「恋と危険は何故か似ている」

第4話 「おまえ、うちに来ないか?」

 俺は、その美しい黒髪の後姿に声をかけようとした。

 あいつは珍しく携帯で誰かと話している。

「うん、それで?大丈夫だよ、母さん、父さんもがんばってるし、なにより私がそんなこと絶対させないから。うん安心して」

 携帯で親と登校中に話してるってことは両親とは一緒にすんでないのか?なんだか話し方からして少し穏やかじゃないな。あいつは携帯を切るとすこし立ち止まって空を眺めている。

 ふだんのあいつからしてあいつらしくない。

「おう、よしむら。おはよう、どうしたん?」

 俺は何気なく話しかけてみる。おれのほうを振り向いて

「ん?おう、おはよう、そうか家こっちだったよな、たしか」

「おまえ、携帯なんてもってたのか。初めて見たぞ?携帯使ってるとこ」

「あ、ああこれは大事なときしか使わないから、聞いてたのか?」

「ちょっとな、両親と一緒に暮らしてないのか?」

「うん、家庭の事情でな」

「じゃあ、一人暮らしかよ」

「いや、じいちゃんの家にいる」

「じいちゃん?へえ、おまえのじいちゃんか、なんか実は古武術の達人だったりしそうだ」

「ほお、よく分かったな。なんだボクサーの血が騒いだか」

「へっ?マジであたった?そうかでもおまえのじいちゃんなら違和感ねーよ」

「おまえ、私をどんなふうに考えてんだよ。このへんじゃけっこう有名なんだぞ、あたしの道場」

「へえ、流派とかあるの」

「あるよ、けっこう実践的なんだぜ?」

「もしかして、おまえは武術少女ってわけじゃねえよな」

「まあ、ひととおり教え込まれたよ。じいちゃんの目に止まったやつはたいてい半ば強制的に教え込まされる、今の日本に死ぬまでにあと千人はそういう拳士をつくるんだと」

「うわ、すげえな、千人か元気なじいちゃんだな。拳士って何する人?」

「ん?その命をもって日本の礎になるものだそうだ」

「なんだそりゃ、幕末かよ。坂本竜馬みたいなじいちゃんだな」

「わたしもその一人にされてるからあまり茶化すなよ。じいちゃんが調子にのるから」

「なんだ?調子に乗るって」

「じいちゃんは調子に乗ると武術を教え込まないと落ち着かなくなるから」

「迷惑なじいさんだ」

「そうだ、おまえ、今日の帰りうちにこい」

「はっ?」

「今、弟子が不足しててな、この近辺の奴らは一通り教えてしまって今はどの弟子も実戦

をつむために世界に散ってるんだ。だからじいちゃん、腕が騒いでしょうがなくてよく組み手の相手させられるんだ。こっちはこっちで忙しいからいい迷惑なんだ。おまえは私の見立てではけっこう見所があるから絶対に弟子確定だ。今なら月謝も安くしとく。たぶん、おまえ、強いからすぐ内弟子にされると思うし、そしたら、うちもにぎやかになっていいしな。なによりおまえを見てるのは面白いからな。明日から夏休みだし、夏中退屈しないですむ」

「そうかそれはありがたい・・・・・・ん、へ?はああああ?」

「なんだ、そのあほ面は、男はそういう顔したらいけないって親にいわれないのか」

「お、おまえな、内弟子っておまえの家に住み込むってことだぞ?いいか、おまえは女なんだぞ、どうしたらこんな不良と一つ屋根の下で住みたいなんて思えるんだ?」

「私は面白い奴が好きなんだ。それに強い奴も好きだ。私としてはすでに女としておまえに唇を許してるしな。じいちゃんも反対しないぞ。うちは男が一緒に生活してるなんてしょっちゅうだったしな。大丈夫だ」

こいつ・・・・・・本気なのか意識してないのか。好きとかさらっと言うなよ。それも二回連続で。それからそうだ、こいつとは唇を許した仲だった。俺、なんか、しだいにこいつのこと好きになってるような・・・ば、ばかやろう。うう、だけどおもえばボクシングができなくなってからおれは熱中するものがなくなって少し荒れてたようなところもある。これは結構チャンスかもしれない。

とか考えてると

「でも、じいちゃんの稽古は下手をすると死ぬときもあるから気をつけろ」

 さらっとこいつはものすごいことを言った。

 ど、どうしよう俺。

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