第20話 自業自得だけど、めんどくさい。

「貴方も名前がほしいの?私でよければつけましょうか」


「ぬ…先程も言ったが、名前をつけるのは慎重になった方がいい」


そう言いながらも期待しているのか狼の尻尾はぱったぱったと揺れている、尾は口ほどにものを言うらしい。


「私は貴方さえよければ構わないわ」


「……ステラ殿はもう少し警戒した方がいい。我が名前を得た後、害を成したら取り返しがつかないだろう」


「貴方は弥太やマオの友達でしょう?ならそんなことしないと思うけど…」


「………む」


私の言葉に狼は暫く考える素振りを見せる。


「……素直に名前ほしいって言えばいいのにな」


「ほんとよね、変なところで頑固なんだから」


私の両サイドで弥太とマオが苦笑している。それに背中を押されたのか狼は私の方に前足をてしっと差し出した。


「……………頼めるだろうか」


「もちろんよ。貴方の名前は…銀狼でどうかしら?」


弥太と同じく安直だがそれが一番覚えやすいだろうと思いそう告げると、狼の体は白い霧に覆われた。

弥太やマオの時とは違うがこれで人型になるのだろう。

暫くじっと見守っていると霧が晴れ、長身の男性が姿を表した。

銀色の髪を短く揃えしっかりした体格で白いシャツに黒いズボンを纏っているとてつもないイケメンだった。


「やだ、銀狼ったらいっけめーん!ふふっ、一緒のご主人なんてラッキーね!」


マオはぴょこぴょこ飛び回ると私達の顔を見渡して嬉しそうに笑った。その笑顔についつられて頬が緩む。



……契約上の関係なのかもしれないけど、私は友達だと思いたいなぁ…うん、勝手に思ってる分にはいいよね



こうして弥太につれてきて貰った場所で私は人ではない友人を作ることに成功したのだった。





その後は人の型を得た三人と一緒に、弥太達の住んでいる場所を見学させてもらった。

畑仕事している住人のお手伝いをしたり、村の子供達と遊んだりしてとても楽しかった。

こんなに楽しいと思えたのは生まれて始めてかもしれない。

たった半日で私はすっかりこの村に馴染んでいた。




◇◇◇

日も沈み始めた頃、私は懐いてくれた子供達にまた来るからと約束をして帰り道を弥太に送って貰っていた。

マオと銀狼も同行してくれている。


「……今日は本当に楽しかったわ、弥太達と出会えてよかった」


私がそう告げるとマオが私の腕に抱き付きながら嬉しそうに笑う。


「私達だってステラちゃんに会えて嬉しいよ、名前も貰えたしなによりすっごく可愛い子が主人になってくれたんだもん!」


「マオったらおだてても……お菓子しか出ないわよ?」


「お菓子出るんだね」


お世辞と分かってはいるけれど褒められて悪い気分にはならない、今度来る時は何かお菓子を作ってこようと決めた。

今日始めて会ったのにまるでずっと昔から友達だったかのように私達は仲良くなれたと思う。


「よーし、着いたぞ」


弥太がそう告げてヤタガラスの姿に戻り、三回羽ばたくと来たときと同じ様に何もない空間に穴が開く。

その先に見えるのは学校の屋上だ。


私はその穴を通ると振り替えって手を振った。


「それじゃあ弥太、マオ、銀狼。またね」


「おう、気を付けて帰れよ!」


「次来るときはお土産があると嬉しいなっ」


「…マオ、自重しろ。何かあれば呼んで欲しい、我らはすぐにステラ殿の元に駆けつける」


「えぇ、ありがとう」


また会える、それだけで胸の奥がじわりと暖かくなった。

空間を繋ぐ穴が完全に閉じてしまうまで私はずっと手を振り続けた。



穴が跡形もなく消えてから私は校舎の中に戻る。

昇降口に出た辺りでぐいっと強く腕を引っ張られた、驚いて振り返るとそこには真っ青な顔色をしたアステルが立っている。


「どこに行っていたんですか貴方は!」


いきなり怒鳴られた。


……午後の授業サボっちゃったから怒られてるんだろうけど…

うん…いや、自業自得だけと面倒なことになったな

さて、どうやって乗りきろうか…


そんな私の窮地を救う様にアステルの後ろからもう一人の声が聞こえた。


「お姉様!良かった、無事で!」


私の胸に飛び込んできたのは瞳に目一杯涙を溜めたスピカだった。

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