第32話 勝てるのか

フォンティルは力負けするなんてありえないと思った。正直なところ装備に頼ってるだけのやつだと勝手に思い込んでいた。しかし、実際には同期にはいないほどの怪力が彼を襲う。


(ダメだ…… 押し切られる)


「大丈夫か〜い。 さっきまでの威勢はどうしたんだい。 僕はね最強にはなれなかったよ。 でもね、君みたいな兵士には流石に怠慢では負けないよ」


「そうですか、確かに僕の同期とは比べものにならない怪力です。 でも、ここであなたを超えなければ守れない! 僕は最強になるんだ!」


「死の魔術師をも越えてかい?」


「そうです!」


「ハハハ、君は彼を見ていないからそんな事を言えるんだ。 絶対に君は彼を超えれない。 あいつは化け物の中の化け物なんだよ」


「それでも超えてみせます!」


キルドは押し返してくる力が強くなるのを感じる。それに少し驚く。よくよく考えれば両手で持つことを前提とした剣を片手で持っていることにも驚愕的だった。


(この男やるね〜おそらくあの可愛い娘ちゃんと同じ年齢っぽいし15か。 このまま生かせば確実化けるね。 でも、今は1人で勝てないね。 そろそろ終わらせよう)


キルドは手に持つ黄金に輝く剣に力を入れる。フォンティルはあまりの力に耐えるのが精一杯である。


(強い…… ダメだ、押し切られる)


もうダメかと思ったその時すごいスピードで走ってくる兵士の足音が聞こえた。その兵士はアリアだった。


「フォンティルさん! お待たせしました!」


アリアは金装の首に目がけて剣を振るう。しかし、ビクともしない。


(加勢に来たけど、硬すぎる…… どうすれば……)


何度も斬りつけるが衰えることなく、フォンティルを押し込んでいく。


「さあ、クライマックスだよ」


アリアはもうダメと思った時キルドが押し返されているのに気づく。フォンティルを見ると笑っていた。


「僕はまだ弱い。 けど、彼女が頑張ってるのに何もできないなんていやです!」


キルドは押し返されるのを感じて焦る。自分は本気の力で押してるはずなのにビクともしない。


(なんだい、さっきよりも強くなってるね。 一体どういう…… )


ギルドの足が少しずつ下がっていく。この力は一体何か、気づいてしまった。この場にアリアが来てこれほどの力を発揮した。つまり、彼の恋情が力を発揮させているのだ。


(まさか、恋情でこれほど強くなるなんてね。 残念だけど、ここは撤退かな)


ギルドは押し切られ倒れる。フォンティルは肩から息をしている。すぐに立ち上がり逃げようとするが目の前にアリアが立ちはだかる。


「逃がさないというわけだね。 ここは素直に撤退した方がいいんじゃないかな? 僕もできればこれ以上君達と戦うの嫌だし」


「逃がしません、私は共に戦ってくれたフォンティルさんに答えます」


アリアは手に持っている剣をギルドに思いっ切り投げる。それを軽く躱す。


(剣を投げてきた? 一体何を考えてるんだ?)


再びアリアを見ると両手にダガーナイフを持ってこちらに迫ってきていた。流石のキルドもそれを使えば鎧の隙間から首を掻っ切られると思い剣を振りながら横に後退する。


アリアはそれを避けるが、距離を詰めあぐねてしまい再び距離をとる。


「危ないね〜それが君の秘策というわけだね? でも、残念その程度のことを警戒できない僕じゃないよ〜」


(まさか、避けられるとは思わなかった。 これから一体どうすれば……)


「アリアさん」


横からフォンティルが声をかけてくる。


「僕がもう一度止めます、その間に……」


アリアには無茶なことはやめるようには言えなかった。彼の目は既に決意を固めた目であった。


「わかりました。 やりましょう」


「作戦会議かい? そんなんことしても意味ないよ〜」


フォンティルが飛び出す。それをキルドが正面で受け止める。アリアはその隙を見て飛び出す。


(惜しかったね。 後少しなんだけど、ここで終わりだよ)


ギルドはフォンティルの剣を受け流し腹に膝蹴りを入れる。フォンティルは崩れるがアリアは構わずにキルドのクビにナイフを同時に入れようとした。しかし、彼の華麗な剣さばきによりナイフの刃が両方折れてしまった。


ここでアリアは自分の不思議な能力の弱点が露呈してしまう。自分ではなく別のものを狙った攻撃はわからない。キルドの目の前に来たが打つ手がなくなった。いや、最後に1つだけこの距離なら可能な武器があった。


(さよならだよ、お嬢ちゃん。 案外楽しめたよ)


剣をキルドは振り上げる。それは慢心かそれとも安心しきった心が選択した行動かもしれない。アリアは髪留めを取る。狙いは首である。この距離なら外さない。


キルドが気づかないスピードで首を掻っ切る。それに彼は反応できなかった。頸動脈を斬り鎧の中から血が溢れてくる。剣を落とし、膝が地に着く。


「まさか…… そんな武器で……」


そのままギルドはあっさりと倒れてしまう。彼も予想しなかっただろう。まさか最後に髪留めでやられるとは。あの時髪型をポニーテールにした自分に感謝する。アリアはすぐにフォンティルに駆け寄る。


「フォンティルさん、大丈夫ですか!」


「う、うん。 大丈夫です、少し腹に蹴りを食らっただけです」


意識があることにホッとする。


「私、倒しました。 撤退しましょう」


「そうだね、1ついいですか?」


「はい、何でしょう」


フォンティルはアリアの耳に手を当て静かに話す。


「え⁉︎ わ、私は大丈夫です」


それは周りにまだ敵がいることを考慮しての提案だったが、少し気が引けた。しばらくすると隊長が来て金装を倒したことを驚いていた。それと同時に謝られた。なんでも隊長の近くにいた6班の兵士が2人、落とし穴に落ちたので下手に動けなかったらしい。


それから1時間後拠点に着くと、驚かれた。なんたってフォンティルが鎧が、アリアは剣が金色だったのだから。鎧も剣も今まで使っていたものと比べれば空気のように軽かった。イヴにも泣いて喜ばれたのでこれで良かったのだと今は思うことにした。




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