第3話

悪魔と言えば、様々な悪魔がいる。人間の悪魔の事だが。本当に、中身が悪魔だと思う人間に過去に何人か会ってきた。誰にでも悪の心はあるし、何かあればそう変わるのだろうが。                  でも、これは相当な物だ、正に悪魔だと感じた人間達がいる。表面的には普通に装っているから、普段は善人だとか極普通に思われていても、本当は物凄く、悪魔の様な部分を持つ奴等を。彼等との関わりから、私が経験した幾つかの一つを書いてみよう。     役五十年程昔の話だ。私は小学生の、確か二年生位だったろうか?自分の家の、割と近くにあった八百屋ヘ買い物に行かされた時の事だ。その日は土曜日だった。母が毎日正社員として米軍基地内て働いていたから、普段は父親の様に、ほぼ一日中家にいない。休みの土日だけはいる。で、よく土曜日には一緒に昼食を、インスタントラーメンを食べた。母が二人分を作る。普段は祖母が全て家の事をするのだが、週末は違った。祖母は週末は割と出かけていたから。          そのラーメンを作る時に、たまに足りない物が出てくる。ネギだとか一寸した野菜。又はラーメンその物だ。そんな時、私がいつも買いに行かされた。それでその日も、割と又いつもの様に母から何かを買いに行かされた。八百屋は家から大体五十メートルかそこらだった。家の直ぐ側の横断歩道を渡り、もう後本の少しで着く、もう目と鼻の先だ。もう見える。

