第2章 真竜が住まう港町ブルース

第20話 新たな旅路とアリッサのとんでもない置き土産

「アリッサ様」


「ん?」



疲労感が残るままアリッサはぐしゃぐしゃに泣いているリーシアをなだめながら王城の入り口へ戻って来たところで、ジェニファに呼び止められた。



「旦那様からこれをと」



アリッサは泣いて話にならないリーシアを強引に引きはがしてジェニファから3枚のカードを受け取る。



「冒険者カード?」


「はい。アリッサ様はこの世界において身分を証明できるものがありませんよね?国境を超える際そのままですと捕まる可能性がございます」


「ああ、全然考えていなかったわ。助かる。んで、あと2枚はアザムくんとバニラのか」


「バニラも持っていたのですが、もう家名を捨ててしまったので前のものは破棄したのです。それとアザム様は大変特殊な立ち位置におられる方でこちらも扱いに悩んだのですが、持っておいた方がよいかと思いまして」


「確かにアザムくんはオレの使役モンスターじゃないからな」


「かといってそのままですと下手に人を怯えさせてしまうかもしれませんので」


「ドラゴンはまだまだ人に恐れられる存在だもんなぁ」


「はい、伝説のモンスターですから」


「ジェニファ、オレも渡すものがある」



アリッサは冒険者カードを受け取って代わりにインベントリから新垣達の装備を取り出す。



「これを新垣達に渡してくれ。今リーシアは話にならんから頼むわ」


「承りました」


「あとこれ3人とリーシアに」



更に学生組に宛てた手紙とリーシアに向けた手紙をそれぞれ渡す。



「落ち着いたらリーシアと一緒にジェニファも見てくれ。オレがこの世界で幾度なく戦って絶対にどうしようもねえ極悪人や注意すべき人間をリストアップしたのをリーシアの手紙に書いている。出会ったら気をつけろ」


「分かりました。これは旦那様と共有しても?」


「ああ、流す程度に見てくれればそれでいい。あまりオレの情報を鵜呑みにされても困るからな」



伝えるべきことは伝えた。一つ頷いたアリッサは『んじゃオレ、行くわ』と言って踵を返す。



「ありっざあああああ!!」


「そんな顔で泣いたら美人が台無しだぞー!!じゃあなー!!」


「お世話になりました!お元気で!!」


「ああ、こちらこそ世話になった!ジェニファが頼りだ!!」



外で待っていたマーカスに飛び乗って走らせる。ぐしゃぐしゃのアリッサに苦笑いし、爽やかに見送るジェニファには力ある限り手を振った。








「何だか肩の荷が降りたな。少し時間を食ったけど2人はもう帰ってきているか?」



ものの数分で鍛冶小屋についたアリッサは外にいても良い匂いがする小屋に『おや?』と首を傾げる。



「ただいまっと。なにしてんの?」


「おお!姉御!実はな食材を買いすぎてしまってどうすればいいのか考えたら、姉御のインベントリって入れている間は時間が停止しているんだよな?」


「そうだけどってまさか作り置きしていくのか!?頭いいな!!」


「だろ!?」


「だろ!?ってそれ私のアイディアですー!もうアザムさんが無計画に食材を買い込むからこんなことになるんですよ!」


「バニラが作っているのか」


「はい!腕によりをかけて作らせていただきます!すみません、今手が離せないのでそこのテーブルに買って来たコンロがありますから、それでいいか確認をお願いします」



キッチンから声だけ聞こえるバニラに礼を言いつつ先ほどから火をつけたり消したりを繰り返して魔法コンロを弄っているアザムに近寄る。



「これが魔法コンロか。どう?」


「別に故障しているってわけでもねえ。ただ店主が言うには魔法コンロなんて嗜好品だから買い手がなかなかつかなくてよ、だから全然入荷してなくてこれしか売ってなかったんだわ」


