第25話

「やーっと来ましたね! 二人とも!」

 

 書庫に入ると、薄い青色の座布団の上で腰に手を当てて花火が仁王立ちして元気な声で出迎えてくれた。

 その脇には、テーブルに肘をついてスマホを弄るリミリーの姿。彼女は、ブロンドの髪色に似た黄色の座布団に女の子座りで座っている。それぞれの好みにあったような座布団は、書庫に来ることが習慣化した今となっては定かでは無くなってきていたが、いつの間にか各々持ち込んできていたものだったりする。

 哀斗と憧子は、昔からあったらしいピンク色の座布団にそれぞれ座り、4人で正方形のテーブルを囲むような姿になる。


「二人が早いんだよ」


 ホームルームが終わってから、あんまし時間経ってないし、と哀斗は思ったことを素直に口に出す。

 すると、「走ってきた花火こそが、勝ちなのです」と謎の勝利宣言が返ってくる。


「今日、集まってもらったのは他でもありません! 夏休みの予定を立てましょう!」


 花火が大仰に両腕を開くと、憧子に似た髪色のツインテールも一緒に揺れた。


「わー。すごいわねー」

「なんですか、リミリー先輩。その感情のこもってない感じは!」


 リミリーは鬱陶しそうに、別に、と前置きする。


「大事な話なんて言うから、何かあったのかと思ったのよ」

「おやおやあ~。花火のこと心配してくれたんですかあ?」

「だっ、誰もそんなこと言ってないじゃない! 勘違いしないでよ!」

「えー、でもだってえ~」 


 ぶっきらぼうな態度で虚勢を張ってはいたものの、純真無垢で心配性なリミリーの本質を見抜いた花火がおちょくる。といっても、花火自身も口元がひくついているあたり、照れくささ半分からなのは見え見えだった。


「こらこら、喧嘩はダメですよ」


 しかし、リミリーが心配するのも頷ける。『大事な話』なんて言われると色々な想像が頭に浮かぶからだ。だが、哀斗には理由がなんとなくだが予想はつきつつあった。

 おそらく、アスモウラが魔力か何かで無理やりに花火に行動させたのだろう、と。

 理由は当然、哀斗にヒロインであるリミリーか憧子のどちらかとの関係を深めさせるためのイベント作りのためだろう。

 先日、哀斗の願いが他人の願いによって叶えらていたもので、代償である寿命さえも見ず知らずの他人によって賄われていたことを知った。

 哀斗が結んだ、『主人公になりたい』願いを終わらせるためには、代償の肩代わりをさせている本人に、哀斗が幸せであると認識させる必要がある。

そのわかりやすい形として、彼女をつくる、というのがアスモウラの出した結論であり、哀斗も仕方がないと納得せざるをえない案だった。

 だから当然、花火の提案には賛成だ、そう思いながら哀斗は明るい声で話す。


「夏休みの予定、いいね。俺もなんもなかったし、どっか皆で行こっか」

「……哀斗、友達ほとんどいないもんね」

「哀斗くん……」

「あーくん元気だして!」

「いや、最近はたまに話しかけられるんだよっ。ほんとだよ⁉ だからたぶん友達ができるのも時間の問題のはずなんだ……よ?」


 段々と言葉尻が小さくなっていることを自覚しつつも、哀斗はどうんか挽回を果たした、と無理に思い込む。

どうしてか心に傷を負いながらも、話合いは進む。


「ふっふっふっ。もちろんアイデアは考えてきていますとも! 海の近いログハウスで一泊二日の旅行と行きましょうっ!」

「案としてはいいけど、この時期じゃどこも混んでるんじゃない?」


 にこにこ笑顔で提案する花火に、リミリーが水を差す。それにフォローをいれたのは、憧子だった。


「花火。叔父さんの別荘のことですか?」

「もちのろんだよっ。おねえちゃん!」

「別荘って……。もしかして明音の家ってお金もちなの?」

「ふふ。それほどでも、ですよ」

「ハナ、別にアンタが褒められてるわけじゃないからね?」


 こうして夏休み、明音家が所有する別荘に一泊二日の旅行に行くこととなった。

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