第9話 赤面の遊覧船
…のんびり温泉に浸かったポニャリン顔の湯上がり男3人は、てぷてぷと歩いて西伊豆屈指の観光地堂ヶ島海岸の入り江に行きました。
美しい海と常緑の山…風光明媚な堂ヶ島には人気の観光施設「らんの里堂ヶ島」や「加山雄三ミュージアム」等もありますが、何と言っても最大の観光スポットは入り江の桟橋から乗る「天窓洞めぐり遊覧船」です。
天窓洞とは海に張り出た断崖の下の洞窟で、この遊覧船はその狭い洞窟の中へとずんずん入って行くのです。
洞窟の中に進むと、奥の天井に大きな穴が開いていて、船はそこで太陽光のスポットライトに照らされるのです。
全国でも珍しいとてもスリリングでファンタジックな遊覧船です!…とまるで西伊豆観光協会の人が言うような話を聞くまでもなく、
「さぁ!乗りましょう!」
張り切る竹橋君に続いて私と湯野木さんも小さな遊覧船に乗り込みます。
…そしてほどなくして汽笛を鳴らして船は桟橋を離れました。
下を見ると入り江の海水は綺麗に澄んで、船が進むにつれだんだんと深く蒼く色を変えて行きました。
…入り江から外海に出ると少し波が高くなり、船はよわんよわんと揺れました。
そんな中、同じ船の若い女子大生風乗船客数人が左手の海岸の崖上を指して笑っています。
「やだ~ !! 何あれ~ !? 」
「えっ !? 裸?…」
「キモ~い !! …変態?」
「手を振ってるよ!」
…彼女らの指す方向を見て私たちは愕然としました。
「あぁっ !! 」
…そこは先ほど私たちがへよ~んと浸かっていた沢田公園野天風呂だったのです。
海面上の遊覧船からは角度的に崖上の岩風呂のお湯が見える訳じゃないので、ただ断崖の柵のところで素っ裸の男がヘラヘラ笑いながら船のお姉ちゃんらに意味もなく手を振ってるようにしか見えないのでした。
「まだ手を振ってるよ~!アハハッ !! 」
「バッカじゃないの ! 寒くないのかしら?」
「投げキッスしたら興奮するんじゃない !? 」
…そしてお姉ちゃんたちはみんなで崖上のおバカな裸男に投げキッスして大笑いしたのでした。
「あっ!今度は両手振ってる!喜んでるよ~ !! 」
「変態だ~!アッハッハッハ~ !! 」
…あまりの現実におっさん3人は船の中でうなだれたのでした。
という訳で、うなだれ男3人を乗せた遊覧船は外海からゆっくりと海岸沖を周回して、トンボロ現象 (干潮時に陸と地続きになる) で有名な三四郎島の脇を過ぎ、再度汽笛を鳴らしていよいよ天窓洞にさしかかりました。
…船は速度を落とし、慎重に洞窟に入って行きます。
洞窟は狭く、船で中を進むのはスリルたっぷりです。
まもなく船は天井から陽光を浴びる天窓の下に突き当たり、乗船客が歓声を上げる中、180度回転します。…まさしくここが観光遊覧船のハイライト、狭い洞窟内での船の操舵テクニックが見事です!
…中でUターンして洞窟を出ると船はまもなく桟橋に戻り、私たちは下船しました。
陸に上がると湯野木さんがププッと笑って言いました。
「しかしさっき竹橋さんが露天風呂で、へ~イ !! って叫んではしゃいだの…船からは全くおバカな男たちだったんですねぇ…」
…うつむく竹橋君の肩をポンとたたいて私は言いました。
「ま、要するに旅の恥はかき捨てってやつだよ!」
そして男3人は仕方なく笑ったのでした。
(※注 らんの里堂ヶ島は2013年7月に営業終了となりました)
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