「なるほどね」



アザムから余った金を受け取り金貨袋ごとインベントリにぶち込むと金が加算されて行く。



「このコンロで17万ゴールドか」


「だな。これでも最初は20万で吹っかけてきやがったからちょっとドラゴンになって脅かしたんだわ」


「………店主大丈夫だったのか?」


「聞いてくれよ!これが傑作でさ!ちょっとドラゴンになって詰め寄ったら泣くわションベン漏らすわで大変でさ!」


「当たり前だろうが!!」


「いで!」



ドラゴンにも物理攻撃が通るくらい強くなったアリッサのゲンコツはアザムの脳天にしっかりと当たり、アザムはしゅんとなって頭をさする。



「まぁそのおかげで3万も値切れたのならこれ以上言わないけど、これから人間とウィンドドラゴンの交易が始まるんだからあまり脅すようなことはするなよ?怖くなって誰も取引しようと思わなくなるかもしれないからな」


「ああ、そうだったな。悪かったよ」


「分かればいいさ。で、これは使えるってことでいいんだな?」


「問題ねえ。少し型が古いらしいが、ここ2、3年のものらしいんだ。いいだろ?」


「全然構わない。しかし、作り置きが出来るってことはコンロ買わなくても良かったんじゃ……」


「何言ってるんですかー!魔法コンロなんてメイドなら一度は憧れる嗜好品ですよー!持っておいて損はないです!」



と、我がパーティーの台所を預かるバニラのお言葉でこれ以上は考えないことにした。



それから既に太陽も傾き始めた頃で遅めの昼食を3人で取った。



「バニラ、アザムくん。これ冒険者カード」


「ん?なんだこれ?」


「ああ、失念していました。確かにこれがないと国境を渡れませんもんね」


「アルバルトさんの粋な計らいだ。なんかBって書いてあるけど、オレ最初からBランク冒険者でスタートしてんの?」


「そう、みたいですね?私は前と同じCランクですが」


「オレはAって書いてあるぜ?」


「1体で国を滅ぼせるドラゴンの君がCとかDだったら逆に驚くよ」



ご飯を食べながらアリッサは2人に冒険者カードを渡す。アザムは初めて見るものに興味津々で裏返したり、自分の顔の写真が印刷されたカードを見て顎をさすったりしている。



「アザムくん光栄なことだね。Aランク冒険者はオーディアスでも15人しかいないんだ」


「へえ?でも人族の基準だろ?ランクなんかに俺は興味はないんだが」


「アザムくんが目指しているのはブラックドラゴン級だもんね。確かにこんな文字如きで喜んでいる場合じゃないか」


「未だにブラックドラゴンを討伐したという冒険者はいませんね……Sランクの雷帝様はサンダードラゴンの討伐に成功したと聞いているのですが」


「雷帝様……ああ、エドル・バーミリアンか。その話って相当前じゃなかったか?」


「ええ、今から200年もの前の話ですね」


「その話なら俺も知っているぜ?竜族なら誰もが知っているお笑いの話だ」


「どういう伝わり方してんの?」


「なんてことねえ、サンダードラゴン族のドラゴンが倒されたことで部族全体のドラゴンとしての威厳が落ちたと笑われ者にされたって話だ。人間族に負けるとは情けないってな」


「ドラゴン族は最強のモンスターの一角ですもんね。負けることなんて鼻から考えていなかったのでしょう」



コップの水を飲んだアザムはその話を笑い飛ばさなかった。



「姉御、俺達ウィンドドラゴンはたった1人の冒険者に里を壊滅させられるほどのダメージを受けたと報告をした。多分俺達は過去最悪の笑われ者になるだろう。下手したらカラードラゴンから名前を抹消されるかもしれねえ」


「………すまん…」


「姉御が謝る必要はねえよ。ただオレはこの先姉御に他のドラゴン達が危害を加えに来るんじゃないか?って思っているんだ」


「それは面倒くさいなぁ……真竜に話はつけたんだっけ?」


「族長がつけていると思うが、ドラゴン族はプライドが高いから何とも言えんな」


「インドラが直接来てくれれば話は変わるんだが」


「はは、族長ですら顔を見たことがねえんだぜ?そもそも下に降りて来るかよ」


「それもそうか。ちなみにインドラは女の子だぞ。確か白い肌の金髪美少女だった気がする」



何言ってんだこの人、みたいな目でバニラとアザムに見られたところで今日はお開きになった。既に夜の帳は下りており、アザムは取っていた宿へ帰っていき、外にいるマーカスは1日だけ外にいてもらった。



