第3話 ドリフト

 サイクリングロード。

 それは自転車乗り達が快適に走るための聖域であり、安全確認や道の状況をしっかりと把握することが出来れば多少の高スピードを出すことができる、言わば自転車高速道路です。

 この素晴らしいロードには平日から休日、祝日には特に多くの自転車乗りが訪れ、縛りや自分好みの練習法、走行法を楽しみ、日々精進しています。

 もちろん、日向はサイクリングロードを訓練場として使ったことはありませんでしたが、周りで自分の倍以上の速度を出して走る自転車の存在は認識していました。

 しかしながら、まさか自分がその一員となるなんて、ちょっと前までは夢にも思わなかったでしょう。



 佐久に言われて日向がその場で待つこと一分足らず。佐久は急ぎながらも慎重に、先ほどよりもぎこちない歩みで日向の元に帰ってきました。

 その手に掴むのは碧空色のキラキラと光る細いロードバイクです。

 急いできた様子ですが、佐久は息を全く切らさずに笑顔で自分の前にロードバイクを置きました。そして弾丸の如き勢いで、

「おまたせ!人力史上最速最効率のレース自転車でありフレームはクロモリ製の外国産!イタリアと日本の技術が交わり一つになった至高の逸品!フロント二段の後ろリア十一段、変速可能段階二十二のスペシャルロードバイクだよ!」

 そう言い、顔を輝かせて日向の顔を覗き込む佐久ですが、日向には何のことか分かりません。とりあえず専門用語なのは分かったので、「あはは……」と愛想笑いをして無難にやり過ごそうとします。

 ですが、無難にやり過ごせません。

「このロードバイクは旧式のフレームを使っているんだけど、クロモリの中では最高級のレースモデルで——」

「コンポーネントはイタリア製を元は使ってたんだけど、親が変速機とブレーキは日本製を使うべきだろって言ってちょっといじくってて——」

「ホイールはイタリア製のを使ってるんだけど……あ、ちなみに元々付いてたコンポと同じメーカーのなんだけど、ホイールはそっちの方が良いって言ってまあまあ値段する完成車になっちゃって——」

 と、まあ延々とロードバイクの説明をする訳です。

 日向の愛想笑いはどんどんと引きつっていき、保つことすら困難になっていきました。

 もう、それくらいにして——!と、日向が思った丁度その時。

「まあロードバイクの説明はこれくらいでいいかな?サドルの高さはとりあえず大丈夫だと思うけど、微調整は走るのを見てしていこっか。それじゃあ早速行こうか」

「え?あ、はい!……て、何処に?」

 日向が首を傾げると佐久は、

「そりゃもちろん」

 と、先程まで日向が走っていたサイクリングロードを指すのでした。



 サイクリングロードは基本的に一本道なのですが、所々に分かれ道があり、そういうところは大抵下り坂から始まり平地を挟んで登り坂で本線に再び合流します。高速道路でいう加速車線のようなものです。この場合減速しますが。

 偶に暇人とかドMが利用するこの道ですが、普通はただの回り道なのでそうそう使う人はいません。なので初心者の練習には最適な道であり、佐久が働いている自転車店はよくここを試乗コースにしています。

 今回も例に漏れず、佐久は分かれ道に日向を案内すると、序盤の下りではなくその少し先の平坦で足を止めました。

「うん、ここでいいかな」

 佐久はそう言うと顎に手を当て、ロードバイク片手に日向の全身をまじまじと眺めます。ちょっと変態っぽいです。

「え、ええと……なんでしょう?」

 現に日向もちょっと引いています。

 佐久は自分の中で何かに納得したように、うんと頷くと、

「やっぱり必要だなぁ。ちょっと持っててくれない?」

 日向の方にロードバイクを傾けました。

「はい……はぁ」

 と、日向にロードバイクが渡るや否や、ひんやりと冷たい感覚が右手を伝って脳に伝達されていきました。それと同時に。

「……え?」

 日向は驚きました。

 金属のその硬さに?思ったよりもすべすべした感触に?はたまた静電気が発生したから?