だから、今から思えば何故走って八百屋の中に入らなかったのかと思う。何メートルか先には若い男性が三人いて、真っ直ぐにこちらヘ歩いて来る。彼等は私が来た方角まで来ないと、前方や左右へ行けない。なので八百屋ヘ入らない限りはこの若者達と必ず行き交う。                  その時だ。三人の中のリーダーらしき青年が、私を見ると大声を出して他の二人を引き連れて走って来た。           私はアメリカ人とのハーフな為、特に当時の日本では珍しい存在。栗毛色の髪に翡翠色の瞳で肌は色白だ。当時の日本では、幾ら横浜の中区で、周りに米軍基地や米軍ハウスがあってもかなり珍しい存在だ。なので彼等は、アイノコがいると言って走って来た。   そして 掻い摘んで言えば、私の髪を引っ張ったり頭を叩いたり、靴を踏みつけたりを散々して、やっと満足すると去って行った。多分短くても、十五分は必ずやっていた筈だ。年齢的には二十歳から二十二歳位だったろうか?だが私はまだ八歳位の小学生だった。                  その時に、このリーダー各の男は何度も騒いでいた。アイノコの癖にこんな格好をして生意気だとか、何を良い靴なんか履いてるんだとか。自分が過去に見たアイノコ達はもっと汚い、変な格好をしていた。なのにこいつは違う、生意気だと。           実は私の母は、一緒に住む祖母から言われて私が小学生位からは、着せ替え人形の様にいつも可愛らしい格好をさせていて、靴もエナメルでホック付きの物を殆ど毎日学校に履かせていた。それでよく学校で、遊び時間中に転ぶので、担任教師に注意されるまでこの靴を履かせていたし、何処へでもこれで行かせていた。夏だけは、ゴム草履とかサンダルに、可愛らしいムームーとかワンピースが多かったが。               とにかく、エナメルの靴はとても走り辛くて嫌だった。担任教師から、普通の運動靴を毎日、他の生徒達の様に履かせる様に、でないと遊び辛いし怪我をし安いと言われて承諾するまではいつもこれだった。一応はインターナショナルスクールだと言う、南区にあった、高校までエスカレーター式の小さな所だが、かなりいい加減な、後に小学部だけをかろうじて残せて、そして最終的には潰れた学校だったから、恐らくそうした事を余り注意しなかったのだろう。だからその前はずっと何も言われず、確か担任が変わってからだ。だから、それからは、動き安くなり転ばなくなった!                それで、裕福でもない母子家庭が何をやってる、そんな格好をさせていると他人から反感を買う、と伯母達が幾ら注意しても、凄く見栄っ張りの祖母と、やはりある程度見栄っ張りプラス、マザコンで祖母には下僕となり、それに甘んじている母は絶対に聞き入れなかった。この件が起きるまでは…。     この件が起きてからは少しましになり、エナメル靴は、又直ぐに新しいのを買われてやはりしばらくは履かされていたが、その後担任に言われた事もあり、普通の運動靴へと変わったが!                何故なら、私は散々この二十代前半の三人組にいたぶられて、もうボロボロだ。怪我はしなかったが、髪やリボンや服を引っ張られたり、靴が特にそうだ。まだ割と新しかったこのエナメルの靴は、こんな良い靴、だとか、こんな物履きやがって!、と言われながら、そのリーダー格に上から踏んで力強く擦られた。そして周りの砂利や砂を足で上に何度も蹴散らされて又強く擦り付けられた。他の二人にも反対側の靴をそうしろ、と命令。慌てて二人も見様見真似で一生懸命に従う!リーダーは、私の綺麗な新しい靴を、見る影も無く汚くボロボロにしなきゃ駄目だ、と何度もその二人に指図しながら実行。私の足はそんな事を大人にされて、怪我はしなかったがとても痛かった。そしてついにはピカピカな真新しい靴は年老いて皺だらけの老人の顔の様になり、みる影も丸で無し。同じ靴だとは信じられない、哀れな姿に…。とても可哀想な状態に変貌した。反対側も右の方を良く見本にした二人組の為に、同じ様な姿に。   私の左右に結いてある髪の右側は引っ張られて形は汚く髪が沢山はみ出し、もう片方とは不揃いな形に。             八百屋のオバサンは何が起きてるのかと店先に出てきて、その様子に驚き釘付けになった。何か言って止めてくれるかと思った。中年の、四十代位の人だった。だが、顔は驚きと恐怖だった。だから黙っていた。恐かったのだろう。何か言ってとばっちりを喰うのが。だからそのままじっと様子を見ていただけ。他には誰もいなかったし、誰も通らなかった。直ぐ近くに交番があるにはあるのだが、いつも割と無人だから役にたたないのもあったのだろうが。それとも、そこまでするつもりも無かったのか?         とにかくそうしてこの若い三人の、特に一人の最悪のを含めたこの悪魔達は、善行を行ったとして満足すると、得意そうに嬉しく去って行った。リーダーが私に、「ザマァ見ろ、これで分かったか?!お前らなんかが良い格好してるんじゃねー。」、みたいな事を何度か言い残して。              私は仕方無くその後、言われた物を買いに そのまま八百屋ヘ行った。体は先程の恐怖と悲しみやショックとに打ちひしがれていたが、母は鬼母でもあったから、泣くのを必死で我慢して買いに入った。八百屋のオバサンは丸で何事も無かったかの様に普通に売った。                  余談だが、その後、此処にはある程度大きくなるまでははずっと買いに行っていた。言われて仕方ないから。だがその後は無くなり、普通の家に建て替えた。         家に帰ると、何でこんなに時間がかかったのか、何をサボっていたのか、自分はもう腹ペコだとかを母に言われ、凄く叱られた。何故か理由を言え、と玄関で聞かれた。言うまでは家に上げないと。           そしてその時に母が靴を見た。その変わり果てた汚く古めかしい、ヨロヨロのエナメルの黒い、いや元は真っ黒くツヤツヤした、今はひび割れてゴマ塩みたいな靴を見て母は驚き、叫んだ。              「あんた、一体何をしたの?!」      何でさっきまであんなに綺麗でピカピカだった靴はこんなに汚くボロボロになったんだ、一体何をしたんだと。物凄く怒りながら、又泣きそうな顔で悲しそうだった。せっかくママが一生懸命に働いたお金で買ってるのに、安い靴じゃないのにと。何をしてそんなに酷くなるのか、何が気に入らなくてそんな事をしたのか、と。私はしばらくは黙っていた。本当の事を言えば母もうんと傷つくだろうと。だが余りの執拗さに話さざるを得ず、話した。                 母は物凄く驚き、最初は信じなかった。いつも、そうした性格だからだ。嫌な事は信じない、又は信じようとしない。本当は分かっているのだが認めたくないから。だから何度も、嘘をつくなと怒った。何か変な事をして靴を汚して駄目にして、そんな変な作り話をしているんだろうと。          私はもうどう仕様もなく、泣いて釈明した。全てが本当だと。すると、やっと信じた、と言うか認めた。そして母も泣きながら、怒り狂った。どっちの方角ヘ三人が行ったか聞き、そっちへ追って行こうかと、少し思ったみたいだ。又、警察へも相談しようとした様だが、時間も経つているし、相手にされないと思い、止めた。当時は時代的に、今よりも色々と緩くいい加減だったから。何でも御座れみたいな所もあったから。       結局、二人してかなり遅く、時間の経った昼食の、気分的には凄く不味いラーメンを無言で食べた。               親戚には、だから言わん事じゃない、と言われた。祖母も大変に震え上がった。それからは、エナメルの靴は学校と、何処かへ一緒に外出する時以外は履かなくて良くなった。近所では履かなくて良くなった。そしてその後しばらくしてから担任教師のおかげもあり、エナメル靴を登校時に履かなくて良くなり、この種の靴との付き合いは俄然減った!  只、母と祖母は懲りない性格の為、相変わらず私に可愛い服を着せたし、着せたがった。(エナメル靴でさえ、あの出来事の直後に代りを買った位だから!)只、余り可愛すぎず、目立たない物を少しは選ぶ様になったとは記憶しているが。少なくともよく履かせられていたレースのピラピラの靴下は完全に無くなった!これには一人の伯母の強力な反対にも感謝している。           だがあの三人の青年、特にあのリーダー格は、恐らくは普通の大学生か新人社会人だろう。だから普段はもしかしたら割と大人し目で、誰もあんな事をするなんて信じないかもしれない。あんな酷い、陰湿な悪魔が体内に住んでいるなんて、思わないかもしれない…!

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