「ん?」



まだ寝るには早い時間帯なので、ディケダインの部下や本人を倒したことでレベルが60になっていたなどアリッサは自分のステータスを見ていた。

そこで自分に新たなスキルが発現していることに気付いたのだ。



「一斉射撃?」



バニラはいまだに料理を作り続けている。そんな彼女に少し外の空気を吸ってくると言って外へ出るなりスキルを使ってみることにした。



「ええと……射撃に分類される武器をランダムに5つ頭上に展開する。で、動きは連動するのか。発動条件はメイン武器に弓、ボウガン、銃、大砲を装備している時のみ可能とな」



とりあえず適当な弓を手に持ち、スキルの一斉射撃を頭の中で叫ぶと頭上に次元宝物庫の穴が現れ、中からアリッサが収集した弓やボウガンが出て来る。銃と大砲はない。



「ん?銃と大砲の武器にバッテンマークついてんな?なんでだ?」



今まで武器投擲は全て物理に属すものしか選択されなかったが、今回のスキルは簡単に言えばそれの射撃版なのだろう。だが、銃と大砲が出現しないのは一体全体どういうことなのだろうか。



「あ?」



仮想ウィンドウを呼び出してバッテンマークを押してみると詳細が現れ、そこには『マキナの知識が必要です』と書いてあった。



「マキナだとー!?だっる!!」



一気に熱が冷めたアリッサは早々に小屋へ戻り、どっかりと椅子に腰かける。



「大声を出していましたけど、いかがしました?」



料理もひと段落したのか、様々な料理をテーブルに出してはそれをアリッサが回収していく。



「バニラはマキナ遺跡って知っているか?」


「マキナ遺跡………確か学園に通っていた頃歴史学を教えている教授の研究対象がそんな名前だったような……」


「マキナ遺跡っていうのはロストテクノロジーって奴でね。オーパーツとも呼ぶ」


「オーパーツ!神器ですね!」


「そうそう、神器。古代人が作ったとか言われている現代になっても未だにブラックボックスな代物。マキナ遺跡は古代人が残した生産工場とも言うべきか…?ロストテクノロジーの宝庫でね。多分誰も発見していないと思うんだけど、話題に出た時とかあった?」


「一時期トレジャーハンターが遂に伝説のマキナ遺跡を見つけた、とか新聞で掲載されましたけどその後音沙汰ないので皆嘘だと思っているみたいです」


「マキナ遺跡は存在する」


「ほ、本当なんですね……」


「ただ今のオレ達が行ってもどうかな……でもあんまり放っておくとなぁ……あいつらが出て来るかもしれないしなぁ……」



1人でうんうん唸るアリッサに話が全く見えないバニラは苦笑するしかない。



「えと、バニラって銃は知ってる?」


「銃ですか?はい、ドワーフの国の主力武器ですよね?弓よりも遠くに飛んで威力も桁違いだとか」


「実はドワーフの国にもマキナ遺跡と似たような遺跡があって、それを昔のドワーフが何とか自分たちの技術にしたんだよ。ほら、獣人国には飛空艇があるだろ?あれも元は古代人が残したロストテクノロジーを解析して作った奴なんだ」