 そのどれでもありませんでした。

 日向が驚いた要因、それは〝重量〟でした。

 日向がロードバイクを両手で持ち上げ、上下に動かします。

「軽い……」

「それ8㎏しかないんだ。クロモリロードの中ではかなりの軽さだよ」

「へぇ……」

 そう言われてもよく分からないんだけど。と思いながら日向はロードバイクをそっと地面に戻しました。

「あの、軽い自転車だと重い自転車と何が変わるんですか?」

「んっとね……ま、それは乗ってからのお楽しみ……てことで、ほいっ!」

 佐久はそう言うとズボン越しに日向の足首に何かを巻きつけました。

「ひゃっ⁉」

 パチンッ!と何かの装着音が響きました。

 日向の驚いた顔を見て、佐久は満足そうに立ち上がり手をパンパンっと叩いて、

「これで乗れるよ。スカートとかじゃなくて良かったよ。……それも見て見たいけど」

「え?ん?な、何ですかこれ?足枷……⁉」

 日向は自分の足首に巻きついた黒い何かを不審そうに、そして少し怯えながら遠目に見つめました。チェーンで繋がれていたら完璧な足枷です。

「違う違う!これはレッグバンドだよ。ジーパンで自転車漕ぐとチェーンに当たってジーパンが黒くなるから纏めてるんだよ。えっと、そう!シュシュみたいな感じだよ!」

「シュシュ……」

 その割に可愛くないと思う日向でしたが、自分を気遣ってくれたものです。不服を口にするのは失礼というものでしょう。

「あ、そ、そうだ!パーカーも一応預かろうか?漕ぎにくいかもしれないし、ね!」

「いえ、それはいいですが……」

「そ、そう…………」

 なんだか残念そうです。

 佐久は一度ため息を吐くと気を取り直し、早速ロードバイク講座を始めることにしました。

「じゃあまず乗り方から!ママチャリはトップチューブ……簡単に言えばハンドルとサドルの間の鉄パイプが無かったり、うんと下にあるから前からでも乗れるんだけど、ロードバイクは、ほら、見てみて」

「あ。綺麗なひし形に……なってますね。でもこれだと前から乗るのは……」

「うん。出来たとしてもかなり苦労する。だからこれを……こうっ!」

 佐久が右脚を上げて、サドルの後ろから、まるでシュートでもきめるように華麗にロードバイクを跨ぎました。

「おー」

 感心したように日向がパチパチと拍手を送ります。それに、どーもどーもと手を挙げる佐久は、今やったのと逆の動きでロードバイクから降り、日向に、

「はい、どうぞ」

 と、バトンタッチをします。日向のターンです。

 日向はゴクリと唾を飲み込み、「よしっ」と一度両拳を握ってやる気を入れて佐久からロードバイクを受け取りました。

「ふぅ……。えっと、確かこんな感じで……」

 日向は佐久の行動を思い出しながら動きをトレースしていきます。

 ややハンドルに体重を預け、後輪とサドルに足が引っかからないように慎重に跨ぎます。

「あれ?そんなに高くない……?」

「おぉぉ……浅神さんって結構脚長いんだね。スタイルいいと思ってたけど、予想以上だよ!」

「え、えへへ……ありがとうございます。えっと、それで次はどうしたら?」

「うん。じゃあさっそくだけど漕いでみようか!やり方はママチャリと同じだけど、安定性に欠けると思うから……そうだなぁ、なるべく前を見てハンドルに力を入れないように身体で乗るイメージで頑張って!」

