怪盗なんて泥棒と一緒だろ?(2)

「……まぁお前の壮絶な人生は分かったけどさ、お前のやっている事は犯罪だぞ? 悪いが俺達は協力出来ない」

「フン……そうか……」


 そう言ってマルクは立ち上がって帰ろうとした……が途中で足を止め、振り返って言った。


「……また話に来る。茶と菓子を用意しておけ」

「いや、来ないで?」

「我はグリーンティーを好む」

「だから来んな」


 ───


 マルクが帰ってから、片桐は何か新聞で調べ物をしていた。そして新聞に目を向けながら俺に話しかけてきた。


「ホムさん、彼は悪い人じゃないっすよ?」

「どういうことだ?」

「調べたんすけど、あのマルクさんが盗んだ『女王の瞳』。調べてみたんすけど、アレ富豪に買い取られそうだったらしいっす」

「ん? 別にいいじゃないか」


 買取ならなんの問題はないはずだろ?


「いや、あの絵画は期間限定で置かれていた物っす。時間が経てば持ち主へと戻るはずだったんすけど、目を付けた富豪がそれを無理やり買い取ろうとしたんすよ」

「へぇ……マルクはそれを防ぐ為に盗んだのか?」

「それは……分からないっすけど。きっとそうっすよ!」


 ……しかし奴は庶民の味方と言っていたな。その可能性は充分にある。


「だがな……盗みは犯罪なんだよ。いかなる理由があろうとしてはいけないことなんだ」

「それもそうかもしれないっすけど、金持ちに好き放題やられるのは気分は良くないっすよ!!」


 片桐はいつにも増して強い口調で反論してくる。言いたいことは分かるけどさ……


「それでもだ。ダメなものはダメだ。マルクは……悪だ。犯罪者だ」


 そう言うと片桐がムッとした顔に変わった。


「もぉー! ホムさんのわからず屋! どうせ復讐は何も生まないとかカッコつけて言うんでしょー!?」

「……あぁ!?」

「フーン!」


 俺と片桐の間にピリピリとした空気が流れる。






 ……その空気を奴が一気にぶっ壊した。


「クックックッ。貴様ら! 我の事で喧嘩などするでないぞ!」

「うわああ!!!」

「ぎゃああ!!!」


 マルクが背後から急に現れた。ほんとそういうの心臓に悪いから止めてくれ。


「……お、お前帰ったんじゃ」

「フン、我を誰だと思っている。大怪盗マルク様だぞ? この家に潜む事くらい朝飯前だ」


 めちゃくちゃだ……コイツ早く捕まえろマジで。


「クックックッ。そこの男……ホームズと言ったな。とりあえず我の話を最後まで聞いてほしい。聞いてから依頼を受けるかを判断してくれ」

「あ、ああ」


 そう言えば依頼内容を詳しく聞いていなかった。まぁ聞くだけ聞いてみるか。


 ───


 我の次に狙う物は『カロストーン』という魔法石でな、これにはとんでもない魔力が存在する。更にそれはとんでもない価値があるのだ。


 表には出ていないが、確実にこれを使って悪用している奴が存在する。シューベルトって奴だ。


 しかしこれを現在手にしている貴族のシューベルトはとんでもない富豪だ。普通の人間が近づけば消されるのは間違いないだろう。


 ならどうするか? ……我らの出番だ。我らで華麗に盗み出すのだ。


 ……ホームズよ覚えておけ。悪を倒すにはまた別の悪になる必要があるのだという事をな。


 ───


「……うーん。でもなぁ……」


 悩んでいると片桐が俺の肩に手を置き、俺の目を見て話し始めた。


「ホムさん! ボクらがやらなかったらそいつは悪事を続けるっす! 止めるためにはやるしかないんすよ!」

「……分かった」


 確かに綺麗事だけじゃ駄目だな、やる時はやらないといけないな。


 けれども……何故俺らに手伝わせるんだ? 気になったので聞いてみることにした。


「しかし……なんで俺達に依頼する? お前1人で充分なんじゃないか?」

「クックックッ。念の為だ。いざとなったらキミらを犠牲に……」

「あ?」

「ご、ごめんなさい。じ、ジョークだよ? ホントだよ?」


 マルクは声を上げて否定する。しかしコイツならやりかねないな……もし捕まったらアイツに脅されてたって言おう。


 そしてマルクはテーブルに紙を置いた。


「フッ、計画を立てるぞ。場所はルナティア王国の中央、シューベルトの家。日時は明後日の深夜だ」


 マルクは紙に書き込んでいく。


「我らは裏口から侵入する予定だ。隠されているから分かりにくい場所だ。この辺だな」


 マルクは紙に簡単な屋敷の図を書いて、おおよその場所説明する。


「我は最上階にあるとされる魔法石を盗む。キミらは仕掛けられているトラップや、 セキュリティ一を解除して脱出経路を確保していてほしい」

「なるほど。美味しいところはお前が持っていくと」

「フン……したいのなら君がやっても良いんだぞ?」

「……え? いや俺はそんなこと……」


 当然断ろうとしたが……片桐とマルクはグイグイ言ってくる。


「こんな機会滅多にないしやってみればいいじゃないっすか!」

「その通りだ。1度やれば我の気持ちも分かるかもしれん。決まりだな」

「えっ……えぇ……俺はそんな重役したくない……」


 だが2人は俺の言葉に耳を傾けずに、もっと盛り上がっていった。


「あ、ボク予告状書くっす!」

「フッ。今回は書かない。隠されたら困るからな」

「えぇー! そんなの怪盗じゃないっすよ! ねぇホムさん!」



「……いや知らんわ」

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