「そう考えますと亜人族や獣人族の方が発展していますね」


「まぁね。この世界の人間族はかなり技術進歩が遅れている」


「また違った世界もあったんですか?」


「あったよ。それこそオーディアスがもっとでかくて空は常に人を運ぶ小型の飛空艇から多くの人を乗せる大型の飛空艇が飛び交っていたよ」


「夢のある話ですね。全く想像できないです」


「まぁバニラ達はいねえしな」


「え!?私達いないんですか!?」


「多分今から100年後の世界の話だよ」



再び全く想像できないです、と言ったバニラを見て笑いつつ話が脱線したので戻す。



「要は銃を扱うにはマキナの知識って奴が必要でさ。いつかマキナ遺跡に行かないといけないんだよね」


「こ、古代遺跡にですか……そんな前人未踏の地に軽々しく行けるもんなんですかね……」


「アザムくんの力が必須だろうね。あと幻術殺しがないと辿り着けないんだ」



またウィンドドラゴンの里へ行くときのようにジャバウォックの大剣を走らせる必要があるようだ。



「まぁそれはまた今度でいいや。それよりオレの防具どうっすかなぁ」


「アリッサ様の防具はボロボロになってしまいましたもんね……」


「ディケダインの拳一発で胸当てはぶっ壊れるわ、アスガルドの霊体に片腕引きちぎられるわでほんと参ったよ」


「アダマンタイト鉱石で作ったんですよね?」


「そうなんだよ。でも、オレの片腕がアスガルドになってからアダマンタイトなんて易々引き裂く書いてあるから、そりゃ意味がなかったわ」


「人類が発見した鉱石の中で最高位なんですけどね……」


「混ぜたのがフォレストウルフの亜種だし、そもそも品質が良くなかったから壊れて当然なのかなって思っていたりもするけどね」



現在アリッサはバニラが仕立ててくれた私服であり、なんの加護もついていないただの布である。



「こちらで作っていかないんですか?」


「めっちゃ時間かかるし、ここらへんで取れるモンスターなんてたかが知れているから作成意欲が湧かないんだよね」


「では、ブルースの町で?」


「そうなるのかなぁ?道中はアザムくんとマーカスでどうにかなるんじゃないの?つか、バニラのクラスとレベルはいくつ?」


「はい、私はクラスがハイアサシンでレベルは50です」


「なかなかだね」



真眼を発動させて勝手にバニラのステータスを覗き見する。



バニラ・イエーガー


ハイアサシン:レベル50


イエーガー家最強のアサシンにして現当主『リブスン・イエーガー』がメイドに手を出して生ませた妾の子。実はそのメイドがブラッディ・シャドウ幹部メリシュ・ランティーノの母親だと彼女は知らない。



「え………」


「はい?どうかしましたか?」


「バニラって自分の母親を知っている?」


「いえ……知らないですね。母は私を生むなり故郷に帰ったと言われていますから」


「世間は狭いっていうか貴族の闇が深いっていうか…」


「ん?」



知らなくていい秘密を知ってしまったアリッサはバツが悪そうに顔を背ける。



「風呂入って寝るか」


「はい!」



少々強引に話を打ち切ったアリッサに特に反応も示さなかったバニラは風呂の準備をせっせとするのであった。







早朝、人通りも少ないオーディアスをアリッサ達は静かに出発した。


リーシアの教育の賜物かマーカスは地図を読めるようになっており、アザムが荷台に乗って手綱を握っているが正直いらない気がする。


そしてバニラとアリッサは馬車の座席にクッションを敷いて快適な馬車の旅を景色を見ながら満喫していた。



「ねっむ……」



朝早く起きるなんていつぶりだろうか。そして前日までは徹夜して朝に寝たもんだから更に眠い。



「バニラ、これ馬車の外に吊るしておいて」



インベントリから出したのはウィンドドラゴンの族長イレラから譲り受けた緑の炎が入ったランプだった



「これ、魔物除けの効果あるから」


「分かりました」



走る馬車から身を乗り出し、腰の袋から紐を取り出したバニラは器用に馬車の屋根に付けて行く。



「つけました」


「うん、ご苦労様。んじゃオレは少し寝るわ」



向かい側の席が空いているのでそちらに移動しようと思ったらぐいっと腕を引っ張られる。



「どうぞ!私の膝をお使いください!」


「いいの?長時間寝るよ?」


「それくらいで根を上げるほどやわではございませんので」


「んじゃお言葉に甘えようかな」



こうして意図せず人生初の膝枕をしてもらうことになったアリッサは、少しひんやりとするスパッツのような生地のハーフパンツを着たバニラの膝で眠った。






アリッサは知る由もないが、馬車の作りが良いせいか途中盗賊と何度も戦闘があった。しかし、それを全てバニラが処理したのでアリッサが気付くこともなく馬車は快適な旅を続けた。



