砂漠のキツネ

@1498

 Wüste

ヘルリンゲン。

そこはドイツ南西にある小さな町。

時は1944年。1939年に始まった2度目の世界大戦は、戦火が消えるばかりか、拡大の一途を辿っていた

が、この小さな町は戦争など知らぬとでも言うように戦前からの旧く綺麗な町並みを残していた。

ドイツ軍元帥、エルヴィン・ロンメルはこの地に住居を構えていた。

普段ならば穏やかな空気が流れているであろう。

しかし、10月14日。その日ばかりは違った…………



「私は15分以内に死ぬ!」

二階の寝室で私は目の前の妻、ルチーにそう告げた

妻は泣き崩れる。

直に時間が来る。

面会を許して貰えただけ幸運なのだ。

私を引き留めようとする妻に告げる


そこに丁度戻ってきた副官のアルディンガーが戻ってきた。

ことの顛末を彼に話す。

彼に逃亡を勧めらた。

だが、もう遅い。

私はやんわりと、その申し出を断った。

回りは既に私服警官に囲まれているのを承知していたからだ。


妻に別れを告げ、もう二度と踏むことがないであろう階段を降りる。

玄関にて、息子と副官にコートと元帥杖を持つのを手伝ってもらう。


いつも通りに家の鍵を手に取る。

……もう任せても大丈夫だろう

鍵を息子に渡す。

これからの家長はお前なのだ。

そう視線で伝える。


息子、マンフレートは頷いた。

任せたぞ、肩に手を置く。

そして、一呼吸の後に手を離し、歩き出す。


そして、自分の手ではもう二度と開かないであろう扉を閉める……


家の前に迎えの車が停まっていた。

そこに乗り込む。


車が出発する。

そこで私は何故こうなったのかを振り返った。

長いようで短い人生だった気がする。

今までの人生が短い時間でフラッシュバックしてくる


自然と涙が頬を伝っていた……

すまない。息子よ

ありがとうルチー


車が停まる。

そこは自宅近くの森だった。

車を降り、渡された毒をもって進む。


ここで良いだろう。

そういって毒をあおる。

寸前に思い浮かんできたのは国への蔑み……

次があるなら、もう少しまともな世界で

意識が途切れる中

そう思った……









「う、うぅむ……」

全身が鳥につつかれたみたいに痛む。

体が暑い。


私は確か、薬で死んだはずでは……

覚えているのは、家族のために自殺を選んだこと。自分の尽くした祖国に裏切られたことだけだ。

家族はあの後どうなったのだろうか。

本当に自分は死んだのだろうか?

何故、意識があるのだろうか。

次々と疑問が浮かんでくる。

もしかして、ここは死後の世界なのだろうか?

そんな有り得ない考えが浮かぶ。


目をゆっくりと開く。

と、突き刺さるような陽の光が目に入り込む。

少なくとも、病院の類いでは無いようだ。

では、ここは何処だろうか?


周りを見渡す。

と目に入ってきたのは砂、砂、砂。

後ろに、自分が北アフリカ戦線にいたとき使用していたSd.kfz.231の指揮車無線搭載改装型、Sd.kfz.232が在るだけだ。


もしかしたら、この頭の中の忌々しい記憶は全て夢だったのだろうか?

米英連合軍によるノルマンディー上陸も、連合軍機による機銃掃射による負傷も、家族の名誉の為に自殺した自分の最期も。脳が見せた悪夢だったのだろうか。

もしかして、本当に北アフリカ戦線なのだろうか。


しかし、本当に北アフリカなのなら、どうして付近に幕僚も、警護の兵士も誰もいないのか。


気になって幕僚を呼ぶ。

「副官!副官はいないのか!」

しかし、何処からも返事はない。


「軍団長!参謀長!いないのか?」

誰の反応もない。


「通信参謀!通信参謀!……もいないのか。」

物音すらしない。


「どうやら、本当に誰もいないらしい。……そうだ車載してある無線機を使えば何処かと交信できるだろう。流石に何処とも繋がらないなんてことは無いはずだ。何処かの基地に連絡して、状況を聞こう。」


まだ痛む身体を起こし、フラフラとした足取りで指揮車に向かう。


ハッチを開け、車内へ潜り込む。

大型の通信機の前に座る。

ヘッドフォンを装着し、無線機の周波数を合わせる。


ザザザッ  ザザッ  ザザザッ


しかし、周波数をいくら変えても、何処とも繋がらない。ヘッドフォンからはよくわからない音が鳴るのみだ。


「……もしかして、本当にここは死後の世界か?」

まさか、そんな物が本当にあるのだろうか。


こんなときは焦ってはダメだ。

深呼吸をする。

そこで気付く。

口が水分を欲していることに……

それもそうだ。砂漠にいるのだ、喉が乾くのも当然だろう。昼間は地獄のように暑い。北アフリカの時は気温50度越えなんて当たり前のようにあった。

あの頃が懐かしい。北アフリカ戦線では戦力差を戦術で埋めることには限界があったのだと痛感させられた。

たった一年前のことだが、それすらも今では遠い昔の事のように思えた。


身に付けている鉄製の水筒を開け、水を飲む。

口の中に潤いが戻ると共にジャリジャリした感触が舌を襲う。


これも懐かしい。

砂漠では、口に砂が入るなんて常時だった。

昔はそれが嫌だったが、今となっては懐かしき思い出として、思いださせる。


ゴンゴン


物思いにふけっていると突然、外から指揮車を叩く音がした。


誰かが戻ってきたのか!?


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指揮車 外


砂漠の茹だるような暑さの中、指揮車の前に2人の少女が立っていた。


「フェネック、これは何なのだ?」

そのうちの1人、薄紫色の服を着た少女が問いかける


「んー、なんだろうね。さばくちほーにポツリと。気になるねー。」

フェネックと呼ばれた大きな動物の耳の様なものをもった少女が答える。


どうやら、2人は砂漠の中にポツリと置いてある指揮車に興味津々なようだ。


「怪しい物なのだ。これは徹底的に調査しないといけないのだ。」

そう言いながら指揮車をボンボン叩く。


「ところでアライさん、ぼうし泥棒は追いかけなくていいのー?」


「ハッ!そうだったのだ!こんなところで寄り道している場合じゃないのだ。早くぼうし泥棒を捕まえないと、パークの危機なのだ!!」


「これは絶対忘れてたね。(¬_¬)」コゴエ


「そうと決まれば、早速出発なのだ!」


「でもアライさーん。」


「どうしたのだ、フェネック?」


「向こうからスゴい砂嵐が来てるよ?」


「な、なな、なぁぁぁ。」


2人に迫り来る大規模な砂嵐。巻き込まれたらひとたまりも無い。


絶体絶命!どうなる?アラフェネ!?



ガチャァ


「そこの君達。何してるんだ。危ないから中に入りなさい!」

その時、後ろの怪しい物体からフレンズが出てきたかと思うと、招き入れて来る。


正直言って怪しいの一言に尽きるが、今は迫り来る砂嵐から逃れるには中に入るしかない。


「アライさん。これは入らせて貰おうよ。」


「それしかないのだ。」


2人は言われるがまま、中に入りこんだ。


そして、ハッチを閉めた直後、指揮車を砂嵐が包み込んだ……

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こんにちは、1498です。

皆さんは砂漠のキツネと言われて、何を思い浮かべますか?

やはり、歴史好きなら彼の名将エルヴィン・ロンメルを、ケモナーやけもフレ好きならフェネックを思い浮かべるでしょう。今作は、そんな2人を会わせてみたという、ただの妄想作品です。



今回はかねがね書いてみたい。そう思っていた『砂漠のキツネ』。大まかな流れは1期のアラフェネコンビにロンメル閣下がついていくお話になります。


1話目の今回、予定ではもう少し書くはずだったのですが、何だかんだでキリがよくなってしまったので少ない文字数での投稿となってしまいました。

まことに申し訳ないです。



こちらのお話は10話程度完結の短いお話として投稿したいと思います。



逆撃 ドイツシリーズのロンメル閣下を元にしているため、忠実と違和感が出る箇所があります。

ご了承下さい。


アドバイス、質問、感想お待ちしております。


4月25日 誤字、会話の違和感を若干修正


8月15日 話の最初、ロンメルの最後の日を挿入

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