第11話 深く考えるとか、めんどくさい。

眠ってしまったスピカの部屋を出て、そっと自分の部屋に戻る。

するりと扉を閉めて鞄を置くと息を吐いた。


今日は色々あったなぁ…こんな日は秘蔵のおやつを食べて気力を補充しないと…


勉強机の一番下の引き出し、その奥から小さな小箱を取り出すと鞄から鍵を取り出して小箱を開ける。

この中には少しずつ買い貯めたり作ったりしたお菓子が入っているのだ。

スピカも知らない私の秘密。


「今日はこれにしよう」


小箱に詰められたお菓子の中から薄い紙に包まれたものを取り出す。

紙を丁寧に広げると薄く焼き色のついた小さなあられが姿を表した。これはこの前、誰もいない隙を狙って調理場で作ったものだ。

この世界で使われている餅米に似たものを材料として使っている。


我ながらうまくできたなぁ…もうちょっとお塩欲しい…あと緑茶があれば最高…


ポリポリとあられを食べながら窓辺に割れてしまったあられの欠片を撒く。鳥が食べてくれれば部屋にカスを残すことはない。

小鳥が来ることを期待して外を眺めていると目の前にぼとりと黒い塊が落ちてきた。


………ごみ袋?いや、この世界に真っ黒なごみ袋とかないか

じゃあなんだろ?生き物……?


その塊の正体を明らかにすべく観察していると黒い塊が勢いよく立ち上がった。

ぎろりと光る目、鋭いくちばし、大きな真っ黒い翼、それは前世でよく見たことがある生き物だった。

――三本生えた足以外は。


「………カラスってこの世界にもいたんだ。しかも三本足…君はヤタガラスなのね」


三本足のカラスはヤタガラスと呼ばれ、神様の遣いだとか言われていた気がする。


西洋に近い乙女ゲームの世界にヤタガラスって居るのかしら…?

……まぁいっか、今目の前に居るわけだし深く考えるのは面倒だわ


目の前に落ちてきたヤタガラスは足を怪我しているようだ。三本足のうちの一本から血が流れている。それだけでなく翼からも赤い血が出ていた。

警戒してるのに逃げないのは飛び立つことが出来ないからだろう。


「ちょっと動かないでね、今治してあげるから」


警戒心剥き出しでこちらを睨み付けるヤタガラスに、言葉がわからないだろうと思いながらそう語りかけてそっと足と翼に治癒魔法をかけると傷口が塞がっていく。

暫く何が起きたのか分からずこちらを警戒していたヤタガラスは傷が治った事を理解したのだろう。数回足踏みをしたり、翼を動かして不調がないかを確かめている。

その様子が可愛らしく思えて口元が緩むのを感じた。


「これもどうぞ」


ヤタガラスが逃げないのを良いことに気を良くした私はまだ残っていたあられを紙ごと前に置いた。食べないと思っていたが暫く臭いを嗅いで危険なものではないと判断したらしい、紙ごとぱくりとくちばしに咥えるとそのまま窓辺から飛び去ってしまった。


「あ、紙は食べちゃ駄目だよー」


飛び去る背中にそう告げてみたけれどカラスは頭がいいし大丈夫だろう……………………………多分

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