第49話 1年

アキレス腱断裂から1年が経った。

あの日、アキレス腱が切れたと直感し、

周囲には、

「迷惑かけてごめんね。」

と言って、救急車に乗った。

ギプスをして、I君に家まで送ってもらった。

松葉杖をついて、家の中に入ってみると

動けない。

あの時の絶望感と不安感。

眠れなかった。

どうして、こんなことに…

後悔とこれからのことで、頭の中がいっぱいだった。

仕事も出来ない、買い物も出来ない。

手術になるのか、

入院はいつまでなのか、

家賃は払えるのか、

色んなことが駆け回った。

結果、保存療法を選んだ。

が、1人暮らしは、とにかく不便で出来ないことばかりだった。

けがは、良くなるばかりで、必ず治るのだからと思ってきた。

しかし、完治にはほど遠い。

歳のせいなのか、運が悪いのか。

一生続けて、いずれは孫ともプレイしたいと思っていたバドミントンは、

もう二度と出来ないだろう。

完全ではないアキレス腱に常に不安を感じながらの生活だ。

それでも、まあまあ普通に歩けるようにはなった。

階段も手すりさえ持てば

降りられる。

重たい物は持てないが、なんとか仕事も出来ている。

もっと大きなけがや、病気で思うようにならない人もいるのだ。

十分ではないか。

多くの人にお世話になったし、助けてもらった。

還暦を前に大事な事をたくさん経験出来た。

松葉杖の人を見ると、どこかケガしたのかなと思うし、

押し車を押すお年寄りが気になるし、

手伝えることがあったら、手伝う。

今まで気づかなかったことに気づけるようになった。

失ったものは、時間とバドミントンだけだ。

大したことではない。

今後は、更なるけがをしないようにしなくては。

まだ、リハビリは続ける。

療法士に

「ふくらはぎの力が出て来ましたね。」

とか言ってもらうと自信が出るのだ。

誰かに褒めてもらいたい、安心したいということだ。

私の場合は、長くかかっているが、

アキレス腱の断裂は、骨折よりも長くかかるのは事実なので、

中年以降は、気をつけて欲しい。

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