第10話 ミスリル武器
あれ? 今日もナスカは早起きだな。
いつものようにオレも早起きなのだが。
昨日と同じく他愛もない話をしてカインやエレナを待つ。
今日はナスカからこの世界の話を聞いた。
「なぁ、この世界の人間はあんな派手な髪色で生まれたりするのか?」
他の冒険者、黄緑色の髪をした女性を見ながら聞いてみる。
「あぁ、あれか。ドロップとかいう魔法のペンダントで、髪色と目の色を変えれるアイテムだ。ヒザキという店で買えるらしい」
この街にはその店が無いそうだが、クイースト王国まで行けばあるらしい。
装備と合わせて髪色を変えるのもありかもしれない。
オレもそのうち買いに行こう。
オレは王国に行ったら買うと言うと、ナスカもその時は自分も買うとの事。
全員自分の装備やら髪色やらで個性を出すのも良いな。
カインとエレナが起きてきてその事を話すと、何故か驚いていた。
「ナスカは髪色変えるとかありえないとか言ってたじゃない! 私は興味あったけど全否定されたから買うに買えなかったわよ!!」
ついでに怒っていた。
そんなに高くないらしいので、遠くないうち買いに行こう。
それにしても店名がヒザキ? 氷崎か緋咲? なんか日本人の店っぽい気がするな。
買いに行ったら聞いてみよう。
さて今日はどんなクエストなんだろう。
役所の受付でサーシャを待つ。
「あの…… ですね。ユーヒさんはナスカさん達のパーティーなんですから自分達でクエストを決めるんですよ?」
そ、そうなのか!? 今初めて知ったんだが……
蹌踉めきながらナスカの方を振り返ると、当たり前だろと言われてしまった。
じゃあ今日はどうしよう。クエストボードを見ながら考える。
うーん。どれにしよう。たくさんあって悩んでしまうな。
「まさかとは思うが…… まだ字が読めないのか?」
ナスカが問うてくる。
「そ、そんなわけねーし!」
つい目を逸らしてしまったが特に意味はない。
ナスカが疑いの眼差しを向けてくるが気にせずクエストを選ぶ。
「これなんかどうかな?」
カインが選んだクエスト。
クエスト内容:カトブレパス捕獲
場所:デンゼル南部草原
報酬:重量次第
注意事項:食肉用
報告手段:捕獲
難易度:5
さすがはカイン。良いクエストを選ぶ。
これは以前オレも受けた事があるクエストで結構儲かる。
運搬という問題があるが、これには業者さんが同行してくれる。
ちなみにカトブレパスを爆破して食肉部分を破壊してしまうと報酬はもらえない。
オレがどうやって倒すかって?
カトブレパスの武器でもある頭をぶん殴るだけ。
爆破を打ち込んでも破裂しないからすごく硬いと思う。
通常はカトブレパスの突進を躱して脚を切り、とどめに首を切るのがセオリーらしい。
無事に決まったクエストをすぐに受注する。
ナスカが睨んでいるのはなんでだろう。
よくワカラナイから華麗にスルーだ。
受注して肉の加工業者さんが来るまで待っている。
到着した業者さんは巨大な竜車に乗って役所へ来た。
捕獲条件や報酬の説明を受け、行きは竜車の荷車に乗って南部草原に向かう。
南部草原に着くと竜車を降り、歩きでカトブレパスの元に向かう。
竜車が近寄ると逃げてしまう為歩きで向かうわけだ。
捕獲後は合図を送り、双眼鏡でこちらを見ている御者さんが竜車で回収に来る。
まずは竜車の御者さんがカトブレパスを双眼鏡で探す。
この御者さんは以前もお世話になっているのでオレの戦い方も知っている。
合図を送る必要も無く、オレがカトブレパスの近くまで行くとすぐに向かって来るのだ。
まず二頭見つけたとの事で、指差す方に向かう。
1キロほどの距離を草を掻き分けて進む。
オレに気付いたカトブレパスは蹄を地面に打ち付けて威嚇をする。
やや首の長い牛のようなモンスター。
大きくなると食用にはならず、難易度10の巨大モンスターになるらしい。
クイースト王国やデンゼル周辺では定期的な討伐や捕獲により、大型のカトブレパスは存在しない。
今目の前にいるこのカトブレパスも、地球で見た牛よりも大きいのに子供のモンスターらしい。
グモオオオオオ!! と吠えてこちらに二頭向かって来る。
グッと構えて正拳突きで爆破を放つ。
ミスリルガントレットを装備しているので少し手加減した。
頭蓋骨が割れたのだろう。
ビクビクと痙攣して倒れ込んだ。
もう一頭はカインがミスリルの矢を放つ。
矢がカトブレパスの左目に刺さり、蹌踉めいたところにナスカが右目を突き刺し、エレナが首を切り上げる。
すぐにやって来た竜車の荷車に、紐で括ったカトブレパスを釣車で引き摺り込む。
まずは二頭。
「今日はすごく体のキレがいいな」
「バランスも取りやすいわ」
「弓の狙いも安定しやすくなったよ」
というわけで筋トレ効果も出ているらしい。
これを繰り返して午前は八頭のカトブレパスを捕獲。
一度街に戻って昼食をとり、午後も同じように狩りに出た。
午後は九頭仕留めたところで終了した。
これ以上積んだら荷車が壊れそうだ。
肉の加工場に向かい、その重さを測定。
役所に戻って報酬を計算されて支払われる。
本日の報酬は296万リラ。
またサーシャがいつもの呆れ顔をしている。
今日はナスカに対してもそんな表情だ。
できれば笑顔で出迎えて欲しいんだがね。
今日は取り分は…… 全部貯金で良いと言われた。
昨日の収入をまだ使ってないのでまぁそれでも良いんだろう。
その後はゴレンで筋トレ。
今日も昨日と同じメニューでやってもらう。
女の子二人には筋肉のつき方を見て、ゴツくならないように調整しようと思う。
まぁカインもゴツくなってほしくないなと思うので調整しよう。
オレは…… まぁ…… うん。いい体!
