変わってしまった友達 2
「何とまあ」
衛がため息と共に、声を漏らす。
何とかそこまでを話し終えた紫乃は、ほんの少し目元を潤ませていた。
「確かに、話だけ聞くと多重能力っぽいな」
「でも私、何だか怖くって。優香、前に会った時は、まだ能力が現れていないみたいだったのに、急にあんな……。あの、やっぱり、優香の能力も、何かのトリックなんでしょうか? 私、考えたんだけど分からなくって」
「どう思う、かずい?」
水を向けられたかずいは、頬杖をついたまま、気のない声で答える。
「その話だけじゃなんとも言えない。それこそ、どこかに他の人が隠れてたのかもしれない」
「優香が私を、騙そうとしてるってことですか……?」
紫乃の震える声が言い終えられる前に、藍がかずいの頭をグーで殴った。
「少しは気を使いなさいよ!」
容赦のない一撃に頭を抱えたかずいの様子に苦笑しながら、しずりが口を開いた。
「日野くんが言ったのは、あくまで可能性の話。ただ、その話を聞いた感じだと、紫乃ちゃんの友達が紫乃ちゃんを騙す理由がないよ。別に、紫乃ちゃんに何かしてほしいとか、何か貸してとか、そういう話はなかったんでしょ?」
「はい。むしろ、戦うのは自分一人で十分だって……」
「一人で?」
しずりから発された問いに、はっとしたように紫乃は肩を震わせた。
「それは……その。と、とにかく、周りは信用できないって言うんです。自分の力なら、一人でも戦える。だけど、せめて私にだけは話しておきたい、って」
「ううん……」
そこで、しばし考え込んだしずりが、こんな問いかけをした。
「ちなみに、その噂はどのくらい広まってるのかな?」
「どのくらい、ですか?」
「紫乃ちゃんのクラスの人は大体知ってる、って言ってたよね? 他のクラスはどう? ああ、優香ちゃんのクラスにも広まってるんだっけ」
「はい……あ。でも」
「うん?」
「それが、ちょっと変なんです。確かに一年生の間にはかなり広まってるみたいなんですけど、それって、亘中で多重能力者が開発されて、他校を侵略しようとしてる、ってところまでなんですよ。優香が言ってたみたいな、藤見がやられたとか、次はウチだ、なんて話、誰も知らないんです」
「それは……確かに変だな」
衛が首を傾げる。
「私、ひょっとしたらクラスで流れてる噂が違うのかも、って思って、思い切って隣のクラスの人にも聞いてみたんです。小学校の時の知り合いとかに。そしたら……その」
急に煮え切らなくなった紫乃に、藍と衛は怪訝そうな顔を見せる。
「……上級生の中に、亘田のスパイが紛れ込んでる」
「「「え?」」」
衛と藍と紫乃の三人が、その言葉を発したしずりに顔を向けた。
「そのクラスでは、そんな噂が流れてたんじゃない?」
気まずそうな顔で、しずりは紫乃に問いかけた。
「はい……そうなんです。私のクラス以外では、その、二年生の中にスパイがいるって、そんな噂が流れてて」
「あらら」
「でも、しず先輩、どうして……」
紫乃の顔に、微かに怯えが見て取れた。
それを見たしずりが、困ったような笑みを浮かべて答える。
「だって、私、そんな噂聞いたことないもの。みんなだってないでしょ? 同じ校内なのに、おかしいよ。最初は紫乃ちゃんの周りだけの小さな噂なのかと思ったけど、そういう訳じゃないんでしょ。そこまで偏った噂の広まり方をしてるなら、その中身は、きっと私達には聞かせられない話だ、ってこと。噂の内容から考えれば、ね。みんな好きじゃない、スパイとか?」
「おお……」
「ただ、やっぱり、藤見のこととか、明後日のこととかは、どこのクラスでも噂にはなってなかったんでしょ。そこまで具体的な話が広まってるんなら、流石にもう少し大きな話題になるだろうし」
「おおぉぉ」
紫乃は一瞬前とはうって変わった、尊敬の眼差しをしずりに向けた。
「す、すごいです、しず先輩」
「多分、紫乃ちゃんも口止めされたんだよね? ごめんね、無理に聞き出しちゃって」
「い、いえ! こっちこそごめんなさい、私から話しておいて。先輩たちを疑ってる訳じゃないんですけど……」
「いいっていいって。気にしてないわよ」
「まぁ。まだ二年生のことなんてよく分からないだろうしな」
藍と衛は何でもないとでも言うように笑ったが、しずりは相変わらずの苦笑いだった。
その時。
「ところで」
不意に、かずいが紫乃へと問いかけた。
「君の友達は、どうやって亘田の攻撃を阻止するつもりなんだ?」
そんな問いに、紫乃は少し考え込む仕草のあと、躊躇い混じりの暗い声で答えた。
「こっちから先に仕掛けるみたいです。放課後、校門前で待ち伏せて、向こうの生徒会の人たちが出てきた時に、って。まずは話を聞くって言ってましたけど。噂が本当なら、その時は……って」
「校門前?」
かずいが、暗い目を紫乃に向ける。
「は、はい。私、学校の敷地の外で能力を使うのは禁止されてるし、外に出たら能力は弱まるはずじゃ、って言ったんですけど、優香が言うには、この間試したら優香の能力はそんなに弱くならなかったそうなんです。多分学校の近くで使う分には、ほとんど影響はないはずだ、って……先輩?」
そこまで話して、紫乃は自分を見る四人が、明らかに顔色を変えていることに気づいた。
「え……っと」
わけが分からない紫乃だったが、続く四人のセリフはぴたりと一致していた。
「それは……まずい」
「まずいな」
「まずいわね」
「うん、ちょっと、良くない」
「ええ!?」
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