第27話 杖なし歩行

杖なしでも歩けないわけではない。

ただ、どうしてもケガしていない右足に体重がかかってしまう。

そのために右足が痛くなるし、腰も痛くなる。

営業として、店内の巡回はしたい。

行ってみるか。

そこは、店内を見るだけでいいし、

主任ともフランクに話せる。

杖なしで、外階段を昇る。

手すりがないので、壁伝いにゆっくり昇る。

手が真っ黒になった。

外だからね。

主任を見つける。

「大丈夫?うちのスタッフの女性も骨折して、松葉杖よ。」

情報誌を3か月分持って行った。

「これこれ、待ってたよ。役に立つからね。ありがとう。」

社内の情報誌だが、新製品情報や、業界ニュースなどが、

抜粋してまとめられている。

これを営業のコミュニケーションツールとして使いたいと

部長に話したところ、それはいいと全国のメンバーに配布されるようになった。

何に使うのか分からんなどという輩もいるが、

色んな(競合も含め)情報が欲しいという管理職は多い。

全ての情報誌を読むことも出来ない。

目ぼしい記事を網羅しているなかなかの冊子だ。

無料ですから~

気難しい店長などと話すきっかけにもなるんだけど、そんな使い方が出来ない者も多いのだ。

10分もすると、右足がプルプルしてきた。

立っていられないぞ。

やっぱり、杖が必要だったな。

テーブルにすがるようにして、立って話す。

このお店は常に完璧だ。

問題なし。

宿題を頂いたので、部長に確認を取るも、

使えない部長なので、明日バイヤーに確認すると言って、

もう4日回答なしだ。

この部長も長くなさそうだ。

車に戻ると、腰は痛いし、足は痛いし、汗だくだし、

ヘロヘロ。

こんな調子だから、1日1店舗しか無理だな。

それでいいと言われているが、色々と気になることも多い。

一方で運動療法を進めているとはいえ、

まだ、装具を外してガンガン歩ける状況ではない。

最近、またアキレス腱断裂後のブログを色々読んでみると、

保存療法より、手術した方が復帰は早い。

リハビリを開始する時期も早い。

手術すれば良かったかなと考えるが、

今更どうすることも出来ない。

身体への負担は少ないということだが、

結果的に上手く歩けない期間が長いと、腰や別の足へ

負担がかかる。

仕事を持っている身としては、手術すべきかも。

仕事に復帰して1ヵ月半になるが、休職中の傷病手当は、

まだ支給されない。

5月23日は、ずっとお世話になっている元上司のお誕生日。

お誕生日までには、顔を見せに行きますねと手紙を書いていたのに

装具の状態では、介護施設には入れない。

土足と同じだから。

行けなくてごめんなさいと手紙を送った。

父親のいない私にとって、父親のような存在で

もう40年のお付き合い。

結婚する時も

子供が産まれた時も

お店を出した時も

娘が結婚する時も

いつでもお祝いして頂いて、

娘のように可愛がってもらってきた。

3年前、脳内出血で右半身マヒになってしまった。

最初は、懸命に動けるようになろうとされていたが、

病院から介護施設に移ると、

運動回復のためのリハビリはまず、行われない。

職員の人員不足か、時間がかかっても本人にさせるというようなことはしない。

病院では、車椅子に乗るのも本人がするようにと

見守っていた。

家族も看護師も手を出さずに見守る。

少しずつ出来ることが増えていっていたが、

介護施設に移ると、職員が車椅子にさっさと乗せてしまう。

トイレに連れて行ける回数も減らすためか、紙おむつになる。

これでは、機能回復は望めまい。

しかし、これが現状なのだ。

会う度に、痩せて声も小さくなって聞き取りにくくなる。

最後に行ったのは、バレンタインデー前にチョコレートを届けた時だ。

そう、その翌日、アキレス腱を断裂してしまったのだ。


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