣り合いとか言いやがる。
まあいいけど…… 不釣り合いってなんだろな。
冗談ついでにエレナの恋愛話を聞いてみたら、意外にも聖騎士レイドが気になるらしい。
うん、聖騎士レイド…… あのイケメンか!!
ミッキーメンバーもオレを崇拝? してるらしくて付き合うのは無理とか言われた。
なんていうか…… 悲しくなってきた。
お陰様でオレも王国の女の子と何人か付き合ってみたりもしたんだけどな。
あまり長続きしなくてだめだった。
なんかこう、ちょっと違うっていうか、あのー、ほら、あれだよ、わかんねぇ?
今後オレにもいい彼女できるといいなー。
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