 かなりアバウトな説明。

 ですが、いくら勝手が分かっても知識だけで何でもできるほど人間万能ではありません。百聞は一見に如かず、百見は一考に如かず、百考は一行に如かずです。

 要するにやってみなければ分かりません。そして、日向はそれに途轍もない憧れを抱いていました。

 なので、日向の返事なんて一つしかありません。

「はい!」

 それはまさしく満面の笑みというものでありました。

 そして日向は走りだします。ペダルを足で引き寄せて、平らな面をしっかりと母趾球で捉え、未知の世界へと漕ぎだしました。

 初めは右足、少し勢いが乗ると左足も乗せて完璧に漕げるフォームを作り上げます。

 乗った左足でも踏み込んでいき、ロードバイクは徐々に加速していきます。

 風を裂き、熱を増し、カラカラとホイール音を高めていきます。ほんの少しの加速、速度にして5km/hほどでしたが、

「うわぁ……うわぁ!これ、これすごい!」

 日向は速度以上に上がる興奮を抑えきれませんでした。今なら実感して重い自転車と軽い自転車の差が分かります。

 速度的には今まで乗っていたママチャリの方が上でしょう。しかし、問題はそこではありません。

 少しの回転数だけで、僅かではありますが直線の始まりから終わりまでを駆け抜けてしまう初速度、軽快さ、そして何より一体感が日向を魅了し、今までに味わったことのない安心感を与えていました。

 不思議と、佐久が気にかけていた安定感については問題なく、日向はまるで身体の一部のようにロードバイクを感じていました。

 科学の法則によりロードバイクが停止すると、日向は進行方向を百八十度変え、佐久の方へ再び走りだしました。またも少し力を入れるだけで目的地に辿り着きます。

 速度もそこまで速くないのでブレーキなしで止まれそうです。とはいえ、少し佐久を通り越してしまいましたので。

「おっとっとっと……」

 日向は足でロードバイクを止めると、一度降りてからロードバイクを押して佐久のもとに駆け寄ります。

「おかえり〜ちょっと短かったけどどうだった——ってえ⁉」

 佐久が言い終わる前に日向は佐久の顔に自分の顔をグッと近づけ、まさに興奮さめやらぬといった感じに語り始めます。

「凄いです!本当に凄いですよこのロードバイク!本当に、本当に少しだけの間でしたけど、ペダルに足を乗せた瞬間に感じたんです。私、この子と今一つになってるって!」

 鼻息をを荒げながら語りまくる日向に佐久は顔を赤くし、目を逸らしながら「き、気に入ってくれたみたいで……」と思春期男子のような反応をします。

 それに対して日向は「はい!」と答えると、ロードバイクの方に目線を移し、少し声のトーンを落として、

「私……今まで誰かと繋がってるって感じられたこと無かったんです。なんていうか、自分一人で世界にいるっていうか……」

「……浅神さん?」

 少し様子が変わる日向。そんな日向の顔を、佐久が心配そうに覗き込みます。日向の顔はどこか寂しそうで、泣きだしそうな表情……かもしれないと思っていた佐久ですが、予想外の表情に思わず目を見開きました。それは。

「だから、嬉しかったんです。根拠なんか全くない、感覚論なんですけど……この子はきっと……ずっと、一緒にいてくれる気がして……!」

 それはとても穏やかで、悲しみとは一番縁遠い、冬の寒さをつい忘れてしまうような暖かな、まるで春のような笑顔でした。

「浅神さん……!」

 その表情だけで、佐久には日向がどれほどロードバイクを気に入ったかが分かりました。

 今までどれほどの客が、佐久が働く自転車店に来たかは覚えていなくても、日向ほどに素敵な笑顔を見せたお客様は他にいませんでした。

 佐久は思いました。

 純粋に、店のためとか自分の為とかを考えずに。日向の笑顔をもっと輝かせたいと、ロードバイクを大好きになってほしいと——。

「浅神さん!今度は坂の上から走ってみようよ!距離も伸びるし速度も上がるから、きっともっと楽しいはずだよ!」

 まるで新たな遊びを思いついた小学生のような唐突な提案でしたが、こんな素敵な提案に今の日向が乗らないわけがありません。

「はい!やってみたいです!」

 まるで遊びを覚えた犬のように食い付く日向。仮に尻尾が生えてたとしたらブンブンと回しているところでしょう。

 日向は今いる平地からちょっとだけ上へと、尻尾の代わりにホイールをカラカラ回して坂を登り、到着するや否やすぐさま再びロードバイクに跨りました。

 少し下ではキラッキラの笑顔の佐久が能天気に手を振っています。

 日向はそれを見て笑いながら、再び足をペダルに乗せました。下り坂のため、今度は漕がなくても勝手に進みます。

 先程より速度が増し、安定感が出てくると、日向はますますロードバイクとの一体感を感じるようになりました。

 かなり速度が上がっていき、日向は能天気に笑う佐久の隣を勢いよく通り過ぎます。

 本当に能天気です。

 ええ、もう本当に。

 え?何故能天気なんて言い方をするか、ですか?