「アリッサ様」


「ん?」



アリッサ一行は太陽が少し傾いたところで次の町ジュライに着いた。



「今日はここで一泊しましょう」


「ジュライに着いたか」



欠伸をしながら馬車から降りるとアリッサの眼前にはどこまでものどかな牧場が広がっていた。



「農業町です。オーディアスにある穀物と家畜の6割はここから出ているそうです」


「あー腹減ったぜ。今日はもう飲んでいいんだよな?」


「ああ、そういう予定だからな。アザムくん、渡した金はそれだけだから計画的にね?もしなくなったらギルドで依頼でも受けて金稼いでね」


「おうよ!んじゃまた明日会おうぜ」



と、アザムは金貨袋を手に町の中へ消えて行った。とりあえずアザムは放っておいてアリッサ達は今夜の宿を取る。



「2人と外にいるオレの馬車用の宿で」


「あいよ。馬車込みで銀貨1枚だ」


「ほい」



店主は小太りの気の良さそうな中年男性だった。



「これが部屋の鍵だ。荷物は?」


「ん?ああ、えと、馬車にあるんで後で」


「そうか。まあ盗難には気をつけろよ」


「ご忠告ありがとうございます」



インベントリに全部ぶち込んでいるため荷物などほとんどないアリッサ達は、荷物を取る振りをして外に出る。



「少し町を見てみるか」


「わかりました」



こうしてアリッサのあてもないぶらぶらとした旅が始まった。





そして一方新垣達はリーシアからもたらされた知らせを受けて驚愕のあまり固まってしまった。



「え、アリッサ先輩抜けるんですか?アザムさんも?マーカスさんも?」


「うちら何も聞いてないんだけど……」


「………」


「ごめんなさい、陛下からの別任務を直々に使命されてしまったのよ……その代わりジェニファが新しく入るわ」


「ジェニファです。これからよろしくお願いします」


「ジェニファのクラスは新垣君と同じ剣と盾を持って前に出るハイ・ソードよ。前衛が3人になってしまうから、麗奈ちゃん。頑張るわよ」


「は、はい!」



頭を下げたジェニファと3人は握手をし、自分のクラスと何が出来るのかパーティー内で共有しておき、頃合いを見てリーシアは背後に控える3人のメイドに指示を出し、彼女らは豪華な箱を持って3人の前へ出る。



「オーディアスを出る前にアリッサから貴方たちへのプレゼントよ。ちゃんと仕事していったみたいね?その防具は国宝級よ」


「開けてみても?」



受け取った3人を代表して新垣がリーシアに尋ね、彼女は頷くと3人はほぼ同時に箱を開けた。



「うわあ!!」


「こ、これがアダマンタイト……!」


「綺麗ね……七色に光っている……」



開けた箱には3人それぞれの特徴を考えられて作られた武器と防具と一通の手紙が入っていた。



「えーと……アリッサによると新垣君のはウィンドドラゴンの素材を混ぜたアダマンタイトの小手ね。防具としては間違いなく一級品で特殊能力は―――」



嵐牙竜の小手


神級鍛冶師アリッサの手によって作られたウィンドドラゴン防具の最上級シリーズ。普段は銀色だが、光を受けることでウィンドドラゴンを示す緑色から虹へと変わる。アリッサの想いが込められたこの小手は、彼女が作り上げた盾と連動し盾の防御率を底上げする隠し能力が備わっている。


HP+70 耐久力+80 攻撃力+20 精神力+40 敏捷+5


ユニーク能力:ウィンドドラゴンの加護(装備の重量を軽減、風属性ダメージを半減し、敏捷率を1.2倍にする) 

 神級鍛冶師アリッサの力作(アリッサが作り上げた武具に連動し、装備の能力値を1.5倍にする。なお、この効果は重複しない)


付与能力:アダマンタイトの守り (耐久+15) 精神能力強化 (低) 



「す、凄い強いですよこれ!!市場で見たどんな小手よりもやばいですって!」


「当たり前よ、アリッサが貴方のためだけに作ったのだから」


「アリッサさん!!ありがとうございます!!僕!強くなって皆を守ります!!」



ここにはいないアリッサへ新垣は涙を流しながら何度も何度も頭を下げた。



「次に武人君ね。武人君のは新垣君と同じウィンドドラゴンの素材で作った靴みたい。どう?重くない?」


「いえ、むしろ軽すぎて靴を履いているのか疑問になるくらいですね」


「それはウィンドドラゴンの加護がついているせいね」



嵐牙竜の軽業靴


神級鍛冶師アリッサが作り上げたウィンドドラゴン防具の最上級シリーズ。ブーツのような見た目だが、外側にはウィンドドラゴンの鱗と中側にはアダマンタイトが入っており、防具としては最上級。そして靴裏に大地をしっかりと踏みしめることが出来るスパイクもついており、これだけで武器として機能する優れもの。



