人鳥の家

みずかん

#1 しんせいかつ

田舎から上京して来た僕はこの春から調理師の専門学校に通う。

学校に寮が無いので、不動産屋を巡っていた。

だが、予算に見合う物件が中々見つからなかった。


4件目の不動産屋。

希望を伝えると...。


「アパートではないんですが...、

月々の家賃2万円という物件があります」


「えっ?2万円?安くないですか?」


その値段にまず驚いた。


「シェアハウスになるんですけど...。

何故か入った人が1ヶ月も経たないうちに

引っ越しされるんですよ」


「そ、それは事故物件とか?」


「いやいや...、昨年出来たばっかりなんですけど。

何故か、"怪物が出た"とか、"野良猫が知らないうちに上がり込んでる"とか、

住んだ人それぞれ、別の支離滅裂な理由で引っ越しなさるんですよ...。

大屋さんも理由も原因もわからず...。

シェアハウスなのに空き家なんですよ」


色々考えた。

確かに安いのは納得した。


「...入居してもいいですか?」


「別にダメとは言いませんよ。お客様。

ただ、1ヶ月持つかどうか...」


「とりあえず、様子を見てみます」


「わかりました。では、こちらの書類に...」


そんな摩訶不思議な物件にサインをした彼の名は。


日野春弥ひのはるやである。




そのウワサの物件に引っ越して来た。

誰もいない。奇妙なシェアハウス。


玄関を入り、1階には長い廊下。

真正面の扉の向こうにはリビングとキッチン、

左側洗面所と浴室。右側にトイレ。


2階には6つの扉がある。


ちゃんと各扉に鍵が付いている。

欠点と言えば、風呂・トイレが共同であることか。

でもまあ、自分一人しかいないので、あまり関係ない。

セキュリティも万全、家具付きなのに誰も寄り付かないとは。


大きな家に自分一人だけなので、とても得した気分だ。

しかし、この家が安値だった理由が、まさか翌日に知る事になるとは。




朝起きて、階段を降りている途中だった。


「...ん?」


何かを焼く音と、微かに良い香りがする。

一度廊下に出て、右を向き扉の前に立つ。


もちろん、怖い。

だが...、僕はこう思った。


(この家に住まう怪物の素性を確かめようじゃないか!

子供の頃に見た怪異を追い払う漫画っぽく!)


勢いよく扉を開けた。


「あ、おはよう」


そう挨拶してきたのは、若いツインテールの女の子だ。


「おは...、誰だよ!!」


意表を突かれた存在に、思わず声を荒らげる。


「はじめまして、よね。新しい住人さん」


「お前は...?」


「ロイヤルペンギンのプリンセス。よろしくね」


「ペンギン...」


訳がわからない。何故ペンギンが擬人化して、

この家に居座っている?

何故昨日は姿を現さなかった?

そもそも生きてんの?


先程までの自信はいつの間にか、消失していた。


「みんなもうじき来ると思うわ」


「みんな?」



「おーっす...」


「おはよう」


「ふぁあぁ~...」


「おはようございます」



「...えっ?えっ?」


続々と扉から出て来ると、机に4人が座る。

こいつらもしかして全員ペンギンなのか?


「皆、新しい住人の人よ」


呆然と立ち尽くしていると、次々に挨拶をした。


「俺イワビー、よろ」


「コウテイだ」


「フルルー」


「ジェーンです」


「...あ、えっと...、僕は春弥」


「よろしくね、春弥さん。朝ご飯にしましょ」


僕は奇妙な家に引っ越してしまったようだ。

ペンギンとの共同生活が始まった。

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