第四話~魔王と勇者のラブストーリー~

 コントローラを手に持ち、仲間にガンガン行こうぜの指示を出す。

 魂が転生の間に現れず、暇を持て余している俺とサクレは、テレビゲームをやっていた。

 しかもテレビを二台、ゲーム機を二機、ソフトを二本用意して、同じゲームを並びながら個々でプレイしていた。

 やっているのは、割と大人気のドラゴンが付くRPG。浪人中は出来なかったから、プレイするのはかなり久しぶりだ。


 ちなみに、ぶっ通しでかれこれ150時間ほどやっている。

 だけど天界にいるためか、眠くならない。

 現在、俺とサクレは魔王に挑戦していた。

 なかなか頑丈な奴で、ちょっとずつしかHPが減らないのだが、何とか第4形態まで進めることが出来た。ちなみにサクレはまだ第1形態だ。


「あーもう、なんでダメージが入らないの! チートよ、チート」


「うるせぇサクレ、ゲームのラスボスにチートもくそもあるかっ! よし、ラストスパートだ」


「あ、ちょ、待って、その技はやめてーーーー」


 俺の画面には、見事魔王を討伐して、戦闘画面が終わった。ちなみにサクレの画面にはゲームオーバーの文字が。

 ちゃんと育てないからそうなるんだよ。

 魔王に負けて落ち込んでいる転生神かっこ笑を鼻で笑った後、お茶を取り出して一息ついた。

 さて、これからエンディングだ。なんかやり切った感がすげぇな。

 そう思いながらテレビ画面を見つめていると、突然、鐘のような音が鳴り響いて来た。

 まるで結婚式の時になるチャペルの鐘の音のようだった。


「お客が来たようね、だるいけど仕事しましょう」


 サクレは「よっこいしょ」と口に出しながら立ち上がった。

 転生神がそんなんで大丈夫かと思いながら俺も立ち上がり、その後ろについていった。


 俺とサクレが向かった場所には、二人の男が立っていた。

 片方の男は、黒を中心としたデザインに全身を覆うようなマント、少し長めの黒髪に二つの悪魔のような角が特徴的な男だった。まるで魔王のようだ。

 そしてもう一人は、光り輝く、聖なるという言葉が似合いそうな甲冑を身にまとう、金髪でサラサラとした髪が特徴の、これまた男だった。

 そんな二人の男は、がっちりと手をつなぎ、俺たちに視線を向ける。


「「俺たち、結婚します」」


 勝手にやってくれ。というか俺たちに宣言しないでほしい。


「おいサクレ、お前も一応神様なんだろう。祝福ぐらいしてあげたらどうだ」


「あの二人からは何も感じないわ。これじゃあ薄い本が描けないじゃない。だからいや」


「おいおい」


 一向に祝福を与える気配を見せないので、俺が二人の男に話を聞いた。

 なんと二人はとある世界の魔王と勇者だった。なんでも、二人して命がけの戦いを行いながら語り合っているうちに惹かれあったとか何とか。

 殺し合いをしながら語り合うって、もしかして戦闘中に「趣味は何ですか」とか聞いちゃってんのかな。そう考えるとなんかキモイ。


「なるほどなるほど、戦闘中に芽生える恋か……。憧れるなー」


 俺の隣に馬鹿がいる。何も聞かなかったことにしよう。


「そういうことなら、転生神であるこの私にお任せなさい。貴方たちを同じ世界に転生させてあげる」


「あ、あの……」


 勇者が恐る恐る手を上げてきた。転生といったら転生特典。やっぱりなにかほしいものでもあるのだろうか。

 俺だったらチート的な能力が欲しいけど、勇者って存在そのものがチートっぽいし、何を欲しがるのだろうか。


「私かこいつのどちらかを女性として転生してくれませんか」


「割としょうもないお願いだったっ!」


 あまりのしょうもなさに思わずツッコミを入れてしまった。いや待て、もっといい願いがあるはずだろう。

 だけど、俺の言葉が気に入らなかったのか、魔王が睨んできた。


「俺たちにとっては大切な問題なんだ、このままでは子供を作れん」


「男どうして子供を作れる世界があるらしいぞ」


 そういうと、魔王と勇者はきょとんとした顔をして、お互いに見つめ合い、顔を赤くして俯いた。

 そんな様子を眺めていると、わき腹をつつかれたので、振り向くとサクレが、小言で話しかけてきた。


「あの二人はねぇ、男同士じゃなくて男女でイチャラブしたいのよ。いい、察してあげなさい。あの二人は本気よ」


「今日のお前はどうした、熱でもあるんじゃないのか。人の雰囲気を察するなんて、まるで女神じゃないか」


「正真正銘の女神よ、私は。それでお二人さん、どっちが女の子になるの」


「それは」


「もちろん」


「「こっちだ」」


 そう言って、互いに相手を指差していた。そこから先は凄くしょうもない争いが始まった。

 どちらが女性になるかという話から、お互いにどちらが女性らしく、どちらが男性らしいのかを言い合った。まるでお互いに好きなところを言い合うバカップルみたいだ。

 ものすごくくだらねぇ

 俺なんて、勝手に女神にここにとどめられてダーリンなんて呼ばれているんだぞ。選択権なかったんだぞ、うう、目から汗が……。

 魔王と勇者の言い合いは留まることを知らず、ヒートアップしていく。

 そんな光景を見飽きたサクレは、大きくあくびをした後、勇者を指差した。


「アンタが女性に転生ね」


「「……え」」


 魔王と勇者は、突然現れた光の柱に包まれて、天高く昇っていく。そして姿が消えるまで、びっくりしたような顔をしていた。でも、あの状況で手を一切話さないのには、愛を感じたなー。


 それから数日後。俺はいつものように60インチの大型テレビの電源をつけた。

 そこに映っているのは、この前転生した魔王と勇者だ。あいつらは、勇者が女性になっただけで、お互いに魔王と勇者という立ち位置で転生した。

 そんな彼らが、転生後の世界でどんな生活をするのか、気になった。


「ようやく、ようやく会えたぞ、勇者っ!」


「私も、私も会いたかったわ、魔王。もうあなたを離さない」


「それは私もだ。このまま一緒に逃げよう。そして、幸せになろう」


「うん、私はずっとあなたについていくわ」


 抱き合う二人に忍び寄る影。魔王軍の幹部っぽいのと賢者っぽい人が現れる。


「勇者、そこまで本気なんだね。だけど私は認めない。勇者に免じて殺さないで上げるけど、あなたがちゃんと私の大好きな勇者を幸せにするのか見届けてやるんだから」


「ふん、そこの賢者、そのセリフは俺からも言わせてもらう。魔王様を篭絡させた勇者が本当に魔王様にふさわしいのか、見届けてやる」


 賢者の魔王軍幹部は二人してにらみ合う。

 そんな二人を魔王と勇者は笑った。そして、壮大な駆け落ちっぽいドラマが始まった。


 ぶっちゃけ言おう、あの二人の転生後のお話は、ドラマみたいでかなり面白かったよっ! 大満足だ。ちなみにサクレは泣いていた。泣く要素なんてあったか?

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