第1話E「We are M.O.N.S.T.E.R」
綾side
「・・・何なんですか、貴方達は」
予想通りの質問だ。確かに、見た目同い年に見える人がいきなり化物のような姿になったらこうも聞きたくなるだろう。だから私はこう答える。
「言ったでしょう?私達はゴーストバスターのようなものって。つまりそういうことだよ」
「そんな答えじゃ納得いきません。あの姿は何なんですか!」
「まあまあ。そこら辺もちゃんと説明するからとりあえず家の中に入ってて。事後処理とかしなきゃいけないから」
「・・・わかりました。でも、ちゃんと教えてください。怪異とは、貴方達とはなんなのかをーーー」
「そこは約束するよ。私は君の選択を尊重するからね」
その答えに納得したのか、楠木さんは家に入って行った。
「紫もありがとね」
「何、僕の獲物を教えてくれたのだからむしろ感謝してるよ。それじゃあ、また」
「うん、また。次会う時はどうなるかはわからないけど」
「それもそうだね。けれど、破壊しか方法が無い時以外僕は譲らないよ」
「それはこっちだって同じさ」
そうお互いに言葉を交わし、紫は自分の家へ、私は私の家へ帰っていく。
さて、楠木さんに事情を説明しなきゃな。
side out
楠木side
如月さんが帰ってきた。けれど、小泉さんの姿がなかった。
「小泉さんはどうしたんですか?」
「帰った」
え。
「別にあいつがいてもいなくても大差ないし、そこまで馴れ合う気もないしね」
あの二人は仲が悪いのだろうか。そうは見えなかったけど。
「さて、怪異と私達の説明だったね」
そう如月さんが言ったので、私も聞く姿勢を整える。
「まず怪異についてだけど、さっき話したことでほぼ説明し尽くしてる」
「怪異とは、都市伝説の中にある一部の真実達。それは間違いない。そして、その真実は例外なく人間に敵意を持っている。それがどんな形をしていても人間に敵意ないし害意がある、それが怪異に唯一共通する特徴」
「逆に言えば、人間に敵意が無いなら、どんなに訳がわからないものでも怪異じゃない」
人間に敵意が無いとはどういうことだろうか?それに、敵意があろうとなかろうと、怪異は怪異では無いのだろうか?そこについて聞いてみると、
「あはは、確かにそう思うよね。でもね、人間に敵意がないけど訳がわからないものって沢山あるんだ」
「例えば、私達がさっき使ったコレとかね」
そう言って如月さんが出したのは、さっきの戦いで使っていた注射器のようなものだった。鎖が描かれたものと、弓のようなものが描かれたものだ。
「これは?」
「これは『グレイプニル』と『フェイルノート』。どっちも神話や伝承に登場する武具や道具の名前さ」
「これが敵意や害意のない訳がわからないものだね」
「『グレイプニル』や『フェイルノート』は神話や伝説上の物だけど、確かに存在していたんだ」
存在していた?つまり今は無いということなのだろうか。
「けれど、永い時の試練の中で、使い手が出てこないまま、埋もれていった結果、僅かなかけらしか残らなかった」
コイツらはそのかけらから得たデータをもとに再現したものさ、と如月さんは言う。
「これが私達が怪異に対する定義をする理由。わかったかな?」
確かに、こう言うのがあるなら、定義が必要だろう。私は頷く。しかし、それを知るとますます如月さん達は何者なのか、という疑問にたどり着く。如月さんはそもそも鎖が生えてたり、腕が弓になっていたような・・・
「次に私達についてだね。私達は、一言で言えば、改造人間かな?」
はい?如月さんから聞いた言葉が理解できない。改造、人間?すると、如月さんがあの奇妙な装置を取り出す
「私達は、この『ゲーンドライバー』によって自分の遺伝子を改造して、あの化物の姿になっている。つまり、トランスジェニック生命体、に近い存在なのさ。そしてこの力だけが、怪異を無力化、破壊する唯一の手段だ」
如月さんのそんな言葉が私の脳を揺さぶる。トランスジェニック生命体。なぜそんなものに如月さん達はなっているのだろう。
「私達・・・というか、私と妹、そして紫は、怪異に両親を殺されているんだ」
再び脳を揺さぶられる。両親を、殺された。そんな言葉に私はどこか聞くんじゃなかったと後悔していた。
「私は両親を殺されたから怪異を憎んでいる。だから怪異を全て破壊し尽くしたい」