 そりゃあ、

「浅神さーん!ちゃんとブレーキを徐々にかけてスピードを落とすんだよー」

「…………え?ブレーキってどこですか?」

 佐久ば日向に、ブレーキの場所を教えていなかったんですから。

「え……?……はっ!」

 佐久は思い出しました。

 日向はロードバイクに乗ってから二度停止をしましたが、一度目は勝手に止まり、二度目は足と地面の摩擦でロードバイクを止めていました。

 そう、日向はロードバイクに乗ってから一切、ブレーキを使っていなかったのです‼︎

「あ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ———‼︎」

 佐久は大慌てで走り去る日向とロードバイクを追いかけました。先程までなら足で止められましたが、今の速度ではいささか足でのブレーキは頼りない。というより危険です。

 佐久は追いかけます。めちゃくちゃ頑張って追いかけます。

 ですが、子供でも分かる道理。

 〝スピードでてるチャリには走っても追いつかない〟

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎」

 ですが佐久、諦めません。

 焦りながら必死に追いかけ、冷や汗をアスファルトや砂利に撒き散らします。止めるのが少しでも遅ければ向こうは舗装されていない完全なる砂利道。そんなところに突っ込んだら日向は転倒し、きっと身体に無数の傷を負うことなるでしょう。

 それだけはいけない。それだけはいけない!と、佐久は全力で走るのでした。が。

「えっと、多分コレをこうしたら……」

 日向は冷静でした。

 日向は冷静に機体を分析し、そして止まる方法を模索していました。

 最後まで諦めず、冷静に考える姿勢。現代人に見習ってほしいランキング上位に入る行動を絶賛実行中の日向でしたが……一つ、彼女は考え方を間違えていたのです。

 日向は止まる方法を考えました。しかし、ブレーキを探してはいなかったのです。

 科学の法則。今までの知識。それを総稼働、フル活用した結果、日向がとった行動は——

「ああっ!もうダメだぁぁぁ————‼︎」

 佐久が叫び、砂利道まであと1mほどの地点、そこで日向は、不意に、サドルから腰を上げたのでした。

 そして、まるでサッカー選手がボールをゴールにシュートする時のような凄まじい腰の捻りを見せると、

「え、ええええ—————⁈」

 佐久もビックリ、ロードバイクの後輪……否、前輪とハンドルから後ろの全てが弧を描き、百八十度方向を転換したのです!

 日向はそれに合わせるように前輪を傾け、自分の身体も今までの進行方向とは完全なる真反対に転換し、後輪を地面に擦らせながらサドルに腰を下ろして安定するのでした。機体は見事に静止。後輪と砂利道までの距離は僅か1㎝ほどでした。

