北極星のあるところ

 セミの声にあきた昼さがりは、冷凍庫をあけて北極に行こう

 がらがらがら、製氷皿の氷の音を出発の合図にして


 コバルトグリーンの海に浮かぶ、バニラアイスとおひるねのしろくま

 赤と白のうきわを取り合うペンギンは、南極からの観光客


 たくさん遊んで日が傾いたら、霜を削ってばらまこう

 夜空にきらりと流れて溶けたら、誰かの願いが叶うかな



   *



 犬は「犬」、ライオンは「ライオン」なのだけれど、シロクマのことはつい「しろくまさん」と言ってしまう。強そうなのにかわいくて、どこかさみしそうな生きものだからかもしれない。

 「宝物」という意味の名を持つイコロくんは、上野動物園の檻の中、同じところをずっと歩きまわっている。茶色がかった小さなしっぽをゆらしながら。日本平動物園のロッシーは、水面に向かって背中からとびこむ。水槽のガラスを蹴ってターンした勢いで水からあがり、飽きることなく繰り返しとびこむ。

 地球の大自然を描いたドキュメンタリー映画「アース」で、名もないシロクマは薄くなった氷の上をゆく。ふたりの幼子を連れて歩く母親。こどもの半分は生まれて一年以内に死ぬという。時にはオスのシロクマに殺されて。体重に耐えきれず割れた氷のすきまを泳ぎながら、アザラシを探してどこまでもゆく。

 スピッツの「シロクマ」という曲のミュージックビデオでは、人間のようなシロクマが描かれている。仕事で疲れきって帰宅したシロクマは、ソファに倒れこむ。つけたテレビから流れたスピッツのシロクマを聴いて、ほろりとひとつぶ涙が流れる。不意に耳にした歌に胸をつかれたしろくまさんに、わたしもうっかり胸をつかれてほろりとする。

 シロクマほど、切なく胸をしめつける生きものはいない。そしてその生き様とかわいさに、敬意を表さずにいられない。

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