第19話

 リミリーが転校してきてから一週間。

 気さくで明るい性格のリミリーにかかれば、一週間でコミュニティを構築するのは容易らしく、既にクラスの一員として受け入れられつつあった。

 それに伴って、同級生の俺への風当たりというのも少しずつ和らいでいた。


「あの零細を餌付けしているなんて」

「ああっ、僕もあんな可愛い子に食べさせてもらいたいっ!」

「零細ってヤンキーじゃ無かったけ……? なんかうさぎみてぇ」

「最近、角が取れてきてるよね」

「私、こんど話しかけてみようかな」


 毎日、休み時間にリミリーにお菓子を食べさせてもらうのが日課になっていたからだ。別に頼んだわけでもないののに、隙あらばお菓子を口に放りこんでくるのだ。


「美味し?」

「ま、まあ……。ちょこって感じ」

「5歳時でもまだまともな感想言うわよ?」


 これも、アスモウラへの願いが成す力だろう。

 初めは恥ずかしさで死にそうだったが習慣とは怖いもので、すっかり慣れてしまっていた。『死にたいくらい恥ずかしい』から『消えたくなるくらい恥ずかしい』へと。

 哀斗は気づいた、何一つ慣れていなかった、と。

それでも、美少女にお菓子を食べさせてもらうシチュエーションには憧れが強かったし、断る理由もないのでそのままにしている。

 しかしながら、そんなシチュエーションをクラス内で演出するでリミリーが浮かずにいるのはやはり、哀斗という畏怖の対象(他生徒目線)を手なずけていることと、持ち前の明るい性格があってこそなのだろう。

補足しておくと、哀斗の傷の件についても進展があった。リミリー伝いでちょっとした不幸な事故のせい――交通事故という噂に塗り替えられつつあるのだ。クラスメイトに関していえば、ほぼヤンキーという誤解は解けつつあるといってもいい。

 現に、休み時間。以前までは淡々と教材を取り出して、一言も口を開くことが無いまま過ごすところだったが。


「零細、シャーペンの芯忘れたんだけど一本くんね?」

「お、おう。いいよ」


 こんな風に、席の近いクラスメイトに話しかけられることも珍しくなくなっていた。


「良かったわね」


 後ろの席から、リミリーが耳打ちしてくる。


「……ま、まあ別にぃ……」

「顔、赤いわよ」

「うっさいなあ」


 正直、めちゃくちゃ嬉しかった。男友達ができる日も近いかもしれない、と哀斗は期待に胸を膨らましつつあった。

 さて、他に習慣になったことといえば、哀斗は昼休みや放課後によく図書室に行くようになっていた。

 それは、憧子にPCを教える約束をしていたからだ。

 時には、花火の乱入もあって、そもそも教える時間もないままに終わってしまう日もあるものの、花火の子供っぽく無邪気な振る舞いは見ているこっちまで楽しくなるため、哀斗はむしろ花火の飛び入りを歓迎していた。


「哀斗くん……。しふとや、おるとはどうして二つあるんですか? 右と左で何が違うんでしょう」

「特に、違いはありませんよ」

「なるほど。ちなみに、哀斗くんはどういう風に使い分けているのですか?」

「えーとですね……」


憧子はまあ、先はまだまだ長そうだ……。

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