第6話、徳間とディズニーが提携し内田善美を100均で手に入れ『エーベルージュ』の発表を見た

【平成8年(1996年)7月の巻】


 スタジオジブリの代表取締役会長を務める星野康二が以前、ウォルト・ディズニー・ジャパンの社長だったことは知られた話です。それより以前にビデオ部門のトップとして星野氏はスタジオジブリのタイトルをディズニー側で手がけるなど、ジブリとディズニーは少しずつ関係を深めていました。そして平成8年(1996年)7月23日に、当時はスタジオジブリを傘下に持っていた徳間書店がディズニーと業務提携を発表。記録だと徳間グループを率いていた徳間康快と宮崎駿が出席していたようです。


 この時の提携の内容は、『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』といったジブリ作品を、ディズニーが全世界に配給するようになるといったもの。これは嬉しい話と思いきや、ウェブ日記には「会見の雛壇に並ぶ、宮崎監督の表情が冴えない」と書いてあります。世界に進出することよりも、新作の進行状況とか、高年齢化していくスタジオの人材のこととかの方が気がかりだったらしいです。「徳間社長にとっては良かったこと」とコメントしたのも、そうしたスタジオ自体の問題が念頭にあったからなのかもしれません。


 今、振り返ればディズニーによってジブリ作品は世界に出ていき、『千と千尋の神隠し』でアカデミー賞長編アニメ部門受賞という快挙も成し遂げましたが、肝心のジブリの方は後継が育たないまま、あるいは後継を出すことを諦めたような感じでいったん店じまいを行いつつ、宮崎監督の新作を手がけたり権利関係を守ったりする仕事をしています。それは徳間康快や宮崎監督が望んでいたことだったのでしょうか。高畑勲監督を喪って片翼がもげたような中、作られているという宮崎監督の作品がもたらす“何か”に期待したくなります。


 この頃は本当に、本ばかり読んでいたようで、半ば読書日記化しています。新木場と東陽町の間にある古本屋で内田善美の『空の色ににている』を見つけて購入しました。さらに『秋の終わりのピアニシモ』と『星くず色の船』も購入したようで、御退社を願われている現在の会社へと入る際、実家のある名古屋から持ってきた『草迷宮・草空間』や『星の時計のLiddell』と合わせて、内田善美の本をそれなりに揃えられたと喜んでいます。この頃はまだ、今ほど古書価が高騰はしておらず100円均一で並んでいたようです。もっと集めておけば良かったと思うのですが、部屋のどこかに埋もれてしまって出てこないのでは意味がありません。盛大に出来る余暇を利用して片付けたいものですが、発掘できるかなあ。


 以下、挙げますと高橋留美子の『1ポンドの福音』を買い、大原まり子と岬兄悟の夫婦SF作家が編纂したアンソロジー「SFバカ本』を買っています。「一太郎」のジャストシステムに出版部があって出していたおので、「原始、SFはバカ話であった」という帯のが響きました。西澤保彦の『人格転移の殺人』を読了し、性別が入れ替わってしまうといった設定から、ワニノベルズから刊行されていた水沢龍樹の『神変武闘女賊伝』にも言及しています。この『神変武闘女賊伝』は「か弱い娘に変身させられた若武者の妖異な恋物語!?」という内容で、今でこそ隆盛のTS物を先取っていたと言えそうです。


 酒井美詠子という人のコミック『少年はその時群青の風を見たか?』も読んだようです。「怪盗ルパンと名探偵ホームズは高校時代、大の親友だった!? 19世紀末ロンドンは今日も2人の話題でもちきり」と裏表紙に書いてあったようですが、どういう話だったかはあまり覚えていません。作品もこれ1冊きり。今は何をしているのでしょう。


 高校の先輩だったこと分かった太田忠司の『新宿少年探偵団』と『怪人大鴉博士』も読みました。『新宿少年探偵団』は後に相葉雅紀、松本潤、 横山裕、深田恭子、加藤あいという今から見れば豪華なメンバーで実写映画化されるのですが、まだ見たことがありません。嵐の活動休止も発表されただけに、どのような雰囲気だったのか見てみたい気もします。


 「ユリイカ」についての言及もあります。8月号で「ジャパニメーション」を特集していたようです。内容はといえば、押井守・伊藤和典・上野俊哉の対談に四方田犬彦、岡田斗司夫、大塚英志、村上隆といった人たちの論考が載っていたようです。その岡田は、「『ユリイカ』や『現代思想』で『エヴァ』や『攻殻機動隊』が取り上げられるのは、これらの作品が一般に受け入れられたのではなく、ユリイカがオタク化した、と考えるべきであろう」と書いていました。。


 今でこそポップカルチャーをテーマにした雑誌作りを行っている「ユリイカ」です。平成31年(2019年)4月号では『ブギーポップは笑わない』の上遠野浩平を特集するそうで、わたしも論考を寄せています。以前にも安倍吉俊が特集されて、『serial experiment lain』について書きました。それだけ外で活躍していながら認めてくれないカイシャって……。愚痴が出ました。すいません。ともあれそんな「ユリイカ」が、20余年も前にポップカルチャーを特集して、将来を見越した言葉も載せていたというのは驚きでした。時代というのはこうやって変わっていくものなのかもしれません。


 この頃、「電子新聞」というものの取材を電通でしていたようです。新聞局の人に広告代理店側からみた電子新聞というメディアの可能性、広告媒体としてのバリュー、現行のメディアと電子メディアとの関係が将来どうなるかを聞いたらしいです。結果として、「既存のメディア(ここでは新聞)は、長い歴史で培った、情報を集めて分類加工して提供するノウハウで、電子メディア時代にも対応していく」といった答えが出てきたようで、これは一面には当たっていると言えます。ブランド力を持った新聞が、豊富な取材力を生かして厚みのある記事を作り、バリューを付けて提供しています。


 一方で、競争力に乏しい新聞社は情報に偏りを持たせることで存在感を高めようとしましたが、その偏りが一時の、そして一部の絶大なる支持を集めても、外側にいる一般普遍の層は離れていってしまい、やがて縮小均衡へと至る状況も現実に生じています。そうした新聞の電子版を脇に、軽いフットワークで多方面に取材をかけ、旧態依然とした組織に縛られないでネタをピックアップして記事化し、支持を得ているネットメディアがわんさか登場してきました。そちらに鞍替えしていたら……とまたまた愚痴が出ましたが、20余年も前の時点でこうした取材をして置きながら、居場所において変革を行えなかったことも、今のこの境遇に至った原因だとしたら自業自得だとも言えます。


 文士たちが集った文芸サイト「JALInet」が立ち上がりました。NECがパソコン通信サービスの「PC-VAN」とインターネットサービスの「mesh」をいっしょにした「BIGLOBE」というサービスを始めると発表しました。ネットを使い、ネットを広げる動きがいろいろと始まった年でした。そして富士通では『エーベルージュ』というタイトルの発表会が開かれました。


 ご存じでしょうか? 『エーベルージュ』。一種の恋愛シミュレーションで、学園を舞台に同級生らと交流しながら意中の相手を見つける、といったものだったでしょうか。この中に登場するノイシュというキャラクターが、プレイヤーへの好感度によって女性にも男性にもなるという設定がツボでした。マッキントッシュのLC575で結構やり込んだのですが、その後、いろいろなメディアで展開されたものを追いかけることはなく、気がつけば終了していました。懐かしむ人もいるようで、いつか何かで再会できれば良いなと思っています。


 平成8年(1996年)7月のダイジェストでした。

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