想の43 あなたは私を好きですか?



 深夜のベランダで言葉と並んで寝静まった街を眺める。

 開けたままの窓からは、アリサの寝息……と歯ぎしりが聞こえる。

「あいつ・・・うるさいな」

「ええ、目が覚めたわけわかるでしょ?」

「ああ、なるほどな」

 俺は後ろ手に窓を閉める。

 全くオッさんかよ?


「ねぇ、ちょっと聞いてもいいかしら?」

「ん?なんだ?」

「あなたは・・・ミントは私のこと好き?」

「ぶはっ!ゴホッゴホッ!ちょ、ゴホッ」

 えらくストレートに聞かれたものだから、水が変なところに入ったらしく咳き込む。


「そんなに驚くほど?」

「いや、あのなぁこのタイミングで急に言われたら驚くだろ?」

「そう?それでどうなのかしら?」

 そんな俺をじっと見つめる言葉。

「好きか嫌いで言えば・・・そりゃあ好きだろうな」

「それは女の子として?」

「ああ」

「そう・・・」

 そう言って言葉は何かを考えるようにまた深夜の街を眺める。


 そんな言葉を見て、俺は俺で思ったよりもすんなりと好きって言葉ことばが口を出たことに驚いていた。


 確かに俺は、言葉のことが好きなんだと思う。

 こないだも考えたけど行き着く先は同じ結論だった。だがそれは付き合いたいとかじゃないような気がしてならない。


「多分・・・私もあなたが好きなんだと思う・・・」

「え?」

「アリサとね・・・色々話したの。私のこと、あなたのこと。この何か月かのこと」

「ああ」

「アリサがね、それって好きってことなんじゃないって言うんだけど私には正直よくわからないの」

「だろうな」

「でもね・・・私は・・・あなたと一緒にいたいと思うの。これが好きって感情なのかはわからないけど・・・それは間違いないと・・・思うわ」

 言葉の独白を俺は黙って聞く。

「何て言えばいいのかわからないのだけど・・・この気持ちを無くしたくないと感じるの」

「・・・・・」

「私に・・・私にある感情は全部あなたがくれたものだから・・・これもきっと・・・あなたがくれた大切なもののはず」


 夜風がやんわりと俺と言葉の間を通り過ぎていく。


「なぁ、そんなに焦らなくていいんじゃないか?」

「え?」

「前にも言ったけどさ、ちょっとづつでもいいんじゃないか?ほらお前言ってただろ?空っぽにはなりたくないって」

「ええ」

「俺から何かを貰えたと思うんなら、多分まだまだ俺はお前にその何かをやれると思う。もし・・・もしお前がまた空っぽだと感じたらやり直せばいいだろ?」

「・・・ミント」


「時間はまだあるんだしさ、俺は・・・まぁ、その、いつも側にいるわけだしな」

 何となく告白しているみたいで気恥ずかしいが、これは偽りなく俺の本心だ。


「ありがと・・・」

 俺の胸に頭をあててそう小さく呟く。

「気にするなって」

 頭をポンポンとしてから優しく撫でてやると遠慮がちに俺の背中に手を回す言葉。

 こういうところが、何ていうか勘違いする元なんだよなぁ。

 そうは思っても結局俺は静かに言葉を抱きしめた。



 しばらくそうしてから、ふるっと言葉が寒そうにしたので部屋に戻ることにした。

 安心したのか、言いたいことを言えたからなのか言葉はもういつもの言葉だった。

 リビングは相変わらずアリサの歯ぎしりがいい具合に響いている。


「コイツは二度と泊めてやらん」

「それには私も同意するわ」

 ミドリンの別荘では各自個室だったから言葉も知らなかったのだろう。


「そっちで寝てもいいかしら?」

「・・・仕方ないよな」


 ソファを倒したベッドに2人で横になる。

 元々が2人用ではないので言葉との距離が近い。

 前回は俺が寝ているところに言葉が入ってきたから起きるまでわからなかったけど、今日はそういう訳にはいかない。


「ちょっと近すぎないか?」

「だって落ちそうだから」

 俺の身体に手を回して胸に頭を乗せて俺を見る。

「俺じゃなかったらお前襲われてるぞ」

「あなた以外にはしないから大丈夫よ」

「俺に襲われるって考えないか?」

「・・・考えないわね」

 そう言われてしまえば何も出来ない、するつもりもないけど。


 胸の上の言葉の頭を撫でてやりながら俺も目を閉じる。

 ああ、きっと明日朝起きたらアリサが発狂するんだろうなぁと頭の片隅で考えながら俺は静かに眠りについた。



 翌朝、俺が目を覚ましてみると言葉は寝たときと同じ体勢でまだ眠っていた。

 ベッドからは寝息が、歯ぎしりは聞こえない、聞こえるのでアリサはまだ寝ているみたいだ。

 そういえばアリサって寝起き悪いんだっけ。


 気持ちよさそうに眠る言葉は、こうして間近で見ると本当に綺麗だ。間近で見なくてもそうなんだが。


 俺は何となく視線を外し天井を見上げながら言葉を撫でる。

 サラサラの髪の手触りが気持ちよくいつまででも触っていられそうだ。


「・・・ん・・・ん」

 言葉が小さく声をもらして身じろぎする。

「・・・?」

「おはよう、言葉」

 小さな声をかける。

「あ・・・おはよ・・・」

 まだ寝ぼけているのか、ボーっとした言葉が返事をする。

「まだ寝てていいぞ、時間的にまだ早いからな」

「・・・ん」

 再び俺の胸に頭を押し付けて目を閉じる。



 結局昼前まで寝過ごしたがアリサが起きるはずもなく夕方まで起きてこなかった。

 コイツほっといたら一日中寝てそうだな。


 一応アリサも女の子なので歯ぎしりの件は言わないでおくことにした。


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