第29話

「すっごい。お洒落ねっ!」

 

 公園から徒歩10分程の場所にあった別荘。

 大きな角材が積み重なってできたそれは、木々が生い茂る周囲の雰囲気に違和感なく溶け込んでいる。


「普通の一軒家と変わらないくらいの大きさ……いや、それ以上かも。少なくとも、ウチよりかは大きい……」

「どうですか! これが花火のちっからです!」

「偉いのは、叔父さんと叔母さんですからね~」


 中に入っても、やっぱり広い。リビングにキッチンに、お風呂。更には小部屋がいくつか。


「哀斗っ、すごいわ! 2階まであるわよ!」


 既に頭上から聞こえるリミリーの声に、テンションの上がり様が伺える。


「リミリー先輩、おおはしゃぎですね」

「電車の中でも、にこにこだったからねえ」


 リミリーの言葉による説得、という面もあるが、リミリー自体の明るさの影響というのも哀斗が今回の旅行を楽しもうと思えたきっかけの一つだ。


「外に比べると涼しいね。冷房でも効いてるの?」


 まだ点けてませんよー、と言いながら花火は壁際に掛けられたリモコンを手に取り、音を鳴らす。


「木材の断熱性は優秀ですからね。夏は涼しく、冬は暖かいというのがログハウスならではです」


 と、読書家の憧子が補足する。


「涼詩路さんは物知りだね」

「いえいえ、そんなことは……!」

「おねえちゃんったら、照れてやんのー」

「……花火」


 憧子は普段の3割増しくらい低い声で名前を呼ぶ。それだけで、花火はびくりとして口を真一文字に口を結ぶあたり、教育がよく行き届いているな、と哀斗が静観していると。

 軋むような音が一切しない階段で足音を鳴らしながら、リミリーが降りてきた。


「なっ⁉」


 失礼だと思いつつも、金髪碧眼巨乳という言葉が浮かんでしまい、驚いた声を挙げる哀斗の目の前にはリミリーが水着姿で堂々と姿を現した。ブロンドの髪色に近い色をしたビキニ。抜群のスタイルをシンプルな水着が際立てている。巨乳の破壊力は凄まじいもので、哀斗は視線の置き場に困る。


「やっぱり、こういうのは一番が有利だと思うのよね」


 なんの話ですか? と、横の花火が首を傾げる。

 リミリーは、哀斗の前に踊り出ると、手を後ろに組んで前かがみになる。


「哀斗、ど、どう? 似合う?」


 ここが正念場だ、とばかりに顔を赤くして水着の感想を求めてきた。

 しかし、未だにどこに視線を定めるべきかも決められずにいる哀斗にとってはハードルが高く、


「か、可愛いと思うよ」


 と、たどたどしく伝えることしかできず。

 しかしリミリーは、哀斗に褒められればなんでも嬉しいのか、口を尖らせてありがと、と蒸発しそうな返事をする。

 そんな気恥ずかしさの立ち込める状況に、憧子と花火が当てられないわけもなく……。


「まずいよっ、おねえちゃん! 先を越された!」

「行きましょう花火、私たちも一刻も早く水着に着替えなくてはっ……!」


 と、2階の小部屋へと昇って行った。


「えーっと、みなさん海まで水着で行く気なんですかね……」

 という、哀斗の言葉が二人に届くことはなく。


 それから、数分後。

 憧子は、大人の色香を匂わせるパレオ、花火は幼さの際立つワンピースタイプの水着に身を包んでリビングへと。


「ど、どうでしょうか……?」

「公平なあーくんなら、きっと答えてくれますよね!」


 そして当然、リミリー同じく感想を求められるわけで。

「可愛いよ、二人とも」


 リミリーとの対面である程度、耐性がついたのか。はたまた、禁句ではあるが視覚的刺激がまだマシだからなのか。ある程度自然に返すことができた。


「哀斗、鼻の下のばしてるんじゃないわよっ!」


 だというのに、理不尽にもリミリーからは叱咤の声が飛んでくるわけで。

 3人にの板挟みにあいながら、哀斗は思い出す。

 旅行を楽しむという目的ともう一つ、彼女をつくって幸せを形にしないといけないんだった、と。


「さあ、次は海水浴イベントだ」


 と、アスモウラの声が脳内で響いたような気がした。

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