楽の13 パスタがのびるだろ


「さあ!駿、ミント!お昼に行きましょう!」

4時間目が終わるや沙織が詩織を連れて俺と駿の席までやってくる。


「はあ?何の気合いを入れてるんだ?」

「きっとまた寝坊してお弁当がないんだよ」

駿が小声で耳打ちする。ははは、ありえる。


「今日は文系棟に、パスタを食べに行くんだから!ほらほら、さっさと立って」

「はいはい、わかりましたよっと」

沙織に急かされて俺と駿は渋々後をついていく。


「ごめんね、朝から姉さんがお昼はパスタだってきかなくて」

「いつものことだから、いいって」

俺の返事に駿がうんうんと頷く。


「でも各棟によってメニューが違うっのは何でなんだ?」

「ほらここって学校が大きくなりすぎて同じ学年でも3年間一度も会わないみたいなことがあるから、食堂だけでも行き来できるようにって」

「単純に、メニューが増えすぎたってのもあるみたいだけどね」



渡り廊下を渡って一階に降りていくといい香りが漂ってくる。


「これは、食欲をそそるね。ミートソースかな?」

確かに理系棟では嗅ぐことのない香りでちょっと期待してしまう。


「おお〜っ!」

食堂の中も理系とはちょっと変わっていてベージュの壁紙にテーブルやイスも欧風なもので揃えてありちょっとした飲食店のようだ。


沙織は駿を連れて、正確には引きずってさっそくパスタを取りに行ってしまった。


「姉さんにも困ったものです」

「ははは、詩織もご苦労様だな」

俺と詩織もトレーを持って列に並ぶ。


俺はカルボナーラ、詩織はミートソース。後はサラダとスープを取り空いてる席を探す。


「詩織、ミント!こっちこっち!」

先に座っていた沙織が手を振って合図してくれる。


「おまたせ。ってお前どんだけ食うんだよ?」

テーブルには何種類ものパスタが並んでいて、沙織がホクホク顔で匂いを嗅いでいた。


「え?全部だけど」

「はぁ、デブになるぞ?」

「その分運動するから大丈夫よ!」

「どこでだよ?部活もしてねーだろ?」

「・・・頭脳労働よ!」

「もっとやらねーじゃねーか!」


話の途中で沙織はパスタを頬張ってしまったので、俺たちも食べることにした。


うん。美味い。ここんところ中華ばかりだったから新鮮さがあるな。

沙織が大量に買ってきたパスタをみんなで取り分けてワイワイと食べていく。


そういや、アイツはいないのか?

俺はパスタを頬張ったままあたりを見渡す。


「あっ!」

「ん?」

たまたま目があっのは、こないだ屋上で会ったあの真面目ちゃんだった。

無視、無視。なんで厄介事にわざわざ関わらんとならんのだ?俺は無視を決め込む。


「ちょっと!あなた!」

「あ〜沙織、そっちの少し取ってくれ」


「ちょっと!聞いてるの!」

「駿、チーズもらえるか?うん?粉チーズな」


「ねぇ!」

「詩織、ここって飲み物は同じなのか?」


俺はしつこく声を掛けてくる相手をちらっと一瞥して再度パスタを食べにかかる。


「ねぇってば!今ちらっと見たわよね!ちょっと!」


「ミント、いい加減にしないと泣きそうになってるわよ」

「ははは、悪い、あまりに面白くてな。で、何のようだ?」

「はぁはぁ、あなた、馬鹿にしてるの?」

「ひひや、ふぁふぁひふぁふぁふぁ?」

「食べてから言いなさいよ!」


いちいちうるさいヤツだな。

仕方なく俺は水でパスタを流し込んで話を聞いてやることにした。


「で、何か様か?」

「・・・こないだのことを、謝っておこうと思っただけ」

「こないだ?ああ、屋上のか?別にいいぞ。特に何かあったわけでもないからな」

「そう、ならいいわ。・・・何だか疲れたわ」

「部活頑張りすぎなんじゃねーか?」

どうやらお疲れのご様子だし、俺は昼メシ食ってるしさっさとお引き取り願おう。


「もう、いいだろ?パスタがうどんになっちまう」

「・・・・あっ」

俺はそれだけ言って再度パスタを食べにかかる。


背後に立っている気配を感じたが、すぐに自分の席に戻ったみたいだ。


「ミント!さっきの子って吹奏楽部の嶺岸さんよね?あんた知り合いなの?」

「いいや、こないだちょっとな。それだけ」

「嶺岸さんっていったら今年の1年の中でもベスト5に入る美少女よ?あの扱いって酷くない?」

沙織は色々と校内の噂に詳しいな。ベスト5は兎も角、美人には違いないけど普段からそのベスト5のトップを見てるからな。


「ふ〜ん、そうか?残念ながら興味ないしな」

「ミントってもしかしてそっちの人?」

駿が自分の身体を抱きしめて言う。小柄で童顔だから小動物的な可愛さがあるな、こいつ。


「ちげーよ、好みじゃないってこと」

実際、ああいうタイプは苦手だ。

型にはまった優等生的なのは融通がきかないからな。


それ以降は何ごともなく4人でパスタを堪能して教室に帰った。


そういや、言葉は食堂には来てなかったな。

アイツ普段は弁当なのか?


5時間目、襲いくる眠気にあっさりと意識を持っていかれた俺は夢の中で言葉の晩飯を食べていた。


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