新米店長前島は在庫を抱えています!

桜居 あいいろ

プロローグ

 暖かな春の日差しを窓ガラス越しに感じる。

 「じゃあ、栞くん、今日3限からだったよね?私は12時には帰ってくるから、それまで店番よろしくね。」

 私は入り口のドアに手を掛けながら店のカウンターで黙々とポップを書いている青年に声を掛けた。

 青年は私が普段着ないような恰好をしていたからか、少し驚いた目をしたが、行ってらっしゃい、と軽く手を振ってくれた。


 ドアを開けて外へ出た。店の真ん前の公園の木はピンクに色づき、風が吹いては季節外れの雪を降らせている。

 全身で桜の香りを纏った風を感じた。

 「よし、今日から頑張りますか。」

 私は春の空気を独り占めするように、深呼吸した。春特有の緊張感を含んだ風が肺に入る。

私は店先に停めてあった赤い折り畳み自転車にまたがった。おニューの薄桃色で小花柄のワンピースの裾を気にしながら立ち漕ぎをする。

 背中に当たった風が私を追い越した。私も負けじとタイヤを回す。

 「去年はいろいろあったなぁ」

 2度目の満開の桜。自然と感慨深くなり涙腺が緩む。

 私はそんな春の陽気を感じながら、上り坂でギアを5から3に軽くした。ふわりふわりと衣服をなびかせながら立ち漕ぎを続ける。


 前島、大学生始めました!

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