第12話「四名の仲間と一人の親友」

二人のクラスでは今まさにその女仲間四人と藤沢賢治を一目見て気にいった関西系男子が、ひそかに開合を練っていた。朝から、威勢のいい声がクラスに響く。

「いい!?わたしらは豊村さんが居心地のよい学校生活が送れてればそれでいいの、だからいままで遠まわしに見てきたけどなに?あの金髪ヤンキーは?」

「そうよ?私の伊佐様は、もっと高貴なご学友がふさわしくてよ?」

「あんなー、そない言われてもくっついたもんはくっついたんやからしょうがないやろ。藤沢はあれはあれで、ものすごっいい奴なんや、なんか、その伊佐ちゅー、女子のために三年の剣持先輩のグループにタイマンはりにいったんやでー?男やー、あいつはほんまマジで男なんや、真の男なんからなー!」

「私は、藤沢くんのいいところも知ってるわ・・・・・・。だから豊村さん友達できたと思ってとても嬉しかったの、でもそしたら・・・・・・」

「そう、なんかあたしらがしらけちゃってさー。ま!あたしは体育会系だからさ、正直空気とか読めないからさー。そういうところよくわかんねーんだけど。なんか豊村さんがあそこに座ってないとあたしらのグループ調子あがんなくてさ」

「もういいじゃない!豊村さんも藤沢くんもみんな友達よ!いい、今日は夏休みで一回しかない登校日この日に出来るだけ、簡単に二十文字以内であいさつと自己紹介しましょう」

「まーそーいや、わても自己紹介とかなんやよう考えたらしておらなあかんかったんやなーて今おもーたわ、いやわては人知れずしぜーんに友達になれればええんやったんが。こうなりゃしょうがないわい。わても力貸すわ!よろしくー!」

「よーし、じゃあプランB実行、なずけてあいさつと自己紹介で流れ的に友達になる作戦決行!」

そのときだった。豊村と藤沢は同時に扉から入ってきた。

ちょちょちょっとまってよはやい。はやすぎるわー!決心してまだ一秒もたってないじゃない。あーでも少し早く豊村さんが家を出たらつくのは今頃かなー。これも運命だわ!よっしゃ!

「よ、よ、豊村さん。おはよう!」

「ああ、おはようえっと桜花 友恵さんで間違いないかな?」

え?ええー?なんで?豊村さんに先に名前言われちゃったわ。どうなってんの、それも横にいる金髪ヤンキーはヤンキーで関西弁さんに話しかけようとしてるし。

「ええそこの少し物静かな感じで本を読んでるのが、細川 百合さん?」

「あ、はじめまして、豊村さん、わたしとははじめてなのに嬉しい。名前おぼえててくれたんだ・・・・・・」

「あ、うん、でそこの体育会系な感じの日焼けした背の高いのが、えーと」

「おう、大橋 明日香だ。まあ、なんか知らんが名前おぼえよーとしてくれたんだな。ありがと!」

「それからなんか女王様みたいなオーラだしてんのが、高町 天光さんだな」

「あら、豊村様わたしのような人間に挨拶をしてくれるなんて、すみません、いつもはわたしどうしても高飛車な物言いで人を遠ざけてばかりで」

「い、いや全然気にしてないから大丈夫だ。逆に高飛車な人間なんてそういないし、面白いからありだと思うぞ?」

「豊村様、では、あははは、そうですかなら遠慮なく。あなたのような上流の女子こそ、この高町 天光にはふさわしいことでしょう。以後お見知りおきを」

「は、はあ」

「おまえが、島 高次か、島ってなんか覚えやすいな」

「ああ、みんなからいわれんねん、ちなみに下の名前は読みが違うデーコウジじゃのうてタカツグて読むんやー」

「おーたかつぐっ!なんだ苗字とすげえギャップあんのな」

「せやろー、みんな間違えんねん。せやからわしはたかつぐやーってなんべんいうたら、わかるんのやー、もうせやからみんな島でええ島てよべえっていったらなんか逆にタカツグのほうで呼ばれんのやわけ分からんでほんま東京者はへんなところで真面目やさかいなー」

 そんな具合で、ホームルームが始まる。担任は、日本史の教師の日当という古風な先生で歴史を語らせるとまるで当事者のようによく口が回る、それで生徒からはタイムスリッパーとよばれている。まあ、歴史からでてきたような授業となぜかスリッパを履いてるので駄洒落でつけられてしまったのだが、本人はその通称を生徒から聞いて。新しくタイムマシンの最新理論の講義までし始めてそしたらこんどは未来からやってきたかのように授業するのでそのあだ名は、彼のどこか古風な感じにSF的な不思議さがプラスされてますますもしかすると未来か過去からの時間旅行者ではないかと噂されるほどになった。

 そんなこんなでクラスを一通り見回すと。「お、藤沢くんと豊村さんはなんかクラスに溶け込んだみたいだ。よかったなーと」朗らかにクラスの光景を見る。あの周りにぜんぜん無頓着だった豊村がすこし面白そうな顔してとなりの桜花さんと小さい手紙を交換し合っている。あの金髪と迫力でどうしても怖がられていた藤沢が、となりの島と話し込んでいる気の合いそうな仲間を見つけたんですねー。先生はうれしいですよ。けど藤沢くんは、もう少し私の授業にせめて顔だけは向けて欲しいのですがよほどうれしいのでしょうね。まあ、不良みたいに椅子を後ろの島くんの机によっかかけてもう完全に後ろを向いてるのはいただけませんね。

