2,現実から逃げ出したい

「モテたい」なんて単純だろう?

理由なんて単純でいいんだ。

そう思えたのは小学六年の時だった。

小学五年までは真面目に外で遊んでいたし、友達もたくさんいた。

あの時が来るまでは……。

それは、その時ハマっていたロボット系アニメの良さを友達に熱く語っていた時の話だ。

周りには目もくれず話に夢中になっていると、外野からふと耳に入った言葉に俺は愕然とした。

「あいつあんな子供っぽいアニメ見てんのかよ。きもっ」

確かに小学校低学年の視聴者が多かった、とはいえ大人だって見るような少年向けアニメだ。

(なんでだ……。なんでこうもわかってくれないんだ。)

話を聞いていた子もなんだかよそよそしい態度になってきていたのがわかる、目が泳いでいるんだ。


怖い……。周りが、


一気に殺気に囲まれた気がした。

何者かにいきなり殴られたような気分だった。

ただ、ただ周りが暗くなって、呆然と立ち尽くしているような。

思えばあの時からだ。人間に対する抵抗感を覚えたのは。

その時、友達がいかに限られた存在かがわかった。

小学校の時から今まで仲がいいのは、春道とあずさだけ、そもそも友達はそれだけだ。

でも、増やそうと努力はした。

同じ趣味の仲間も探した。

それでも、やはり自分から距離を置いてしまうのだろう。

友達は増えなかった。

そんな最中、春道は俺のこういった。

「友達は数じゃない」と。

俺はどうやら間違えていたのだとその言葉を聞いて気づいた。

それからというもの、今いる友達を大切にしている。

春道なんかは本当に馬が合う。

喧嘩の原因はいつも物の取り合いだった。

あと一つのクッキーをどっちが食べるとか、遊ぶおもちゃが一緒で取り合ったりなんかもあった。

喧嘩は必ず一分程度でどちらかが笑い出して終わるほどだ。

あずさは、無愛想だが相談事においては春道よりあいつの方が頼もしい。

あずさと春道は本当にかけがえのない存在だ。


「生まれ変わっても一緒かな」


ふとある日の言葉が脳裏に浮かぶ。

その言葉に俺は強く引き込まれた。

早かれ遅かれやがて死ぬ運命なら、生まれ変わってもあいつらと一緒がいいと心が強く望んだ。

「なぁーに泣いてんの?」

「泣いてねぇよ」

「泣いてるじゃない」

「だから泣いてねぇって!だいたいあずさはなんでここにいるんだよ。部活はどうしたんだよ」

「部活ならとっくに。ここに居ちゃ悪いかな、私も一応ここのクラスなんだけどね」

「もういいよ、なんでもない」

「で、なんで泣いてたの?」

「泣いてない。とにかく俺は帰るぞ。もう七時だ」

「素っ気ないなー。そんなんだからモテないんだぞー」

「余計なお世話だ。全く。帰るぞ」

(まあ、私的にはモテなくていいんだけどね)

「あ、待って拓人!置いてくなー」

久々に友達と帰る帰り道も悪くない。

今日はなんだかいい夢が見れそうだ。

そんな気がした。

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