第2話 ぼーっ

 ㅤ教室に入ると、真っ直ぐ自分の席に向かう。朝の光が差し込む窓際、黒板に対して一番前。そこでほおづえついて、窓の向こう、緑の庭に目をやる。


 ㅤぼーっとする時間が好きだ。考えることがなかったら、何かに傷つくことないし。まぁ何かに傷ついた覚えはないんだけど。ただ、あの子のぼーっは少し気になる。


 ㅤ対角線にある、あの子の席。一番遠いけど、窓が反射してたまに薄く映る気がする。


 ㅤあの子はぼくより動かない。あの子は誰ともろくに話さない。それは楽しいんだろうか、辛いんだろうか。


 ㅤそんなのわからないけど気になる。わからないから気になる。ぼくのぼーっとあの子のぼーっ。何が違って何が一緒なんだろう。席替えで、近くになったりしたら少しはわかるかな。


「おい、みちる。こないだのアンケート書いた?」


 ㅤ背中の方から声がして振り向くと、隣の席の陽太ようたがこちら向きに座ってた。


「うん、一応書いたけど」

なに、希望にした?」

「全部かな」

「全部!?ㅤお前マジかよ」


 ㅤそう驚かれてもなんか困る。やれることがわからないぼくとしては、まず全部習ってみないとわからないと思ったから。


「陽太はどれにしたの」

「オレか?ㅤオレはもちろん太陽の授業!」


 ㅤ確かに陽太は、その名の通り明るい。髪も赤い。"太陽のチカラ"の適性は充分ありそう。それに比べてぼくは、自分に眠る力が何なのか気づけてない。だけどそれで焦る気持ちにならないのは、あまり期待をしてないからかもしれない。


 ㅤ自分に対して、何かに対して。誰かが聞いたらさびしい響きかも。ただぼくは、それで不自由に感じたことはまだない。空っぽな感じがしてるだけ。


 ㅤでもあの子はどうだろう。あの子もきっと、適性を感じてない。それで変に傷ついたりしてなかったらいいけどな。学校なんて学ぶ場なんだから、最初は何もできなくたっていいはずだよ。最後まで何も覚えれなくても、それは学校のせい。とは言い切らないでおくけど。


 ㅤあの子はまだ来てないな。ねがい、だっけか。後ろの扉から入ってすぐの席だから、いつも知らないうちにいるんだよな。

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