ドワーフの少女

 少し間を置いてから、直己は気付きたくなかった事実に理解する。


「……あ」


(そうか、この子が僕の濡れた服を脱がして乾かして……。ってことはつまり……)


 恐る恐る、こう訊ねた。


「……えっと、あの、服を脱がしてくれる時……その、何か見えました?」


 ボッ! と、少女の顔が一瞬にして赤面する。


「へっ!? いやっ! あのっ、目、目はつむって脱がしたので! だからあのっ、ま、間違ってちょっと握っちゃったけど、見てませんっ!」


 わたわたと挙動不審な様子で、目をグルグルとさせながらそう答えた少女。


 直己も同じようにテンパり状態になりながらも言葉を返す。


「えっ、握っちゃたって……ええっ!? あ、そ、そっかぁ!? それは……あの、よかったですっ!? ……ハッ!?」


(いや、よくないってば!? 全然よくないってば!?)


 そこまで話し終えてから失言に気付くも、もはや手遅れ。


 しかし……。


「に、人間様にお誉め頂き恐悦至極にございます!」


 未だ混乱している少女が、その失言に気付くことはなかった。


 直己はホッと胸を撫で下ろす。


(よ、よかった……。それにしても恐悦至極って!? 人間様って!? テンパってるにしても、おかしな言い回しをする子だな……)


 それから彼は一旦少女に後ろを向いて貰い、素早く着替えを済ませた。


「……ふう」


 そうして、落ち着いてから訊ねる。


「……そういえば、君のご両親は?」


「はい、セイアーンにおります」


「せいあー……ん?」


(西安? 中国みたいな響きだけど、そういう地名が日本のどこかの県にあるのか? それにつまり、今ここには彼女の親が居ないってことだよな)


 どういうことだろうかと、直己は少しの間思案した。


(こんな子供が一人暮らしをするわけがないし、つまりここは彼女の下宿先か何かか?)


 そう考え至り、なおも質問を重ねる。


「……ええと、君の保護者は?」


「居ませんよ」


「え? ……ああ、出かけてるのかな?」


「いえ、一人暮らしなんです」


「はあっ?」


 質の悪い冗談だと、直己は思った。


「いやいやそんな、騙されませんよ? こんな小さな子供が一人暮らしだなんて……」


「こっ!?」


 少女の頬がぷぅっと、みるみる内に膨らんでいく。


「子供じゃないもんっ! もう十八歳だもんっ!」


 その言い方からしてまさに子供そのものじゃないかと、直己はジトリとした視線を向けた。


「十八って、僕より一つ年上じゃあないですか……。嘘をつくなら、せめてもう少しリアリティを出さないとダメですよ? そんなにちっちゃな十八歳が居るわけ無いんですから。ね? お嬢ちゃん」


 直己がそう思うのも当然のこと。


 少女はとてもあどけない顔立ちをしていたし、身長だって見るからに百四十センチも無さそうであったのだから。


 しかし彼女は顔を真っ赤にして、なおも言い返す。


「し、失礼ですね!? 居ますよ! ちっちゃな十八歳だって居るに決まってるじゃないですか!? 私、ドワーフなんですから! これでも平均身長より一センチは大きいんですからぁっ!!」

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