攻撃魔法は苦手ですが、補助魔法で頑張ります!

緋泉ちるは

第1話 プロローグ

 下位のドラゴン討伐と聞いて依頼を受けたのがそもそも間違いだった。

 現在の状況は非常にまずい。というよりも絶望的だ。

 盾役をこなすロイは倒れ、前線でドラゴンの攻撃を捌くのは俺一人。今はその攻撃を防いでいるが、いつまでもつのかはわからない。


「ユージン、離れて!」


 その言葉と共に、ドラゴンからバックステップで離れると同時、氷の槍がドラゴンへと殺到する。

 しかし、それは無意味に終わった。

 魔法を得意とするルカのアイスアローはドラゴンへ到達する前に、身に纏う炎により蒸発してしまった。


「ルカ、エルがロイの回復をし終えるまで魔力を温存しろ!」

「無理よ!」


 ルカは俺の言葉を否定するかのように、ドラゴン程……10メートルくらいの大岩をドラゴンの上から落とす。

 ドラゴンの死角から突然現れた大岩はドラゴンを圧し潰すように落下する。


「これなら……」


 大岩が落下しドラゴンを地面に沈ませる。倒したか? しかし、それは淡い期待だった。


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!」

「きゃっ!」

「ルカ!」


 ドラゴンは大岩を砕き、立ち上がった。そして運悪く、砕かれた大岩は小さい破片となり、周囲に飛び散りルカへと直撃してしまった。

 幸いにも即死には至っていないらしい。が、激痛からうめき声をあげ、倒れこんでいる。



 万事休すか。


 仲間は二人傷つき、ヒーラーのエルはその回復に手が離せない。つまりは俺一人で、此の化物ドラゴンを倒さなければならない。

 正直言って、無理だ。

 しかし、そうは言っていられない。というよりも、相手が待ってくれるはずがない。

 止め……と言わんばかりにドラゴンの口に魔力が集まる。

 ドラゴンブレス……火竜が得意とする炎のブレスが放たれようとしている。最初から使わなかったところを考えると、ドラゴンは狩りを楽しんでいたのだろう。

 これを使われる前に、仕留めなければいけなかった。が、時すでに遅し。


「離れろーーーーー」


 その言葉に反応する……できるものはいない。

 こんな事ならば、依頼内容をより詳しく、裏をとっておけばよかった。

 景色がゆっくりと流れ、ドラゴンの口から炎が吐き出される。

 火龍の翼……俺たちのパーティーは本物の火竜により幕を閉じた。


 筈だった。


「こんにちは、攻撃は苦手ですが、補助の魔法使いは如何ですか?」


 フードを被った少女? が俺と火竜の間にたっていた。


「お、お前は?」

「それよりも、この状況ですよ」


 どうやったのかわからないが、火竜のブレスは消え、俺たちは生きている。


「助かった、お前、名前は?」

「僕はユアンです。Eランクの駆け出し冒険家ですよ」

「Eランク!?」


 ユアンと名乗った少女? はにっこりと微笑んだ。


「とりあえず、この場をどうにかしましょう。報酬の相談は後ほどってことで」


 Eランクの冒険者と聞き、ましては見た目は子供と言っていいほどの少女は手も足も出なかった火竜へと向き直った。

 Eランクの冒険者が手助けに来たとしても焼け石に水だが、それでも一時とはいえ、生き延びた命だ。それならば、精々あがけるところまであがいてみせよう。Aランクと評されている冒険者の意地と誇りにかけて。

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