第30話 絶望

週3回のリハビリ。

3週間に1回の診察。

杖は、ほとんど使わずに歩く。

装具は、まだ外せない。

装具で歩くと、松葉杖ほどでなないが、

カチカチと音がする。

出来るだけ、大きな音にならないように気にしながら、

お店を巡回する。

でも、気が付くよね。

あるお店を訪れた時、

在庫の確認のため、40代くらいの男性スタッフに声をかけた。

返品処理はされていた。

その男性が、私の足元に何度も目をやる。

しかし、何かを尋ねるでもない。

障害があるのなら、聞くのもと思うのだろう。

店内を確認していると、また、その男性に会う。

「その装具高かったんでしょう。」

「ええ、8万5千円ほどしました。」

「妻が作ったんです。7万円くらいでしたか。」

「保険きかないし、高いですよね。骨折でも?」

「いえ」

と言って、頭を指した。

「くも膜下出血か何かですか?」

「はい、くも膜下出血と、脳内出血と。右半身マヒになりました。」

「まだ、お若いでしょう。」

「40歳です。」

「子供さんもいらっしゃるんですか?」

「はい。」

「それは、気になさってますね。」

「子供にすまないと言います。」

「私は、アキレス腱を切ったんです。4か月になります。ケガだから治るのに

何も出来ない状態で、絶望的な気持ちになりました。奥さんもきっと…」

「はい、絶望しています。装具をつけても歩けませんし、右目も見えないみたいです。死にたいと言うこともあります。ろれつも回らないようで。」

右半身マヒでは、松葉杖も使えない。

車椅子も難しい。

左手で頑張ってみようと思えるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。

励ましの言葉もない。

ケガで治る私が、絶望だなんて、何を言ってるんだ!

もっと、もっと、絶望的な状況の人がいるというのに。


今日は、U先生の診察。

「どうですか?」

「どうでしょう。つっぱり感があって、膝から下が棒のようになります。

親指に力が入らないので、上手く歩けないです。」

触診で、動きの悪さを診る。

「癒着があるかも知れませんね。」

「再来週、MRIを撮ることになっているんです。」

「そうですか、その結果を見て、O先生と相談しましょう。」

「その癒着があった場合、手術してはがす方がいいんでしょうか?」

「手術ではがすことは出来ます。その方がいいかも知れませんが、メスを入れるのは、抵抗あるかも知れませんし、まあ、O先生の判断になるので。」

手根管症候群で、神経の癒着を内視鏡施術ではがした経験があるので、

抵抗感はないのだけれど、足だから、どうなのかな。

しこりの所が気になるので、もっとマッサージを念入りにした方がいいということで、

担当療法士にすぐ指示を出してくれた。

それで、マッサージが長くなり、電気治療の電極をつける場所が変わった。

リハビリで、結果がなかなか出ないようなら、手術も選択肢のようだ。

アキレス腱断裂は、回復までに6か月はかかると思った方がいいと言われた。

ただ、それ以上かかるとなると…

今日は、雨が降っている。

装具は、足がむき出しだから、濡れてしまう。

なので、雨の日は、出かけない。

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