家出する時はちゃんと計画を立てよう(3)

「……南の島?」

「そっす!」

「何で?」

「ほら、芸能人とか正月バカンスにハワイに行くじゃないっすか。あれみたいなもんですよ」


 ……いやわからん。バカンスに来たの?


 まぁクルトの心を落ち着かせるにはいい場所かもしれないけども……


「……ていうかここ人は居るの?」

「多分居ないっす。無人島みたいなもんっすかねー」

「ふーん」


 耳をすませてみるが、聞こえてくるのはざざーんという波の音だけ。片桐の言う通り俺達しか居ないみたいだ。


「まーまーあっちの海でも見てくださいよ。穏やかな気持ちになるっすよ」


 そう言われたので、片桐が指を指した方を向いてみた。


「おお……」


 思わず声が出た。


 見えたのは、白い砂浜に太陽の光でキラキラに輝く海。一枚の絵になるような美しい景色だ。


 何だか心が安らぐ……


「すげぇ……綺麗だ」

「ふっふーいい場所でしょー」


 片桐は手を腰に当て、得意げな顔をする。


「クルト君はどうっすか? きれいでしょー」


 クルトは顔をプルプルさせてうつむいている。


「……クルト君?」

「……げぇ」

「ん?」


 するとクルトは勢いよく顔を上げて、今までに見たことの無い明るい笑顔で話し出した。


「すっげぇーよ!! これが『うみ』か!! 初めて見た!!」

「うんすごいでしょー!」

「ああ!! オレもっと近くで見たい!! 泳いでもいいか!?」

「ん? え、ちょっと待つっす! 水着とか無いでしょ!」


 クルトは海へと駆け出した。


「いいじゃねーか。パンイチで泳がせてやれよ」

「いや……帰りのパンツが無いじゃないですか……」


 ───


「ひゃはは!! 冷たっ!! 」


 クルトはパンイチで泳ぎ出した。


 さっきまでのあのクールで無表情だった彼とは全くの別人のような顔をしている。


 ……いや、違う。これが本来のクルトの姿なんだ。あんな作り物の表情なんかじゃなくて、このバカみたいに笑ってはしゃいでるこの顔が本当のクルトなんだ。


 ……なーんてことを思っていると。


「……どうぁあ!? うわ冷たぁ!!」

「へへ! 悔しかったら入って来いよ!」


 クルトに水を思いっきり掛けられて、俺の洋服はびしょびしょになってしまった。


「くっそ! 待ってろ!!」


 俺は服を脱いでクルトと同じパンイチの姿になる。


「ちょ、ちょっと!! ホムさん!?」

「売られた喧嘩は買うぜ!! どりゃあ!!」


 俺は海へ飛び込む。


 さばーん。


「……ぶっゴホッ!!! がっはァ!!! オェ!!!」


 ……海は想像していたよりも深かった。


 普通足つくと思うじゃん!! つかねぇんだもん!!


 俺は体を動かして必死にもがく。


「へへ! 何だよそれ!そういう泳ぎ方があるのか?」

「いや、クルト君!! ホムさん溺れてます!! 助けてあげてください!!」

「えっ、えぇ……」





 俺はクルトに引っ張られて陸へ打ち上げられた。



「うっ……がはぁっ!! おぇぇ!!」


 水が鼻に入ってなんかめちゃくちゃ気持ち悪い。


「ホムさん……もう少し考えて行動するっす。ホムさん泳げないでしょ」

「……そういやそうだった」


 金づちだったな俺……


 ───


「海は危険だ。もっと安全な遊びをしよう」

「えー泳ぎたいぞ!」

「駄目だ。許可はできない」


「……ホムさんが泳げなくて、楽しめないだけじゃないっすか」


 片桐が小声で呟いてくる。


「おい聞こえてるぞ」

「……ふひゅー」


 片桐は音のかすれた口笛を吹く。


「……まぁ遊ぶならこのビーチでだな。何か遊びたいものでもあるか?」


2人に聞いてみる。


「はいっ!」

「はいクローバー」

「やっぱりビーチバレーでしょう! やりましょ!」

「ビーチバレーねぇ……」


 俺は顎に手を当てながら辺りを見回す。うーん。


「ボールが無いし……そもそも3人じゃ無理があるじゃないか」

「ボールはボクが作るっすよ! あと人数が足りないのならみんなを呼ぶっす!!」

「みんなって……」

「じゃ、行ってきます! 『テレポート!』」


 片桐は一瞬で消えた。あいつは本当に行動が早いなぁ……


───


 片桐を待っている間、俺は足を水につけ、ちゃぷちゃぷして遊んでいた。すると、背後からクルトが話しかけてきた。


「なぁ」

「ん? どうした。あと俺のことはホームズと呼べ」

「……ホームズ。……あの女の人とどんな関係なんだ?」










「……はぁーん?」

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