「ふぅ……なんとか止まれたぁ……」

 日向はそう呟くと再びペダルを漕ぎ、呆然とする佐久の前で停止しました。

 佐久が金魚のように口をパクパクとしながら、額に汗を滲ませています。

 日向はそんな佐久を見て首を傾げます。すると、微かですが佐久が何か音を発していることに気がつきました。

 日向が佐久の口に耳を近づけると、

「ド、ド、ド、ド……」

 と、何やら心拍のような音が。

「ど、どうしたんですか?あの……大丈夫——」

「ドリフトじゃんか今のォ‼︎」

「ひゃっ⁉」

 いきなりの大声に、日向は驚き、仰け反りますが、佐久にはそれどころではありません。

 逃げる日向の肩をガシッと掴むと、

「どうやったの⁉っていうか、なんでロードバイクでできるの⁉い、いや、っていうかなんで転ばないの⁉いや転ばなかったのはよかったんだけど‼︎」

「え?え?え、い、いや……そ、その?な、なんとなく横に滑ったらその力で自転車が止まるんじゃないかなぁ……って……」

「でも横に滑らせるのってかなり難しいしここアスファルトだよ⁉どうやって⁉なんで!どうしてー‼︎」

 一つ質問する毎に佐久はどんどんと日向に詰め寄り、それに伴い日向の顔から無数の汗がタラタラと垂れていきます。「えっと、あっと、その……」と対処を試みる日向ですが、その対人力にも遂に限界が来た……その時でした。

「テヤンデスコォォーイ‼︎」

「ぐぶぅぅぅぅぅぅぅ⁈」

 どこからともなく舞い降りた天からの空手チョップにより、佐久の脳天に大ダメージ。間も無くして日向を掴んでいた手は力なく身体と共に落ちていきました。

「え?えっ⁈」

 突然のことに訳がわからない日向は、地に転がって頭から煙を出す佐久をあたふたと見守ることしか出来ません。

 一体誰がこんな酷いことを!と、日向が顔を上げたのとその酷い人が喋り始めたのは同じタイミングでした。

「佐久、アンタ店番すっぽかして人様に迷惑かけてるとかロクでもないわねぇ。いつからそんな不良になったのかしらぁ?店番一つできない粗大ゴミさんを養うほどウチは裕福ではないのよ?」

 ねっとりと嫌らしく佐久を言葉で責めるその人物を日向が見て思ったこと。それはとりあえず一つ。

(ふ、不良だぁぁぁぁ‼︎)

 日向の目の前にいる人物、それは日向が通常の生活では絶対にお目にかかることのできない風貌をした女性でした。

 灰色の長い髪に、朱色の瞳。どこか不機嫌そうなその表情は、佐久に向けられたものか素なのかは判別し難いものがあります。

 その身には、弧を描く形で取り付けられている灰色の毛皮が特徴的な黒のコートを纏っています。

 十代女子ならば必ず羨むような抜群なプロポーションを有している彼女ですが、それ故にコート下の黒のブラウスが少し窮屈そうに見えました。しかし、それがいい具合に大人の色気というものを醸し出しており、彼女の引き締まった身体を強調していました。

 日向はゴクリと唾を飲み込みました。

 未知との遭遇本日二回目です。

「あら、中々に大人しそうで可愛い子じゃない?小動物みたいで……例えるなら猫かウサギね。……佐久が好きそうなタイプ」

「……⁉ちょ!姉ちゃん!」

 消沈していた佐久がものすごい勢いで息を吹き返し、姉と呼ぶ人物に詰め寄りました。

「お姉……さん?」

「え、えっと……むぎゅ」

 何か言おうとした佐久を押しのけて、少し黒い笑顔をしたその人物が日向に顔を近づけ、手を差し出しました。

「えぇ、アタシの名前は大垂水風華ふうか。この不良妹のお姉ちゃんですよ。風華でいいわ、ヨロシク……ね?」

「は、はい!……え、えっと、大垂水さんの同級生で、浅神日向といいます。よ、よろしくお願いします……ふ、風華……さん」

 そう言って風華の手を握る日向。

 その素直な態度に対して風華は。

「ええ、えぇ。素直な子は好きよ?佐久が狙っていたのかもしれないけれど……姉妹なんだから好みが合うのは仕方ないことよね?ささ、家でお茶でもしましょうか」

 そう言って風華は日向の手を引っ張り、突然の勢いによって支えがなくなったロードバイクを佐久が「おっとっと……」と受け止めます。

 苦笑いで引っ張られる日向に、それを見て満足そうに笑う風華。

 そんな二人を後ろから見る佐久は不満そうに、

「私そういうのじゃないからー!けど、浅神さんからは離れてー‼︎」

 と、悔し恥ずかしそうに叫ぶのでした。

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