第2話そして生まれ変わる私たち

そして俺はまた生まれ変わった。

今度は辺境の村、カウルで、仲睦まじい夫婦の元に。

アルと名付けられ、貧しくも健やかに育つ。


「今度こそ、アイツを…!」


そう胸に誓い、今は既に10歳を迎えていた。

記憶もそのまま引き継がれるため、当たり前だが村人たちは俺の事を天才だの神童だのと言う。これはまあ、いつもの事だ。

貴族の頃には戦争にも参加したし、冒険者もやった。だから剣術もお手の物。

ゴブリンに殺されたのだってアイツがゴブリンの巣穴に落ちて数の多さに不覚をとっただけだし、今では大人にも負けない腕だ。


「…ふう。」


日課の鍛錬を終えると、一つ息をつく。

こうして鍛えてるのは勿論、きっと今もどこかで生きてるアイツを振り向かせるため。

今回は見た通り平民だし、向こうがもしお姫様とかに生まれてたら道は遠いが、それでもやってやれないことは無い筈だ。

力も知識も蓄えて、今回こそはと準備を欠かさない。

しかし、そんな俺に予想外の事態というのは常に隣り合わせにある。

今回の予想外、それは…


「アルくぅ~ん!」


同い年とは思えない豊満な胸を揺らしながら駆けてくる女。

そう、かつての輪廻で俺とアイツを嵌めやがった幼馴染クソ女が同じ村で生まれていやがった事だ。記憶が残ってないのが不幸中の幸いと言うべきか。


「アルくん大好き~!えへへ~!」


いきなり抱き着いてきたクソ女。

このふわふわした感じに騙されてはいけない。だって俺は知ってるんだ。この女が超ヤンデレであるという事を。

ゆるふわ系清純派幼馴染?ハッ!そんなもん空想上の生物だ。


「わたしね~?将来アルくんのお嫁さんになるの!そう約束したの!」


無論、した覚えは無い。

俺は黙ってクソ女を引っぺがした。


「あ~!ヒドいよ~!……もしかして~おっぱい当たって照れてる?可愛い~!」


今すぐぶっ殺したい。テメェの乳袋に詰まってんのはドス黒い欲望だけだろうが!


「いいか!何度も言うが俺はお前と結婚する気なんてサラサラねーからな!」

「もうっ、アルくんたらそんなこと言っちゃって~!……村の人たちにも約束のこと言ってあるから。もう遅いよ。」


ぞわっと来た。

ハイライトが消えた目でそんなことを言う。


「はあ?!俺は約束した覚えなんてねーぞ!ふざけんなこのクソ女!」

「ふふ~、12歳になったら結婚できるし~、もう村長さんも私のドレス用意してくれてるって!良かったね~アルくん!」

「こんの…!」


拳を振り上げると「きゃ~」と嬉しそうに逃げる。…しかしこれは罠だ。俺には分かる。

もし追いかければ村の人に「あらあらホント仲が良いわね~」とか頭沸いたこと言われるだろう。かと言って追いかけなければ何を吹聴されるか分からない。

まさに負のスパイラル。


「…12歳まであと2年か。」


だが残念だったな。俺はもう親父と12歳の誕生日にこの村を出ると約束してあるんだ。

12歳であれば冒険者になれるし、15歳までにお金を貯めて、もう累計何十年通ったか分からない騎士学校へと入学する。

そこでいい成績は間違いなく修められるだろうから、完璧に整えてアイツを俺に惚れさせるんだ!


・・・・・・・


・・・・・・・


・・・・・・・


そして私はまた生まれ変わった。

今度は中流貴族か…。アイツも貴族だったらどうしよう。

お見合いとかさせられたらアウトね。気を付けなきゃ。


「テオナ、居るかい?」

「はい、こちらに。お父様。」


部屋に入ってきたのは父であるメーネウス・フォン・ルクセンバルム。

国王直属の首席補佐官で、中流貴族の生まれながらに大貴族を押しのけて実力だけでのし上がった人物だ。

普段は優男なのに仕事の腕はピカイチらしい。


「ああ良かった。少し話があるんだけど良いかな?」


…まさかお見合いとか言うんじゃないでしょうね?貴族だから10歳の私でもそれはあり得る話。


「そんなに警戒しないでくれ。悪い話じゃないから。」


この人の凄いところは顔色を見ただけで考えを察せるところだ。流石は首席補佐官ね。


「す、すみません。改めて話と言われると構えてしまって…。」

「良いんだよ。…それで話なんだけど、君ももう10歳だ。先の事は考えているかい?」

「先の事?」


うわ、めっちゃ嫌な予感。


「例えば結こ…」

「お断りします。」

「え?」


私は機先を制する。


「確かに貴族の娘としては早い話ではありません。ですが私は私の実力で生きたいのです。」


父は驚いた顔をした。

だって当たり前でしょ?もしアイツとそこで知り合ってしまったら逃げられないじゃない。そうなればまたバッドエンドが待ってる。もう首チョンパは御免なの。


「…なるほど、分かった。それなら僕もこれ以上は言わないよ。」


ほっ…。頭の固い人じゃなくて良かった。


「でも自分の力を試したいのなら、15歳になったら学校へ通ってみないかい?親馬鹿だと承知で言えば、君の頭の良さはもっと磨けば女性初の首席補佐官にだって成れるさ。」


学校か…アイツと出会っちゃう可能性も大きくなってきちゃうけど、そこが落としどころかしら?

それに記憶も経験も豊富な私からしてみれば、学校なんて累計何十年通ったかも分からない程だし、シングルで生きていくなら確かな学歴が必要だ。そこで首席でも取れば結婚なんて考える暇もないほど忙しい日々を送れると思う。

でも、


「…そこは…女子校ですの?」


これだけは確認しとかなきゃ。同じクラスとかになったら悲惨よ。今度は悪役令嬢とかに成りかねない。


「勿論さ。王立士官学校にと考えてるからね。男子は騎士学校になるから女性しか居ないよ。」

「なら入ります。…ふふっ、将来はお父様を蹴落として差し上げますわ。」

「あははっ!うん!その意気だ!」


…まあ、経験をフルに活かせば多分かなり上までのし上がれると思うし。

それにしても女子校か~!何転生ぶりだろう!女性しか居ない空間とか安全で快適じゃない!今の私にピッタリね!


「…で、だ。その…お願いがあるんだが…。」

「分かってます。お母様には私から話しておきますわ。」

「ありがとう!君は本当にいい子だな。」


安心したように頭を撫でてくる父。

実はこの人、超尻に敷かれてるのよね。なんでも昔、冒険者だった母に夜這いをかけられて私を身ごもり、半ば無理矢理結婚したみたいだし。


「さて、当面の問題はこれで解決ね。」


…と、その時はそう思ってたのよ。

なのにどうしてあんなことに…。

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