「紫も怪異に両親を殺されてる。けれどアイツは、『怪異があれば、両親は殺されなかったかもしれない』と思っている。だから怪異を収集したがっている」
「私達は、怪異に両親を殺された後、知り合った。とある存在に三人共引き取られてね」
「そいつが、私達に『ゲーンドライバー』を始めとする様々な力を与えた」
「そいつは私達にこう言った。『君達の主義主張は正直興味がない。ただ君達が怪異を無力化してくれるのなら、私が君達を援助しよう』ってね」
「両親を亡くした私達はそいつの援助を受けながら、生活している。私達が化物になって怪異を倒すのは、怨みもあるけど、生活のためでもあるんだ」
「・・・どうしてその人は、如月さん達を選んだんですか?」
「さあね。わからないし正直興味もない」
ただ、と如月さんは続ける。
「アイツのお陰で、妹は学校に行けてるし、正直感謝している」
これで、私達についての話は終わり。と如月さんが締める。
ふと疑問が生じた。
「あの」
「ん?」
「如月さんは、学校に行かないんですか?その、見た感じ年齢が同じくらいに見えるんですけど・・・」
「ああ。私と紫は大学を卒業してるよ」
え?大学を卒業してる?それにしては、肉体があまりにも若すぎないだろうか。
「『ゲーンドライバー』を使ってる影響で、身体が若返ってるんだ。だから私は、君と同じぐらいの年齢に見えるのさ」
「な、なるほど・・・。ちなみに若返る前はどんな感じだったんですか?」
興味が湧いたので聞いてみる。
「こんな感じ」
スマホを操作して如月さんが見せてきた写真を見ると。そこには
「え」
どこからどう見ても綺麗な女性が写っていた。
「えぇぇぇぇ!?」
「あー・・・やっぱりね。紫はともかく私は中性的だからよく間違えられるんだよねー・・・」
どうやら私が少年と思った人は立派な女性だったようだ。
「す、すみませんでした・・・」
「まあいいよ、よくあることだし」
「じゃあ、これで私の話はおしまい。・・・ちょっと遅いな。また家まで送っていくよ」
「え?いやいや悪いですよ!それにまだ明るいし!」
「いやいや、怪異に襲われた子って妙に別の怪異に襲われやすいからほっとけないのよ。だからこれはアフターサービスだと思って頂戴。あとはいこれ」
如月さんが紙を渡してくる。
「これは?」
「ここ、実は何でも屋なのよ」
実態はオカルト関連ばっかだけどねーと言いながら如月さんが笑う。
「このアドレスが依頼フォーラムになっていて、書き込まれた人にはここの住所を送って話を聞くっていうシステムなのよ」
だからと、続けて、
「また怪異が現れたら、お代は安くするからこの依頼フォーラムに打ち込んでね♡」
「えっお金取るんですか」
「そりゃそうよ。アイツの援助だけじゃ楽に暮らしてけないし。今回は初回&緊急事態だったから無料だけどね。あっ別にお金じゃなくてもいいよ。食べ物とかそういうので」
別にお金じゃなくてもいいらしい。しかしなんだろうか、この・・・悲惨な過去だと思った気持ちが一気に霧散した。なんというか、強かだなあ・・・という気持ちだ。
「なんていうか、正義が見返りを求めちゃいけないって、こういうことなんでしょうね・・・」
「なんか言った?」
「いいえ」
「ふーん。ま、いいか。じゃあ飛ばすからまた背負わせて貰うよ」
「えっ、もう足は大丈夫だから背負わなくても・・・」
「いやだって背負った方が楽だし、速いし
あ、この人、いい人だけどあれだ、かなり変な人だ。
「というわけでよいしよっと」
え。
「それじゃあ、飛ばしていくよ!」
「え、ちょっと・・・きゃあああああああ!?」
私の意識は暗転し、気づいたら家の前にいた。
「それじゃあねー!今度会うときは日常で会えたらいいね!」
そう言いながら如月さんが走り去っていく。なんだか今日は落差の激しい一日だった・・・。早く寝よう・・・。けれどどこか安心したような気持ちが私ね中にあった
side out
綾side
ふぅー疲れた疲れたー。まあ、紫に渡したのは癪だけど、楠木さんは助けれたし良しとしよう!さ、帰ってご飯にしよう!そう思いながら私は自分の家へ帰る。
ーーー思えばこれが始まりだつたのかもしれない。
side out
第1話終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます