小説になりきれなかった物語たち

白猫のかぎしっぽ

自由を求める少女

 大昔、私達が住む世界は無数にわかたれた。

 可能性が無数に生まれては死んで行く世界線の内の一つ。

 そしてある世界では人類は一度、自らの手で滅びかけた。

 それから幾つもの時を経て、世界は人と外見が異なる種が増えた。

 今では人口の多くを人外が締め、人の身体に獣の特徴をもつ獣人や伝説の上でしか存在しないと言われていた者が存在し、支配する世界となった。

 人間はいつの間にか、絶滅危惧種となっていた。

 今ではその人類は純血と呼ばれ、種を繋ぐ為に、今の生存圏を占める種族の保護対象となっていた。

 そのためか、小さな農村などでは人間を見掛ける事すら稀だ。





 これから語る世界線には魔法が存在している。

 ファンタジーには相違無いが、そこにある現実も忘れてはならない。

 とある小さな村の、少し裕福な商家生まれのある夫婦に二人の姉妹が生まれました。


 姉は白金色のふわふわとした柔らかな髪と透明度の高い薄淡い肌に、背に白い翼を持つ天使の様な外見の可愛らしい女の子。


 妹は甘栗色のさらりと伸びた真っ直ぐな髪と健康的な肌に、背に真っ黒な翼を持つ女の子でした。


 生まれた元が多少恵まれていた事もありましたが、天使と悪魔の様な外見を持つ正反対の姉妹は何故かとても仲が良かったそうです。


 ……後日、周りには仲良しに見えるのだろうけれど、「私は妹に振り回されていただけ」なのだと言う姉の溜息混じりな話もあったのだとか。


 これはそんな姉妹の片割れ、妹の物語です。


 少女は丸い輪郭と少しだけつり上がった甘栗色の瞳と赤い唇、華奢な肩にさらりと流れる髪は美しい艶と、ある種の色香を放ち、両親や姉と同じ血を持ちながらも違う色彩と外見を一部持つ事から、周りは自然と少女を避け、遠巻きに眺める事が殆どでした。



 両親の育て方や教え、周囲の見方もあって、少女が周りの視線に慣れる事はありませんでした。

 無意識にですが、周囲や誰かの目を気にしてしまう子になってしまったのです。

 そして「普通」を意識し過ぎるあまり、「普通」が嫌いになっていました。


 少女は自らの持つ色を好み、他の人は出来ない、自らの個性を全面に押し出す様になります。


 いつしか少女は成長を重ねるに連れて「普通では無い」という事に美徳を持ち始め、他人には無い美しさを愛でる様になりました。


 それから数年、小さな教育機関に通うようになった少女は周りの環境も相まって、「鎧」を手に入れました。

 その鎧は少女以外の誰にも見える事は無く、それでいて少女自身の弱さを隠すのにとても最適でした。



 ある日の学校教育機関帰りの夕暮れ、姉妹は共に家に帰っていました。

 いつも一緒に帰る訳ではない様ですが、その日は偶々でした。

 美しく甘い花と、植物特有の青草の香りの舞う自然溢れる森の中が姉妹の帰り道でした。

 道中、小動物が時々居るのもまた愛嬌でしょう。


万里ばんり、学校はどう?」


 少女にそう聞くのは、純白の美しい羽を背に持つ姉でした。

 姉は知らなったのです。

 自分の行動が妹にどんな影響を及ぼすかを、そしてそれがどれ程自分勝手なのかをも、考えてはいませんでした。

 でもそれは、「知らなかった」で済ませて良い事ではありませんでした。

 例え、それが幼さ故の無知なのだとしても妹である少女にとってはそんな事は関係無いに等しかったのですから。



「何でお姉ちゃんが所属してるなんて理由で私も一緒のサークル部活に所属しなければならないの」


 何で登校初日に下駄箱で先輩達に囲まれないといけないの。

 身長差考えてよ、怖いじゃん。

 それに何でお姉ちゃんは助けてくれないの。

 何で、迷惑を考えないの。

 何で私を巻き込むの。


 その強い感情が鍵となり、少女の鎧の礎となりました。

 所謂、反骨精神で構成され天の邪鬼な性格へと、落ち着いていきます。



 少女の時代、純血人類が大切に保護されていた事もあって、同族は同族に対する「いじめ」と言う言葉がありませんでした。

 少女は強くならざるを得ない環境に置かれていたのです。

 理不尽は、理不尽として処理されない時代でした。

 そんな環境下で、上下関係を叩き込まれ。

 体力の限界まで全力を尽くす事を覚えさせられた少女は、いつしか鎧を纏う戦乙女の様だと語られるのでした。



 ある男との婚姻以前から離婚以降2年間までの波乱万丈。

 少女は大人になり、女性になってからも戦いました。

 子供の未来の為に。明日のミルクの為に。

 少女は学びました。異性の汚さを、自分の男運の無さを思い知りもしました。


 あれから16年。かつての黒翼の少女、万里は紆余曲折を経て運命の出会いを果たします。

 それが、ある猫との出会いです。いえ、猫ではありますが猫と形容すると失礼になるのでは、と危惧するほどの男でした。男前でも、ありました。





 その内、万里を死ぬまで愛したの話も書きます。(実はメインストーリー)

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