喜の20 何でお前までいるんだ?


7月になりすっかり夏らしくなってきた。

放課後の鉄塔の上は、涼しい風が吹いていて気持ちがいい。


「しっかし、個性的な面々が集まってるなぁこの学校は」

「そうね、あなたもその1人でしょうけど」

「お前には言われたくねーわな」

いつもの鉄塔の上で、言葉と2人涼しい風を感じながらこないだのことについて話していた。


「緑川君もそれなりに人気もあるし見た目も悪くないんだけど、ちょっとアレなのよね」

「ああ、一言で言うと残念王子だな」

「残念王子ね、上手いこと言うわね」

「だろ?緑レンジャーでもいいけどな」

「嶺岸さんがハマっていたそうね」

「アイツのツボだったみたいだ」

あれから何度か緑レンジャーは俺に勝負を挑んできては返り討ちにあって運ばれている。


「それにしてもあなたって変わってるわね?」

「何がだ?」

「彼にあっさり勝つくらいの腕前なんでしょ?チェス」

「緑レンジャーが弱いんだよ」

「そうかしら?」

「ああ、定石通りしか出来ないヤツは何回やっても俺には勝てないさ」


緑レンジャーは、チェスの他にもポーカーや将棋にオセロなど実に平和的な勝負を挑んできたのだが全く相手にならなかった。

挙句今では普通に俺や駿、沙織と詩織、アリサと一緒に昼メシを食って帰るだけになってる。

緑レンジャーよ、勝負はどこにいったんだ?


「やっぱり不思議な人ね、あなたは」

「そうか?」

「ええ」

俺たちの関係のほうが余程不思議だと思うけどな。


「さて、そろそろ帰るか?」

「そうね。今日もお邪魔しても?」

「初めからそのつもりだろ?」

「ええ」

そう言って鉄塔を降りていく言葉。


ここから俺の家までは別行動だ、学校内では関わらない約束だから。


言葉が屋上から出て行くのを見送ってから俺も鉄塔を降りる。


「さてと俺も帰るか」

屋上を出て校内から校門へと続く道を歩いているとちょうど出たところで言葉とアリサを見かけた。


「あ・・・ミント!」

「よう、アリサに・・・言葉」

「あら、ご機嫌よう、ミント」

ついさっきまで一緒にいた俺は笑いそうになるのを堪えて2人に声を掛ける。


「どうしたんだ?珍しく2人で」

「帰ろうとしたら嶺岸さんに声をかけられたからお話をしていただけよ」

「そうよ、ミントこそこんな時間まで学校にいたんだ?」

「ああ、ちょっと野暮用でな」

ふ〜んとアリサは俺と言葉を交互にみる。


「じゃあそういうことで」

触らぬ神に祟りなしっていうからな。

俺は2人の返事も聞かずにさっさと歩き出した。



1時間後、俺の部屋。

「・・・で?なんでここにお前がいるんだ?」

「何でって?柊さんについてきたからよ」

「だから何でついてきたんだよ!」

「だって・・・」

「言葉、お前も何とかならなかったのか?」

「ならなかったわね。残念ながらね」

はぁ、参ったな。どうすんだよこれ?


今俺の部屋には、俺と言葉、そして何故かアリサがいる。

「ミント、喉が渇いたわ」

「あ、私も」

「お前らなぁ」

仕方なく言葉に紅茶、アリサにコーヒーを淹れてやる。


「ふ〜ん、柊さんの好みはちゃんと知ってるんだ。それに・・・」

「なんだよ?」

「お揃いのマグカップまであるんだ」

アリサは、言葉と俺のマグカップを見てちょっと残念そうに言った。


「でも付き合ってないんだ?」

「そうね、そういうのじゃないわね」

「ああ、そういうのじゃないな」

「ちっ、息ぴったりだし」

今のは聞こえるように舌打ちしただろ。


「付き合ってないんなら私がミントの家に遊びに来ても問題ないんだよね?」

「そうね、特に何も問題ないんじゃないかしら」

「そうよね!問題ないよね!よし!明日から通おうっと」

「でもね嶺岸さん、私がいるときはやめてもらえるかしら?」

「えっ?そう?柊さんはいつここにいるの?」

「・・・毎日」

「は?それじゃあ私来れないでしょっ!」

「そうなるわね」

「くっ、なにその正妻の余裕みたいなのは」


「なら1日置きにするからどう?」

「週2くらいにして頂戴。それなら被っても許してあげるから」

「・・・週2・・仕方ないけどまずはそれで手を打っておくか」

あの・・・ここ俺の家なんだが?


「あのなぁ、お前らはちょっと遠慮ってものをしないのか?遠慮!」

「今更しないわよ。ねぇ?」

「そうよ。しないから」

「・・・えらく仲良しじゃね?お前ら」

「そうかしら?」

「そうかな?」

お前らこそ息ぴったりじゃねーか!


「はぁもう好きにしてくれ。それより言葉、晩飯はどうするんだ?」

「仕方ないから、嶺岸・・・アリサって呼んでいいかしら?」

「えっ?べっ別にいいわよ!そのかわり私も、こっこっ言葉って呼ぶから!」

アリサ、何赤くなってるんだ?ツンデレ?


「仕方ないからアリサの分も作ってあげるわ」

言葉はそう言ってキッチンに立った。


「ミント?いつもああなの?彼女。学校でのイメージと全然違うんだけど」

「俺といるときはいつもあんな感じだな」

「・・・いつもいるわけね?」

「だいたいな」

「改めて聞くけど付き合ってるわけじゃないんだよね?」

「ああ」

「何なの?この新婚夫婦の家にお邪魔したような居心地の悪さは・・・」

「いやなら帰れよ」

「やだっ!」


結局この日の晩飯は3人で食べることになったのだが・・・











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