HP+40 耐久力+40 攻撃力+60 精神力+35 敏捷力+70


ユニーク能力:ウィンドドラゴンの加護(装備の重量を軽減、風属性ダメージを半減し、敏捷率を1.2倍にする) 

 神級鍛冶師アリッサの力作(アリッサが作り上げた武具に連動し、装備の能力値を1.5倍にする。なお、この効果は重複しない) 

 隠し武器(足裏に仕込まれたスパイクが武器として機能し、格闘スキルを発動することができる)


付与能力:アダマンタイトの守り (耐久+15) 精神能力強化 (低) 



「おお!足技も使えるようになるんですか!?足を使ったスキルが出来たのは良かったんですけど、どうしようかと今まで悩んでいたんですよ!」


「アリッサは見抜いていたみたいね。これで更に攻撃の範囲が広がったわね」


「アリッサ先輩!!あざっす!!この御恩は忘れない!!うは!足が軽いぞ大樹!麗奈!」



クリスマスプレゼントを貰った子供のようにはしゃぐ武人に新垣は良かった良かったと涙し、麗奈も目元に涙を浮かばせる。



「そして最後に麗奈だけど、貴方だけ武器ね」


「はい、これもウィンドドラゴンのナイフなんですか?」


「そうね、だけどちょっと違うみたい」



神狼竜アストラルステーク


神級鍛冶師アリッサが作り上げた麗奈専用武器。ウィンドドラゴンとウルフ種族最強のアスガルドの素材が使われたアリッサのオリジナル武器であり、その力は聖剣と比較しても引けを取らない他の武器達に差をつける秘めた力を誇る。


HP+15 耐久力+10 攻撃力+120 精神力+70 敏捷力+60


ユニーク能力:ウィンドドラゴンの加護(装備の重量を軽減、風属性ダメージを半減し、敏捷率を1.2倍にする) 

 神狼アスガルドの畏怖(全てのウルフ族へ対するダメージが上昇し、1体までならどんなウルフ族だろうと使役することができる)

 神狼アスガルドの一撃(アスガルドの必殺技アストラルクローを短剣スキルに追加する。この技はたとえ相手が霊体だろうとダメージを与える。相手に追加効果で耐久力大幅ダウン、風属性耐性大幅ダウン、腐敗、毒、混乱、幻覚を与える。使った後自身は精神力が極限まで下がり、クールタイムを5日間必要とする)

 風の刃生成(精神力を使うことで短剣に風の刃を纏わせる)


付与能力:アスガルドの加護(地形が森の場合攻撃力が1.2倍上昇し、敏捷力も1.5倍になる)

 風に乗る(短剣から風を噴出して相手を怯ましたり、高速移動を可能とする)



「え!?アスガルドの素材入っているんですか!?ど、どうして!?」


「自分の左腕の毛と爪を取って使ったそうよ」


「あ、あぁ……なるほど……便利ぃ……」



刃渡り30cmほどのロングダガーで刀身は緑色に光る。この短剣の凄まじいところは精神力を込めることで風の刃を生成し、最大120cmのロングソードに変形するところである。その威力は土属性最強の聖剣に届くとされ、麗奈が悩んでいた攻撃力を完全にカバーするほど。



「くれぐれも使いどころを間違えないようにとのこと。なんかそれ解放して使ったらうちの聖剣使いを圧倒するほどの力らしいわよ」


「ひ、ひえええ!まじやばたにえんなんですけどー!!アリッサ先輩ありがたいですけどやばいですって!」


「それくらいアンタたちが心配なんだよ」


『………』


「あと3人に手紙があるから、暇な時に読んでおくこと。それと麗奈ちゃん、一度その短剣使っておいた方がいいわ。威力を試しておきましょう」


「そうですね、今の精神力でどれくらいの威力が出るかわかりませんが、把握しておかないといざという時使えませんもんね」


「僕も見ていいですか?」


「俺もいいか?」


「もちろんよ。私達はパーティーなんだから麗奈の新しい力を見ましょう」



5人はそのままオーディアスの裏山へ移動した。ここは兵士たちの実戦訓練場として使われており、勇者特権とリーシア家の権力でごり押しし、入り口の兵士達の許可を貰って入った。