「えー、今日は夏休み恒例の登校日です。夏休み期間中だからといって気を抜いてはいけません。人間平時においてもその素行のいかんをなんとせんや、それを正しむるは、すなわち人格の上なる者なり、と有名な昔の偉人なら渇をいれているところでしょう。じゃあ、教科書をー」

「先生っ!」

「はい、桜花さん?」

「教科書忘れたので豊村さんのを見せてもらっていいですか?」

「桜花さん、宿題はちゃんとやってくるし真面目でいい生徒だと先生は思っているのですがその忘れ癖だけは治りませんね」

「先生、だけど桜花さんたしか、カバンに歴史の教科書しまってるのを見ましたよ?」

「は?豊村さん?」

「い、いや私は」

「桜花さん、教科書もってるならもってると」

「先生、違うんです」

「なにが違うんですかカバンから教科書が見えて・・・・・・それは・・・・・・」

「はい、中学校の奴もってきてしまいましたあー!あーなつかしー!」

クラスに笑い声がこだまする。

豊村さんに耳打ちをするのは後ろの席の細川 百合だ。

「友ちゃんはね、基本真面目で純粋なんだけどすこしぼけがはいってて」

「はは、いいよ見てて面白いから。教科書だったらわたしの喜んで貸すよ」

「やっぱり豊村さんはいい人だな。ありがとうね」

「細川さんは静かだけど優しいんだな。友達になれて光栄だ。よかったらおすすめの本を後でおしえてくれよ」

「う、うん分かったとびっきり面白いのを用意するね」優しいって言われちゃった。優しいって・・・・・・。

「おい、友恵さん、いや私も友ちゃんってよんでいいか?ほら教科書見せるから机あわせろ」

「え、あ、はい!豊村さん、ありがとうございます」

うーわー、豊村さんと机が、わっわわ、近くで見るとやっぱり美人だなあ。教科書忘れて思わぬ幸せだ、いえーい!

「桜花さん、授業中にvサインはないでしょう!なにをうかれているんですか!」

ぎゃー、行動にでてたー、ああー豊村さんがちょっとひいてるー。ううー。

「桜花さん、見てて面白いね、あ、私のことも伊佐でいいよ。豊村さんじゃなんか気まずいしね」

「は、はい!」

やっぱり、隣同士でよかった。くうーなんなのこの喜びは!

「おい、賢ちゃん、わて、宿題半分しかやってこなかったんやー。みしてーな」

「ああ、いいぞ。っておまえ宿題半分って半分は全問正解じゃねえか、なんでもう半分やってこねえんだよ」

「あーあるやろ、なんかこー、宿題って半分までやるとなんか充実感がいい感じなんがいいんやが、もう半分やっちまうとなんか、食いすぎの豚みたいに頭に知識がまわりすぎてなー」

「おまえ、関西人でもぼけのほうなんだなー」

「いやーって、つっこむのそこかい!」

「まあ、俺は結局、宿題やんないと次の授業がわかんなくなるからなー、その食いすぎの豚っていうのはなんか分かるんだがやっぱりやっちまうんだよなー」

「おーせやから、賢ちゃんは男なんや、やることはきっちりやる、かー男らしかー」

「なあ、高ちゃんもやれよ。いまから自分の力で。あの先生、授業の後にだしても受け取ってもらえるんだよなー。俺が、宿題忘れたときなんか、わざと授業遅らせて俺の

提出まってくれるんだぜー?」

「へーあの先生にそないな人徳があるとはなー、賢ちゃんも人を見る眼があるのー」

「いや、おれじゃなくてすげえのは先生だから」

「謙遜するなやー、じゃがやっぱ見してーな。半分のほうぜんぜんわからんわ」

「やっぱりぼけだな、おまえ」

 この学校は校内恋愛をひそかに応援している。この学校の生徒会のポスターが「人生の春に、学校問題になるような大恋愛を!!」とかだし。

 先生の大半はもとは芸術家や名高い文化人、大学教授などさまざま、それらの人間たちは得てして常識外の思考をする。

 生徒にあびるほど酒を飲ませて一緒に酔いつぶれるまで飲み騒ぐ先生がいたり、けれどこと自分の絵画の事に関しては一歩も譲らない子供のような人間だったり。

 合コンや、異性交流会など、恋路にオープンで常に可愛い女子を追いまわし、あげくには男子に恋の道をとうとうと説く先生がいたり。いわくその先生に、甘えて一度、宿題を色仕掛けで帳消しにしてもらった女子生徒がいた。そいつは、そのあと人格の変わったその先生の授業の時、完全に全ての宿題がなぜか一問も他人のと比較して全く別の問題にすり替わっているのを見て、はじめて、大人というものの恐ろしさと感じたという。

 第二次大戦の生き残りのものすごく怖い先生がいたりもした。顔はいつも笑っているが心のそこでなにを考えているか全く分からない。その先生の逸話に、あるとき、生徒がエアガンを使って遊んでいた。銃口が先生のほうへ向けられたとたん、視界から先生は消え、気づくと投げ飛ばされてエアガンを奪われて頭に突きつけられて容赦なく引き金を引かれた。弾は入ってなかった。が、その生徒はぞっとしたという。先生は去り際にニコニコとこういう。「銃を向けたらためらわず一撃で頭を撃ち抜け」生徒らは、その場に固まったまま動けなかったという。その先生を遠目で見ていた柔道、空手部、剣道部一同は、なぜあの先生が武術系の部活の顧問にされないか一目で理解したらしい。およそ、一手でも、刺し違えれば、死人がかならず出ると。三大武術部の部長ら三人衆はいったと言う。こういう猛者ぞろいの高校である。その中でもこの、豊村伊佐と藤沢賢治の輪に新しく入った。女子四名と男子一名もまた、ただものであるはずがないではないか。

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