第42話 決心

手術以外に回復は望めない…

そんなことを言われ、私の7か月を返せ!

と言えもせず。

悔しさで、1人になると涙が溢れた。

そう言われた翌日、

念願の大塚国際美術館に行った。

あきちゃんとバスツアーだ。

元々お盆の予定だったが、台風接近のため中止となり、9月末に延期となったのだ。

8月だったとしても、9月でも足の具合に大きな変化はなかったな。

バスのステップを降りるのは、

1段ずつ両足を揃えないと降りられない。

とは言え、まあまあ歩ける。

ただ、この美術館は、山を一つ潰して作ったものなので、結構歩く。

最初に目に入るのは、あのバチカン市国にあるシスティーナ礼拝堂。

ミケランジェロの大作だ。

全く同じ物が再現されている。

言葉を失う美しさだ。

世界中の有名な絵画、壁画、教会などが、本物と同じ大きさ、色、質感で再現されているのだ。

海外旅行など夢のまた夢の私には、

一か所で名作を堪能出来る素晴らしい場所なのだ。

死ぬまでに一度来たいと思っていた。

ただ、今回はバスツアーなので時間が足りない。

今度、ゆっくり全部見たいものだ。

翌日は、お店のゴルフコンペだ。

3月に開催予定だったが、アキレス腱を切ってしまい、中止となっていた。

半年以上経って、何とか開催にこぎつけた。

場所は、広島国際ゴルフ倶楽部。

このゴルフ場は、昨年の西日本豪雨災害で、コース内が、多大な被害を受けた所だ。

近隣の山が崩れ、多くのコース内に大量の土砂が流れ込んだ。

今でも復旧出来ないコースがあり、

新たにコースを作って、ショートホールが5ホール、ロングが5ホールという変則になっている。

それでも、芝の状態は良く、しっかりと整備されている。

コースを回ると崩れたままの山がすぐそばに迫る。

東京から参加されたOさんもその惨状に驚かれていた。

終始楽しいコンペとなったが、

つくづく、ゴルフは健常者でないと出来ないなと思う。

レストランは、大概階段の上にあるし、エスカレーターやエレベーターはない。

カートで移動するとはいえ、カートからボールまでは歩くし、

ティーグランドには、階段があることが多い。

手すりはない。

コース内もデコボコもあるし、穴もある。

足腰悪い人には、危険な場所だ。

ただただ疲れた。

翌週の火曜日、リハビリの日。

療法士に

「リハビリ止めようかと思います。」

と告げた。

「あれから、県リハには行かれてないんですか。」

「行きませんよ。月1ですから。ろくにアキレス腱がついてないのに

運動療法なんかしない方がいいんじゃないですか。それが悪かったのかと思ったりしてます。」

療法士のKさんは、スタッフの中では、一番年上だ。

「僕が見ている限り、動きも良くなってますし、歩幅も取れるようになっています。

全くアキレス腱が離れていたら、そこまで動きません。」

そもそもアキレス腱は、そんなに伸び縮みするものではなく、

ヒラメ筋と腓腹筋を踵の骨に繋いでいる腱なので、

ヒラメ筋や腓腹筋を鍛え、柔軟性を上げることで、アキレス腱の負担を軽減させるためにリハビリを行っているという。

電気治療も効果はあるので、あと2つ追加することになった。

その一部は、今歩くと痛くなる部分の痛みを軽減させるものだ。

この日は、無理な運動はせず、マッサージに終始した。

Kさんの誠意は伝わる。

もうしばらく、リハビリは続けよう。

手術はしないつもりであることも告げた。

傷害保険ももう出ない。

仕事ももう休めない。

どう考えても手術、入院は出来ない。

現状より少しでも歩けるようになれば、

痛みとは、付き合っていく。

もちろん、ろくについてないアキレス腱らしいから、

再断裂の危険性はある。

転ばないようにするし、バドミントンも卓球も諦める。

それでも再断裂したら、その時手術しよう。

と思い始めている。

10月1日だった。

消費税増税で、窓口での個人負担も上がってる。

ああ、まだお金も時間もかかるな。

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