第10話 揺るがぬ玉座

 新しいディーラーは、ラスベガスから連れてきたという国籍不明のアジア人だった。

 サカモトの腕前も申し分なかったのだが、この男も無口に、そして器用にカードを捌く。


「……アンタが噂のポーカーキングか」

 隣に座った小男が囁く。


「そのあだ名……カッコ悪いからさ、魔眼の王とでもよんでくれ」

 田上は早速、ジョニーのつけたあだ名をもじって使った。


「魔眼ねぇ……」

 小男は田上の目を見る。そこにあるのは、なんの変哲もない焦げ茶色の瞳が2つ。


「アンタは、なんでこんなところに来たんだ?」

 田上は初めてここに来てから、毎回対戦相手にこの問いかけをする。田上はそれを密かに〝儀式〟と呼んでいた。


「それ! それに答えると、必ず負けるんだ。答えてたまるか!」

 小男はヒッヒッヒといやらしい笑い方をしてから、両手で口を塞いだ。


 それを見た田上の目がゆっくりと開かれ、驚くほど大きなその瞳から放たれる視線が、小男の目を貫く。小男はそれを見てたじろいだ。


「俺は、勝ちたくてこれを聞いてるわけじゃない。アンタのために聞いたんだ。言いたくなきゃ、それでいい」

 そう言うと田上は目を閉じた。


「なっ、なんなんだよ……」

 小男はディーラーに向き直って、田上を横目で睨みつけた。


 カードの封が切られ、内容物が公開される。52枚。過不足なし。


 ディーラーが流れる様な手つきでカードを集めた瞬間、田上の目が見開いた。


 田上の瞳がライトを反射し、ダークブラウンの瞳はオレンジ色に輝く。そして、白眼は血走り始めた。

 アジア人ディーラーはその様子を見ても慌てる事なく、カードをシャッフルする。


 そして、プレイヤーたちに2枚ずつ、カードが配られる。


 ルールはテキサスホールデム。

 手札2枚と、場のカードで役を作るポーカーゲーム。


 プレイヤー達は、自分のカードを、少しだけめくって中身を確認しようとした。


 ──その瞬間。


 田上の血走った目が、プレイヤー達を睨みつけた。順番に、素早く。


「ひっ……」

「うおっ……」

「な、なんだよ!」


 プレイヤー達は口々に田上の視線に反応し恐怖する。


 この動きの隙に手札を交換したという抗議が出たこともあったが、田上の手は後ろ手に組まれており、怪しい動きは一切なし。監視カメラもそれを確認。その時抗議した者は〝全身清算〟を余儀なくされた。


 そして、場のカードがめくられようとしたその時。


 田上の手が、ディーラーの腕を掴んだ。


「アンタ……すり替えは良くないぜ」


 田上に捻り上げられたディーラーの手から、カードが零れ落ちた。


「フェアなサカモトの方が、まだマシだったな」


 今晩も魔眼の王は玉座を譲らず、王の足元には、命が積み上げられていった。

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