アルバイトとボランティア活動は1度くらい経験しておけ(3)

 ──数時間後──


「……よし、今日はこれで終わり。本当に助かったよありがとう」

「いーっすよ! とっても楽しかったっす!」


 どうやら仕事は終わったらしい。長かった……本当にこの体は動かしにくい。それに慣れてない仕事をしていたのでとても疲れている。


 俺は片桐に体を元に戻すように頼んだ。


「……早く体を戻してくれ」

「え? 何言ってるんすか? メルちゃんはバイトが見つかるまで働いてほしいって言ったんすよ?」

「……何が言いたい?」

「バイトが見つかるまではボク達が働くって事っすから、ホムちゃんのままっす」


 冗談だろ……?バイトが見つかるまで……? それっていつまでだよ!! 耐えれねぇよ!!


「いや……とりあえず今日は終わったんだし戻してくれよ!」

「ダメっす。戻した瞬間に逃げられたりしたら困るっすから」


 徹底してやがるコイツ……くそぉ……


「えーっとそれじゃあ2人共、明日もアルバイト頼んでもいいかな?」

「うん! もちろんおっけーっす!」

「……はい」


 はぁ……やるしかないのか。逆らったら一生女の子なのだから……


 ──次の日──


 俺達は開店前にやって来て、店の掃除を手伝っていた。俺は黙々とテーブルを拭く。


「次はカウンターを拭いてくれないかなホムちゃん」

「……ホムちゃんって呼ぶのやめろ」

「あーホムちゃん! そんなことメルちゃんに言っていいんすかー? どうなるか分かってますかー?」


 コイツ……!!


 するとカランカランと扉の開く音が聞こえてきた。お客さんが来たみたいだ。だが俺は構わずにカウンターを拭き続ける。



「いらっしゃいませー」


 とメルが言った。


「1人っすか? ならこっちのカウンターへどうぞっす」


 と片桐が言う。お前働いている時くらいは普通の喋り方しろよ……


 お客さんは俺の拭いているカウンターのすぐ近くに座る。いや近いな。俺が拭いてるんだから拭き終わった向こうに座れよ……


 そう思いながら客の顔を見る。


「……あっ、こ、こんにちはホームさん」




 エミリオかよォ!!!!!!!!



 またお前かエミリオ!! 連続で普通来る!? 来ねぇよなぁ普通は!?


 じゃあ何? 俺に会いに来たの?


 気持ち悪っ!!


 ……いや待て。まだそうと決まった訳じゃない。この店の飲み物が美味しくて連続で通いたくなっただけかもしれない……



 いやコイツ昨日ソーダ飲んでたよなぁ!? ソーダなんてどこも一緒だろ!?


 はぁ……はぁ……脳内ツッコミが止まらねぇ……


「……こんにちは」


 とりあえずめっちゃ嫌そうな顔して言ってみる。


 するとエミリオは驚いた顔をした。そうだ……! その顔だ! もっと絶望しろ……!!


「あの、大丈夫ですか? 何だか体調悪そうですよ?」


 察し悪いなぁコイツー!!! 何で迷惑してるって気が付かないの!?


「……大丈夫です」


 もうダメだ。相手してたら疲れる。俺はその場から離れようとする……


「あ、待ってください。注文いいですか?」

「……はい。どうぞ?」

「メロンソーダで」

「……はい」


 ツッコむのももうダルいわ……


 俺はカウンターの中にいるメルに話しかける。


「注文入った。メロンソーダ」

「はーい」


 するとエミリオが会話に混ざってくる。


「あのっ! あの……僕はホームさんに入れてほしいなって……」








 ……正気かァー? お前ぇー? メロンソーダを注ぐ人を指名するのぉー?


 ……まだ何かカクテル? とか作る人指名とかは分かるよ? 何かバーテンダーによって美味さが変わるんでしょ?


 でもお前が頼んだのメロンソーダだからァ!!!! あとここバーじゃねぇからぁ!!! ばかなの!!??



「だってよ、ホムちゃん?」


 笑いながらメルが言う。傍から見る分には面白いかもしれねぇけど!! 俺はすげぇイライラしてんだよ!!


 ……しかし逆らったら一生女の子なので


「……はい」


 従わざるを得ない訳で。


 俺はカウンターへ入り、明らかに市販で買ってきたであろう紙パックに入ってるメロンソーダをコップへ雑に注ぐ。


 ……氷入れるの忘れた。


「クローバー、氷どこにある?」

「ん? ああボクが出しますよ。フリージ!」


 すると片桐の手から氷が沢山出てきた。


「……多い多い」


 めちゃくちゃ出てきた。コップいっぱいに氷が注ぎ込まれた。


「やりすぎちゃったっす」

「いいよ別に……ありがと」


 だってエミリオのやつだもん……


 俺はこぼれまくった氷満タンのメロンソーダをエミリオの元へと持っていく。どうだ。流石にこれで引いただろう。


「お待たせしましたーメロンソーダーでーす」


 ドンとエミリオの前に置く。その衝撃で氷が落っこちたが気にしない。


「ありがとうございます! 」


 ……なに? 嫌な顔ひとつ見せないだと? 相当キマってんなコイツ……


「冷たいの好きなんですよ! サービスですよね? ありがとうございますホームさん!」

「……あ、はい」


 やべぇよコイツ……


「あ、ちなみに僕の名前はエミリオって言います」

「……はい」


 知ってる。知ってるよとっくの昔に。


 つーか本当にコイツグイグイ来るなぁ……何言っても言うこと聞きそうだ……ん?


 ……あ。いいことを考えた。全ての問題を一気に解決出来る方法を思いついた!!


「あの、エミリオさん」

「は、はい! なんでしょう!」

「君アルバイトに興味ない?」

「えっ! ……は、はい!」

「なら良かった。実はね……」


 ──次の日──


「ホムちゃん手紙が来てるっす」

「どんなの?」

「読み上げるっすね」


 クローバーちゃん、ホームズへ


 アルバイトの手伝いありがとう! 実は働きたいって言ってくれた人が現れたんだ! だからもう手伝いはしなくていいよ! 報酬はまた今度支払うね!


 本当にありがとうね。お幸せにね


 メルより


「……だって」

「よし、やったぜ!!!」


 やっとこの体から解放される……!! エミリオには悪いことしたけど仕方ないね。


「よし、じゃあ体を戻してくれ」

「……」

「クローバー?」

「……あっ。あ、はいっす」


 何かよく聞き取れない魔法を片桐は唱えだす。すると俺の体は元の男の体へと変化していき……完全に戻った。


「ふぅーやっぱりこれが1番落ち着くな」

「……はぁ。……ちゃんですら……のに……」

「ん? 何を言ってる? そんなに俺が戻ったのが嬉しくないのか? 」

「全然っ違います! もう何でもないからどっか行っててください!!」


 ……何だ? まぁいいか。元に戻ったし早速……


 カードゲームカフェでも行くかぁー!!!

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