第26話 彼の誤算と彼女の涙7

   ※※※


 地下道を案内しながら、リサの頭の中はぐるぐるとしていた。


「マユリさんが赤色の鍵……」


 反王家の組織に、あの優しい女性が所属しているということが、どうしても理解できなかった。

 ただ彼女がそうした活動をしているということは、必然的にクリストさんやユシアンも仲間の可能性が高いわけで。だとしたら他にもきっと知ってる人が、赤色の鍵に参加しているの?


 三軒隣のロブ爺とか、ユシアンと仲の良い人は疑ってしかるべしだろう。

 でもそうしたらなんでユシアン達はリサに何も言わなかったのだろう。正直に言ってくれたっていいのに。


 ああでも一つ、また謎が増えた。

 赤色の鍵がイオニスに接触した後なのだ。

 ユシアンが警告しにきたのは昨日の夜。ということは、その話し合いの結果をユシアンが知った上で、リサに明日大人しくしていろと言いに来たのだと考えるべきだ。


 では、やっぱりイオニスは何かする気だということだろうか。それを正直に言えずに、ユシアンは偽りの噂で私を止めた?

 イオニスが王家に反乱を起こそうとしていると、そう嘘をついたのだろうか。


 悩んでいる間に、地上への入り口にたどりつく。

 まず最初にリサが外へ出る。

 続いてイオニスが出て、闇夜の空を見上げた。


「暗すぎて、まだ地下にいるような感じがするな」


 しかし、と彼は薄く笑う。


「新月だけに誰も出歩かないし、王妃の配下の動きも鈍いだろう。今日逃げ出したのは、一番良かったのかもしれない」

「そうかも」


 リサは同意し、イオニスを促した。


「じゃあイオニス、これから王家の隠し通路に通じてるとこまで案内するよ」

「いや、今から城内に入るのは良い案じゃない。せめて朝、皆が集まっている所へ現れるぐらいのことをしなければ、きっと王妃の配下に見つかって秘密裏に始末される」


 そうだった。イオニスは毒殺されかけたのだ。今まで母だと思っていた人に。それを思うとリサは胸が痛くなる。


「それより身を隠すべきだろう」

「なら、うち……くる?」


 朝まで身を隠す間のことなのに、なぜか言うと妙に気恥ずかしかった。


「地下から脱出したのだとバレてしまえば、必ず地下探索をしてる者のいる貧民街にも、追っ手が探しに来るだろう。それよりもっと良い場所がある」


 イオニスが告げたのは、王宮外縁にある小さな聖堂の名前だった。


「そこの地下にも、王家の隠し通路の出入り口がある。ついでに変装用に衣服を貸りておけば、王宮へ入った後に目立たなくなる」


 リサはイオニスの計画を聞いて、うなずいた。

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