「あれ?リーシアさんの槍も変わってますね?アリッサさんのですか?」


「ええ、私もアリッサに作って貰ったのよ」



5人はそれぞれ武器と防具を身に着け、ただっ広い訓練場に立っている。



「かっこいいですね。なんかドラゴンライダーって感じがします」


「ドラゴンライダー?」


「大樹が読んでいるライトノベルに出て来る奴だろ?ドラゴンに乗って戦う女の子」


「ああ、騎馬みたいなものね。まぁこの槍もウィンドドラゴンから出来ているし、あながち間違いではないかもね」



少し談笑してから、4人は少し震えている麗奈へ向き直る。



「よし、麗奈。いつでもいいぞ」


「岩とか落ちて来ても大丈夫だよ。僕のフォートレスシールドで守るから」



レベルが上がったことで新垣は『フォートレスシールド』というスキルを習得した。これは新垣を中心に半球型のシールドを生成するスキルで、広範囲に味方を守れる優秀なスキルである。



「ん、んじゃやってみる」



深呼吸をし、短剣を両手で握った麗奈は刀身に意識を集中した。



「うお!?」


「わっ!?」


「―――っ!」



次の瞬間訓練場に風が吹き荒れた。風は麗奈の短剣から漏れ出すように発生しており、彼女は暴れる短剣を押さえつけて必死に制御しようとする。



「麗奈!その短剣は生きている魔剣よ!貴女が主だと分からせるの!!」


「え!?そ、そんなこと言ったって!!」


「アリッサさんはとんでもないものを作ったんですね…」


「こいつはやばい気がするな」


「あ、あたしの言うことを聞いて…!!」



麗奈の額から汗が零れ落ちる。そして荒れ狂う暴風のなか、騒ぎを駆けつけたオズマン公爵がいつもの兄と弟を連れて訓練場へやってくる。



「何事だ!?」


「リーシア!またお前か!!」


「これは一体…!!」


「お、オズマン公爵!?ちょっと待っていてください!」


「お願いします!麗奈の成長を見届けてください!!」


「お願いします!!」


「ふむ……この風はあの短剣からか……」



そこでオズマンは背中に背負った聖剣がカタカタと震えているのを感じる。



「聖剣が震えている…?あの短剣はなんだ…?」


「父上、いかがしますか」


「やめさせましょうよ!あれは危険だ!」


「今強引に止めればあの力は暴走してしまうだろう」


「な、ならどうすれば!?」


「あの少女が制御するしか他にあるまい」


「そ、そんなぁ!?」



息子の意見を聞き、オズマンは必死に短剣を抑える麗奈を見る。



「麗奈よ!その短剣は貴様を試している!!貴様はその力を得て何をする!?貴様の目的はなんだ!!」


「……っ!?そうよ、あたしは!!」



麗奈の意思に呼応するかのように短剣は嵐を纏い、彼女は大きく振り被る。



「3人で一緒に元の世界に帰るんだからー!!!」



嵐が収まった瞬間アストラルステークを彼女は振り下ろした。新垣は直感的に背後にいるリーシアと武人とジェニファ、そしてオズマン公爵と息子2人を守るようにフォートレスシールドを発動した。


神狼の一撃の風は大地を抉り、山も削り取る。空間が揺れ、大地は鳴き、轟音はオーディアスの街全体に響き渡る。



「麗奈!!」


「麗奈!!」



暴風が晴れ視界が元に戻ると、訓練場の中央で麗奈は倒れていた。新垣と武人はすぐさま麗奈へ駆け寄り、少し遅れてリーシアも駆け寄る。



「大丈夫、精神を消耗して気絶しているだけよ」


「ああ、良かった……」


「だが……」



武人が見つめる先には凄まじい光景があった。そびえ立つようにあった岩山は崩れ、瓦礫は風の刃で切り刻まれたのか砂と化し、空の雲は竜巻が突き抜けたかのように抉られていた。



「アリッサが使いどころを間違えないようにって言った意味が分かったわ……」


「リーシア・アルベットよ。説明はしてもらえるのだろうな?」


「オズマン公爵……はい、もちろんです」



そしてオズマンは穿たれた岩山を見ながらリーシアに王城へ出頭するよう言い渡した。

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