第19話 模擬戦

カンッと45部隊特別訓練施設に響き渡る剣と剣が混じり合う音。あの風呂の出来事から5日が経ち、今日が初めての模擬戦である。


今まで辛い訓練を乗り越えてきた兵士達が己の強さがどれほどかというのを試す場であり、それと同時に対人の訓練である。基本剣を鎧には当ててはならず、寸止めをしなければならない。そして剣は重さが同じくらいの木刀を用いている。


そもそもこの世界では戦う相手は異形の魔物でも人智を超えた怪物でもない、ただの人間である。その真実に気づいたのはアリアが10歳の時家にある本を読んだ時である。本に興味がなかったアリアがその時手を出したのはたまたまであった。そして、歓喜した。この世界には人間しかいないのだと。


それから合法的に人を殺すことを目的とし、訓練してきた。処刑というのは辛い。だから、そうならないためにも頑張ってきたが、この模擬戦でアリアが相手できる兵士はいなかった。


(きつい…… 何度剣を打ちあっても力負けする。 きっと力が足りない。 女が兵士になることを嫌う人達が多いのはきっと私のような兵士がいるからなんだ……)


立ち上がり再び剣を前に構える。そして、アリアが剣を上段から振り降ろすと相手も同じようにしてくる。そして剣と剣がぶつかった時アリアが軽く吹き飛ばされ尻餅をつく。


(勝てない…… 力で勝てないなら避けて戦いたい。 けど、そればかりしてるといざ打ち合う場面が来た時に負けてしまう。 今は我慢するしかない)


そうやって再び立ちあがり剣を振るう。生き残り再び母と出会うために自分ができることをするしかないそう思った。


次の日もまた次の日も1回も勝てなかった。イヴやフォンティルは声をかけ励ましてくれた。 ナイラルク達は部屋が遠いので、会う機会が少なかったが、久々に冗談を言い合ったりしてくれたので元気が出た。


そして、とうとう戦地に出発まで1週間を切った。模擬戦の打ち合いでは1回も勝てずにいた。隊長が兵士達がきちんと整列してるのを見て口を開く。


「兵士諸君! 出発まで1週間を切った! これまでの訓練は肉体と精神力を鍛えることを中心にやってきた! だが、もう時間がない! 今日からはより実践的に使える剣の技術を学んでもらう! それと同時に肉体もより重点的に鍛えるので覚悟するように!」


「「「「「「はい!」」」」」」


「今日も素晴らしい返事だ! さて、訓練に取り掛かりたいところだが、ここでいい知らせがある! 我々45部隊は当日1番前に配置されることが決まった! これによりお前達はより多くの戦果を挙げれるようになった! 喜べ!」


「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」


返事をするが、兵士達全員がわかっていたことである。所詮ゴミの集まり。無駄死にするぐらいなら盾になって貰おう。そういう考えである。 そして、今回もたくさんの兵士が死ぬだろう。


幸いなことに戦争の数は最近少ない。しかし増える量に対して減る量があまりにも多すぎるのだ。


「では、今日の訓練を始める! まずは、模擬戦をやってもらうが、今日は相手の攻撃を打ち会わずに受け流せ! 打ち合ったものは私が見つけ次第速攻罰を下す! 解散!」


兵士達は命令を聞きすぐ隣にいる兵士とペアを作り、場所を取り、始めだす。アリアも隣の兵士を今日まで打ち合ってきたが、正直変えてもらいたかった。


(はあ、結局1回も勝てなかったな…… )


憂鬱な気持ちがアリアを包む。彼女は負けるのは嫌いなタイプの人間である。それ故に日に日に動きが悪くなってるような気がした。


(当日のことを考えれば考えるほどおなかがいたくなってくる…… 運良く生き残ってもその後どうすれば……)


木刀を目の前に構える。今日は受け流す訓練ということで一旦目の前の事に集中する。


「よろしくお願いします」


アリアが軽く挨拶をする。 例え訓練だとしてもこういうことは大事だと思っていた。


「ふん、よろしく」


目の前の兵士は高圧的な態度で馬鹿にしたようになり挨拶をする。おそらくアリアが嫌いな人物なのだろう。


挨拶が返ってきたことを確認したアリアは勢いよく踏み出す。その足は鎧が重く遅いが筋肉がついたせいかいつもより早く感じる。


アリアが横から剣を振り払うと、相手もそれに合わせて振り払ってくる。このままだと確実に打ち合ってしまう。隊長が見てる中でそれはやってはいけない。その思いがアリアの心の中にあった。


剣が打ち合ったと思った次の瞬間、アリアは無意識に剣の勢い受け流していた。相手はそのまま地面に剣に込めた力が空を切り体勢が崩れる。その隙を見逃さなかったアリアはすぐさま小さい隙間がある首に剣を突き立て勝つことができた。


「くっ……」


相手は驚き何も言えない、完璧だった。それはアリア自身もそうだった。


(勝てた…… 初めて、嬉しい)


それは今までのことを払拭するぐらいのものだった。動きはお粗末なものだが、アリアは自分の武器を確かに会得した。


「早くしろ」


気がつけば目の前の兵士は既に構えてアリアが準備するのを待っていた。アリアは慌てて構える。今度は相手が飛び出してきた。


その動きが、どこを攻撃するか分かる気がする。2回目も見事受け流し勝利を収めることができた。周りには打ち合いで力を見せつけられなかった兵士達が喜びを見せているように見える。


今日のこの訓練はアリアが全勝というわけにいかなかったが、7割方勝つことができた。そんな兵士達を見ていた隊長であるルカスはこれはまずいと思っていた。




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