第23話 闇

R.Xは屋敷へ入り、歓迎されている司を見た。いつもの禁欲的で暗い、葬列の中にいるような服を脱ぎ捨てて、今は彼に望まれた、華麗で背徳的な深紅の衣装を身につけて寝室へ導かれている。

「君が白い服を着ているところも見て見たいのだが。」

「私の葬式に来れば見られるでしょう。」

四十八、九の五十代を目前にした男はスリットの入った衣装から覗く白い足を凝視していた。

「そんな頃には君は爺さんになって、俺は死んでいるかもしれない。」

「そうなる前に、その手で殺してみればいい。」

R.Xは燃えるような欲望のために、美しい青年が抱えている髑髏に気付かない男を滑稽だと思った。彼がどんなに体でもって青年を犯そうが、その心を救うこともなければ、汚すこともできないことを、同時に哀れに思った。

「それにしてもご無沙汰だったね。なにかいいことでもあったのかな。」

「ええ。」

「君は本当に悪い子だ。」

はたから見ていて面白いくらいの無関心だった。恐らくはそれが心地よくて、こんな真似をしているのだろう。R.Xは司を哀れとは思わない代わり、心のどこかで八月一日へ失望し、吹けば飛ぶような怒りを持っていた。

「君を救うのに必要なのは友人でも世間の了解でもない。・・・ただ、あの青年は、生きているだけでよかった。それがすなわち、君が自分の行為をある程度正当化できる唯一の道だったのだから。」

どれほど髪が乱れ体に恍惚が訪れようと、耳に下がる青い玉も、のしかかる魂の重みも、消え去ることはなく彼を蝕んでいた。譫言のようにお願いと繰り返すその先に来る言葉が、決して菓子のような甘い言葉でないことくらい、R.Xにはわかっていた。



夜が更けはじめるころ、司は漸く解放されて屋敷を出た。B.Eを帰らせてしまったかと憂鬱そうな顔をする司に、門に寄りかかっていたR.Xが軽く手を挙げた。

「やあ。」

「君がやったんだね。」

呆れたように笑う青年の服を変えてやり、まだ赤みの残る顔を見て、これからはこんなことをしないように忠告すべきか考えてから、自分の仕事ではないことに気づいてやめた。

さすがに疲れたらしい司は、眠りそうなほど覚束ない足取りで細い歩道を歩き、前を歩くR.Xの裾を少し引っ張った。

「私はいつ死ぬだろうね?」

その声に突然歩みを止めたR.Xに、軽くぶつかった。振り向いて自分を見下ろす瞳は美しい金色で、知れず笑みが漏れた。誰にも同情しないだろう悪魔はしかし、誰よりも自分のことを見ている気がした。

「それは人には委ねられていない。・・・司、しかしお前は死後も苦しむことになる。わかっているのか。」

「君がいじめるんだろ?別に構わないよ。」

「体に刻まれる痛みなど比ではない。いや、そうでなくとも神の元へ行けないということは・・・」

青年は平手打ちを食らわせる振りをして、片手を頰に添えた。言葉を続けるなと言いたげに、その親指でR.Xの唇を撫でた。

「一緒にいてくれたのは神でも仏でもない。支えになったのは僅かな信仰と、君の存在だ。神にすがってみたところで、この現世に生きる君らほどにはなにも感じないだろう。」

知っていることと、感じることは少し違うと言おうとしてやめた。彼は地獄にも繋がらない蜘蛛の糸に縋っている。それが切れることがあったならば、一体彼はどこへ落ちてゆくのだろう。



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