俺だってオフの日も必要なんだよ(1)

 便利屋ホームズは依頼が無い時は結構暇だ。寝転がっている俺は、大きなあくびをしながら呟く。


「ふぁーあ。今日は誰も来ないかもな」

「え? どうしてっすか?」


 向こうで本を読んでいる片桐が反応した。


「いや、何となく法則が見えてきたんだ。今までの依頼人は朝からお昼すぎの間にやって来ていた」


 そして現在の時刻は16時。これから依頼人が来るとはあまり思えない。


「まぁー最近は色々と忙しかったし、こんな日があってもいいだろ」

「あー。そ、そっすね!」


 なんか返事がぎこちないな。なんだもっと働きたいのか?


「あ、あーの……」

「ん、どうした?」


 片桐は何かもじもじしながら、俺に話しかけてくる。


「あ、あのっ!! ホムさん!! 買い物行きませんかぁ!?」

「買い物? いいよ、行こうか」


 特に断る理由もないので了承した。片桐に買い物に誘われるのは久しぶりのような気がするな。


「それでどこに行くんだ?」

「え、えっとー……じゃあミルドタウンに行きましょう!」

「分かった」

「じゃあ着替えるので見ないでくださいねっ!!」

「ああ」


 俺は片桐のいない逆の方へ顔を向ける。


「……あ、あれー!! ボクこんなに薄着しか持ってなかったっけー!! うわー困ったなー!!」


 ……なんか後ろからわざとらしい声が聞こえてくる。


「あのーホムさん。もしよかったら洋服屋……とか行きたいな……って」

「……別にいいけど」


 なんで演技挟むんだ? 普通に行きたいって言えばちゃんとついて行くのに……


「よ、よかったっす。じゃあ行きましょうか!」

「おう」



 ───ミルドタウン───


 ミルドタウンに到着。ルナティア王国とは違い、人通りも少なく建物も低い。


 しかし所々に咲いている花や風の音。子供たちの遊んでいる声が聞こえてきて、実家を思い出し何だか心が落ち着く場所だ。


 俺は隣を歩いている片桐に話しかける。


「どこから行くんだ?」

「そっすね……とりあえず食料を買いましょうか」

「分かった」


 片桐は市場の集まる通りの方へ連れてってくれた。そこは小さな商店街のような場所だった。


 そして俺と片桐は色々なお店で果物や肉を買って回った。



「あとは何買うっすかねー。ホムさん! 何か食べたいのありますか?」

「そうだな……野菜が食べたい」


 そう言えばこの世界に来てから、あまり野菜を摂取していないことに気がついた。健康の為に食べなければ……


「分かったっす! いい店知ってるっすから!」


 そう言って小さな店に片桐は足を進めていった。


「おいちゃんーミル草あるっすか?」

「いらっしゃい嬢ちゃん。今日は彼氏と一緒かい? いいねぇ」


 市場のおっちゃんが笑いながら片桐に話しかけた。まぁよくある軽い冗談だろう。片桐の事だからきっと笑って受け流すだろう……


「え!? えとえとあの……違っ……いや……違くはないんすけど……ええっと……」


 ……ねぇなんでテンパってるの?


  すかさず俺はフォローに入る。


「いや、おっちゃん違うよ。俺達はただの仕事仲間なんだ」

「なんだそうなのかい。ほいミル草」


 そう言っておっちゃんは、ほうれん草みたいな葉っぱを片桐に渡した。


「……ざいます。……お金っす」

「ガハハ、また来てな」


 ───


「なあクローバー? 次はどこに行くんだ?」

「……別にどこでもいいっすよ」

「そんなに怒るなよ。おっちゃんからカップルに間違えられたからってさ」

「……はぁ。全然怒ってないっすよ……!!」


 なんか明らかにテンション下がってる……俺何か変なことしたか? いや、片桐が困ってる所助けたんだからファインプレーだろ。褒めてほしいくらいだよ。ねぇ。


 ……と、そんなことを考えながら歩いていると、目の前に泣きじゃくる男の子の姿を発見した。


「あれは……迷子っすかね。あ、ちょっと! ホムさん」


 俺は持っている荷物を片桐に押し付けて、その少年に駆け足で近づく。


「君、どうした? 迷子か?」

「ゔぅ……ままぁ!!! どこ!!!」


 ……迷子だな。


「よし、落ち着け。ステイステイ。ゆっくり深呼吸をするんだ。はい吸って……」

「……すぅ」

「よし、吐いて」

「うっ……おえぇぇ!!」

「違うそうじゃない」


 深呼吸の仕方くらい分かって!!!


「ちょ、ちょっとホムさん」

「ああ、悪いクローバー。とりあえずこいつを落ち着かせなきゃ……」

「ままぁ……!!! うぇえええん!!!」

「おい泣くなって!」


 少年はまた泣き出してしまった。


「ままにあいだいよお!!!!」

「分かったから落ち着けって」


 ……と言葉で言っても落ち着く訳が無いのは分かってる。


 今この少年は不安でいっぱいなのだろう。なら安心するような言葉を掛けてあげなければ。


「……いいか少年、よーく聞け。俺達もママを探すのを手伝ってやる」

「うう……ほんと?」

「ああ。だからもう泣くな」

「うぅ……わ、わかった」

「よーしいい子だ」


 俺はわしゃわしゃ少年の頭を撫でる。少年も大分落ち着いたようだし、掛けた言葉は間違っていなかったようだ。


「よし、俺はコイツの親を探すから……クローバーは先に帰っててくれ」


すると片桐は少し驚いた顔をしてから口を開いた。


「……なーに言ってるんすか。ボクも手伝いますよ」

「あ、本当に? サンキューな。でも荷物重いだろ」

「問題ないっすよ。アポート!」


 片桐がそう言うと荷物は一瞬で消滅した。


「……便利だねぇ」

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