彼らの関係と彼女らの懊悩
男子と女子のテンションは反比例する 1
結局、五人で連れ立って校内を廻ることになった。
「面白そうじゃん。俺も行くー」
「……まあ、暇つぶし」
『問題児』二名のセリフである。
この展開に女子二名は顔を引き攣らせたが、連れの男子がかずい一人というのもまた心許ないというので(この発言で再び腰を重くしたかずいを引き立たせるのにまたひと悶着あった)、同行を許可する運びとなったのである。
まずは近い所からということで、別館二階、生徒会室を目指す。
懐中電灯を二つ拝借し、蓮とかずいが先頭を行く。その斜め後ろに響、さらに一歩置いて藍と絢香が続いた。
「ねえ、そう言えば、如月さんって、飛行系の能力なの?」
かつかつと、廊下に響く五人分の足音の中に藍の声が混じる。綾香は小首を傾げて応じた。
「いえ、違いますけど……」
「そう? さっき外から四階に昇るつもりだった、みたいなこと言ってたから、てっきり空飛べるのかと思ったんだけど」
今の中学生にとって、『空を飛ぶ』というのは、そこまで珍しい特技ではない。実際、この場にいる『問題児』は二名ともかなり高度な飛行技術を有しているし、生徒会長――巽恭也も、自らが操る剣に乗ることで、同じようなことができる。
「それはですね――」
そう言って、絢香は後頭部に手をやり、ヘアピンを取り出した。
いや、よく見てみれば、それは四センチ程の大きさの、ミニチュア模型のようなシャープペンだった。
絢香がそれを宙に放ると、一瞬で、通常の大きさのシャープペンに変化した。
さらに、くるりとペン回しをすると、次の一瞬で、今度は三十センチ程に大きくなる。
「わお」
「ふふ。『スクール・オブ・ロック』っていうんです。文房具を対象に、質量操作をする能力です。一応、『山』ですね」
そう言って、絢香は再びヘアピンサイズに大きさを戻すと、髪に差した。
「西遊記みたい! 何かかっこいい!」
「バレちゃいましたか。この使い方はそれを参考にしたんですよ」
目を輝かせる藍に、絢香も頬を緩ませる。
「え、じゃあもしかして、それこそ如意棒みたいにして、これで四階まで昇るつもりだったの?」
「お、お恥ずかしながら……」
「すごーい! かっこいい! アクション映画みたい!」
「も、もう! 止めてください、今考えると、流石にちょっと恥ずかしいです……」
「あはは。確かに、ちょっと派手すぎるかもね」
「御子柴先輩は、どんな能力なんですか?」
「……」
「わ。頭に直接……」
「……」
「ぷっ。ホントですか? え、私からも送れるんですか?」
「……」
「……」
「ぶふっ! ちょっと、如月さん、変なこと言わないでよ!」
「……」
「えー、いやぁ。しずりはそういうの詳しいんだけど、私はちょっと……」
きゃっきゃうふふと会話する女子の前で、男子三名はぼそぼそと低い声で会話していた。
「なあ、日野って御子柴と付き合ってんだよな」
「違う。幼馴染だ。言わなかったか?」
「あれ、そうだっけ?」
「家が隣だったからな。親同士も仲良かったし、向こうと合わせて、俺らは四人姉弟みたいなもんなんだ」
「想像できねー」
「……ウチは、親が十一人いる」
「何かその言い方だとちょっと怖いぞ」
「そういや、親父さん、今回はどこまで行ってんだ?」
「……京都だ。八ッ橋、頼んどいた」
「お、楽しみにしてるぜぃ」
「……やるとは言ってない」
「なら何で言ったんだよ!?」
しばらくがやがやと談笑していた五人だったが、廊下の端まで来た所で、絢香が何かに気づいた。
「あれ? 閉まってる……」
「如月さん?」
立ち止まった絢香が、藍の服の袖を引きながら言った。
「昇降口です。私が来たときは開いてたのに」
今正に登ろうとしていた階段の奥、下駄箱の方向を指差す。
確かに、全ての扉は閉まっていた。
それがどうしたのだ、と首を傾げる藍だったが、かずいは内心密かに嘆息した。
かずいと藍は、最初昇降口には向かわず、職員室から校内に入ろうとした。電話で響から、そこしか鍵は開けていないと言われたからだ。そして、絢香はこう言った。自分は最初、外から直接、生徒会室に入るつもりだった、と。
では何故、絢香は先程、廊下側の扉を開けて職員室に入ってきたのか。
それが、先程かずいが不審に思った点だ。
それに対する答えは二つ。
一つは、絢香が嘘をついている可能性。
そしてもう一つが――。
「……俺は、開けてないぞ」
先回りするように、響が言う。
「えっ、でも私、あそこが開いてたから、入って来れたんですよ?」
絢香が、焦ったような声を出す。
つまり。
「つまりそれって、私達以外に、校内に人がいる、ってこと?」
震えながら発された藍の言葉が、しんと静まった夜の校舎に吸い込まれた。
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