第12話 さよならギプス

まだ、ギプスだけど、ATMに行きたい。

誰かに乗せて行ってもらうか。

すぐそこなんだけどな。

迷っているうちに春休みになってしまったから

子供さんがいる人は難しくなったな。

そうだ、車を運転してみよう。

ケガしているのは、左足。

オートマ車なので、特に困るわけではない。

乗り降りがどうかとか、心配なだけだ。

よし、行こう。

意を決して、車に乗る。

乗れる。

運転出来る。

2か月ぶりなので、慎重だ。

車でわずか3分のところにあるスーパーに。

ATMで通帳記入をした。

少し買い物がしたい。

両手に松葉杖で売り場に入る。

どうしよう、かごは持てない。

カートを押すか。

考えていると、私よりも年配の女性のスタッフさんが、

「車椅子あるよ、使う?」

と言ってくれた。

「使わせてもらえます。」

「ええよね、使いんさい。」

畳んで自動ドア付近に置かれた車椅子を拡げてくれた。

「これで大丈夫?かご乗せる?」

スーパーの車椅子には、背後にかごを置く台があるのだ。

「車椅子、大変よね。結構難しい。私も使ったことあるから。県リハ?

あそこはええよ。ちゃんと治してくれるから。」

とことん、タメ口。

「長いんですけどね。仕方ないです。初めてですよ、車椅子で買い物するの。」

「気をつけてね。」

車椅子は、快適だ。

何を買おう。

嬉しくなって、牛乳ももう持てるかな。

肉も買いたいな。

いや、まて、車までは、持って運ぶのだ。

無理無理。

最小限度にしておこう。

刻みたくあんが欲しい。かろうじて手が届くが、取ることが出来ない。

車椅子は、低いので、ちょっと高い棚や、奥行きのある所は商品が取れない。

通路にカートを押す人がいると、通れない。

色々、難しい。

たくあんは、見かねたお客さんが取ってくれたし、

レジでも袋入れしてくれた。

日本人は、まだまだ優しいですよ。

車椅子は、畳まずに置いておいてもらえたら、他人の手を煩わせずに済むのにと思う。

こんな買い物ももう終わりだろうと思っていた。

ギプスを取って、装具になったら、片方の松葉杖はいるだろうが、

もう、車椅子もいらないだろうと思っていた。

装具が出来る日、9時に受付。

まず、装具をつけてからの診察になると言われたが、

ギプスを外すのが、12時半だった。

お腹も空いた。

今から診察とリハビリ。

オーダーメイドのはずの装具はピッタリこない。

それにしても2か月ギプスをしていた足は、

カサカサで汚い。

「洗っても一度にはキレイになりませんから、無理にはがそうとしたら

皮膚が取れて血が出ます。無理せずに気長に洗って下さい。」

と看護師がおっしゃった。

足首が痛いということで、ソールをもう1cm追加になった。

1cm1週間なので、さらに伸びたということか。

「足首固い方ですか?」

と先生。

「固いです。しゃがめないんです。子供のころから。」

「僕も固いんですよ。」

と先生、中腰くらいからしゃがめない。

「ちょっと、ひどいですね。」

「そうなんですよ、これ以上無理ですから。」

「体育の時、数人いますよね、しゃがめないの。」

そんなことで盛り上がる。

リハビリは、ゆっくり摩る。

突っ張るかな?まで動かしてみる。

歩く練習なし。

装具の代金を払おうとしたら、

違う金額を言われた。

おつりのないように用意してきたのに。

前回もらった計算書を出して

「こう聞いてましたけど。」

と言うと、

「あれ、間違えたかな。」

ばたばた計算して、

「前ので合ってます。領収書作り直すので、今日は、仮でいいですか?」

すでに収入印紙を貼っていたので、

「収入印紙貼る前に気づけば良かったですね。」

「いえ、大丈夫です。」

かなり慌てているが…

仮の領収書に昨日の日付を書いた。

「残念なお知らせですが、今日は29日ですよ。」

と言うと、

「あっ、本当だ。どうしよう。今日の領収書、全部28日と書いてしまった。」

「まずいですね、それは。」

装具代金は、保険対象外だが、組合保険の場合、申請すれば7割が戻ってくる。

その申請に、診断書と領収書が必要で、

装具装着日より前に領収していてはいけないのだそうだ。

「今日、多かったから、バタバタしてて。」

大体、あんまり落ち着きがない男だからね。

次回のリハビリの時間と診察、装具の時間をどうするかで、

結構、ああだこうだと時間を取った。

診察は、予約していても、今日も3時間以上だったし、

どうなんだろう。

支払いも終わってみると、午後2時半。

お腹も空いたよ。

装具の方が、実は歩きにくい。

慣れれば、どうにかなるのか。

でも6週間は両手に松葉杖が必要だという。

ギプスが装具に変わっただけ?

装具のソールが、1週間に1cmずつ低くされる。

歩くこともリハビリだが、全体重を乗せることは出来ない。

う~ん、来週から仕事に戻りたいが、

何なら出来るだろう。

まあ、今は考えないようにしよう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る