リハビリとして『食べる』ということ

 息子は、元々食が細い方でした。食の嗜好も少し変わっていて、野菜大好きの肉の脂身苦手、という、およそ子どもらしくない嗜好で、よくあるピーマンやニンジンが苦手で、食べさせ方に悩む、という苦労は全くなかった反面、唐揚げ等の子どもが好きそうなものを全く食べないので、頂き物をした時に困る、という、不思議な食生活をしていました。そこに来て、悪性リンパ腫が見つかり、抗がん剤治療を行った事で、食は更に細くなりました。これは前述もさせて頂きましたが、抗がん剤治療を行うと、味覚が変わってしまう場合があるそうで、実際息子は、それまで美味しいと感じていたものも、あまり美味しいと思えなくなった、と話していました。また、これは父親として近くにいて、考えた事ですが、抗がん剤治療中は、常に嘔吐感との戦いがあり、吐いてしまう事も多くあった為、おそらく息子は、食べる事そのものに抵抗を感じているようにも思います。


 その息子が、リハビリテーション入院中は、兎に角よく食べたそうです。残す事はまずなかった、と聞きました。わたしは、もしや、と思いはしましたが、息子と二人の時にその話題に触れてみました。すると、


「おれはリハビリしにここへ来てるからね。食べる事もリハビリなんだよ」


 と言う返答でした。


 身体を作る、と言う事。リハビリテーション、筋力トレーニングと、それを支えるエネルギーと、筋肉の基になる食品を食べる、と言う事。それすらも、リハビリテーションなのだと言います。つまり、努力して食べている、と言うのです。医師や看護師、理学療法士の方々から言われた言葉の通りにしているだけなのかもしれませんが、それにしても、凄まじい努力をしているな、と内心驚きました。ちなみに病院食は「不味い」そうで、いつもふりかけ買ってきてくれ、と言われていました。それも息子なりの工夫、息子なりの努力だったのでしょう。


 いま現在も、息子はやはり食が細いです。抗がん剤の影響はさすがに抜けて、もう食品の好き嫌いは特にないそうです。が、やはり沢山食べる事には抵抗があるようで、直ぐに箸を置いてしまいます。仕方がないのかな、と思う反面、こんなに少食で平気なものなのか……?と心配したりもしています。老若男女問わず、我々にとって身近である『食』が、これからの息子の課題と言うべきものになるのかもしれません。


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