最終兵器




 開戦劈頭より、日本本土、特に日本海側の各都市はソビエト空軍の度重なる空襲を受けていた。

 日本側も報復として、海軍機動部隊や義勇隊として来た米軍爆撃機の協力で沿海州や樺太の各基地への空襲、大和型戦艦(大戦後、軍縮の流れで廃艦も見込まれたが、東南海地震で最新設備が役立ったことや、冷戦体制の流れ、解体費用も考え、米軍協力で近代改装して存置)による艦砲射撃を敢行し海の方では戦局を東亜連合優位にしたものの、陸の方では東亜連合軍側は満ソ国境まで押し戻され、戦線は膠着していた。

 そんな折・・・・・・



「アメリカはソビエトに対し原子爆弾を使用すると言っておる。あれは地方都市レベルなら一発で壊滅するんだと言っておった。もしそのような爆弾が実際に使用されれば民間人の犠牲は避けられん」



 アメリカ側からの原爆使用作戦の提案に、日本軍最高指揮官日本国内閣総理大臣吉田茂は難しい顔をして外務省や国防省の官僚達にごちる。



「第一、我々の敵はソビエト赤軍であり、ソビエト連邦内の各国、各地域の人民ではないんだよ。赤狩りだって今はやってない。そこを米国は分かっておるのか」



 この世界では核兵器は未だ実戦使用されておらず、日本人もその兵器の実際の脅威は知らなかった。

 吉田もそうだ。彼が原子爆弾使用に反対するのはあくまで、その絶大な威力で一般市民を巻き込む恐れがあるからであって、放射能被害についての知識は無いに等しかった。



「それに、我が国や満州国が原爆を使用したら、報復として赤軍も同じ事をやるだろう。そして、またこちらも、あちらもとなれば、この戦争は民族絶滅戦争になってしまう。その辺はいくらスターリンだって分かってるはずだ」



 吉田の言通り、核兵器一切を持たない選択をした日本はともかく、これまで両陣営ともあくまで正攻法で戦ってきた。

 ソビエト空軍の爆弾も民間人の被害が出てはいたものの、軍需産業のある地域へのものだった。



「とかく、我が国は原子爆弾の使用には反対する。外務省は休戦の交渉を図ってくれ」



 このすぐ後、吉田は正式に米国へ原子爆弾使用の拒否を表明するとともに、休戦へ向けての協力を要請したのである。








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