今週はオレの生活に合わせるって事だし、あと三日間は毎日クエストだ。
そして五日後にはミスリルダガーが買えるだけのお金が貯まった。
オレの回復もあってか、毎日クエストに出ても平気との事。
カインは後衛だったせいか華奢な体躯だったのだが、この五日間で筋肉もついて体重も随分と増えた。
ナスカとエレナは、速筋を二日間だけ鍛えて三日目からは遅筋、インナーマッスルを鍛えていった。
お陰でスタイルが良くなったと二人も満足そうだ。
場所はゴレン。
実はナッシュに頼んで装備を仕入れてもらっている。
装備の事でナッシュといろいろと相談した結果、ナスカの左右のダガーを下取りするという事で値段を提示してもらった。
購入するのは金色の装飾が入ったミスリルダガー左右セットだ。
シンプルな装飾ながら、緑色の宝石の埋め込まれたダガーはなかなかに見事な作りだ。
そしてナッシュと武器職人との交渉で、カインのミスリル弓を注文、エレナのミスリル両手直剣をローンで購入した。
カインのミスリル弓は、武器職人ライオスの手によるものだ。
オレのアイデアを盛り込んだ特注品。
弓を魔木で作り、持ち手にミスリルの装飾を組み込む。
弓弦もミスリル糸を編んだ特別製とし、魔木との接続部もミスリルの装飾品を取り付けた。
魔木はとんでもない高級素材だが、ライオスがオレのアイデアを買うと言って魔弓を作ってくれた。
アイデアを気に入ったらしく、寝る間を惜しんで作ってくれたそうだ。
ライオスの試作品だがその性能は高く、矢を必要としない。
弓のミスリル部分から流し込んだ魔力は魔木に溜め込まれ、ミスリルの弓弦を引き絞る事で魔力線が生成される。
そして作り出した魔力線を矢とする事で、魔法を直接射出する事を可能とした。
ちなみにカインは遠距離魔法を得意とする為、弓矢を使わず遠くのモンスターに魔法を放つ事もできる。
しかし魔法の速度は矢に比べてかなり遅い。魔法の速度は時速100キロも出ないのに対し、弓矢で放つ速度であれば時速200キロを超える。
さらに魔木は精霊を宿す事ができる。
カインは火の精霊サラマンダーと契約し、炎の矢を放つ事が可能となった。
エレナの購入するミスリル剣は店売りの高級品。
持っていたキメラ武器は下取り。
さすがに一級品を買う事は出来ないが、装飾された直剣は二級品の3,500万リラ。
それでもゴレンの最上級品だ。
一級品ともなれば6千万リラを超える商品なのでデンゼルの街には売ってなかった。
代金を支払い、手元に残ったのが90万リラ。
一日休みを挟んで、来週からのクエストは少しペースが落ちるだろうと予想する。
理由は稼げそうなクエストを中心に受注した為なのだが。
それでもこのパーティーであれば月に1千万は余裕で稼げるだろう。
ローンも月に1千万リラにしてもらった。
ひとまずオレ達の装備も整った。
今後は焦らずのんびりと異世界生活を送ろうと思う。
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あとがき
【ヒーラーでも強くなれますか?~奴隷にはなりたくない!~】は元が短編だった為、今後は週に一度の更新となりますのでご了承ください。
感想、評価など頂けましたら今後の参考とさせて頂きます。
今後は本編【器用さんと頑張り屋さんは異世界へ~魔剣の正しい作り方~】の投稿を開始します。
興味がある方は是非読んでみてください。
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